#7.8 "新たな鍵"
ペイル・メイラーがクレフに敗北してから二日後。
オルフェアの王都ルシエル、そこにそびえる王城。
ペイルはその一室で、療養していた。
ウォーメイルとはいえ、破壊されるほどのダメージを負えば、使用者にかかる負荷もそれなりのものだ。傷のような見える形ではないが、体には確かに戦闘のダメージが残っている。
ペイルが敗北して帰還した際、ジョゼ・キョンクは『目論み通り』だとでも言うように笑った。また、王家は彼の労を労いつつも、またしてもクレフを倒せなかったことに残念な様子を見せた。
だが、ペイル自身は満足だった。
自らの流儀をもって決闘に挑み、そして力を尽くした結果として敗れたのだから。
立場上、今回の敗北は、彼が師事したジェイド・ブドールの顔に泥を塗ったことにもなるのかもしれないが、それもいい。最高の爵位『デューク』を冠するジェイドの力は、この程度で疑われることなどない。
貴族の爵位は単に武力だけでは決まらない。だがデュークは例外なく、この惑星の貴族の中でもトップクラスの武力を持ち合わせている。つまり、ジェイドは圧倒的に強い。
今ペイルが思うのはむしろ、激戦を重ねた相手、クレフがどうなるか。
次に出陣する貴族は、おそらくジョゼ・キョンク。
彼のウォーメイルの能力は、一対一の戦いで真価を発揮する。
そして彼は、既に部下を出陣させたことで布石を打っている。
また、そもそもクレフは敵の能力を知らないが、出陣するオルフェア側の貴族はクレフの戦力を知っている。
様々な要素を考慮する度に、ペイルの頭の中で算出するクレフの勝率が、みるみる低下していく。
だが、それでもペイルは思わずにはいられない。
「あの少年が、易々と負けるとは思えんがな」
敵にエールを送るつもりはない。だが、剣を交えた好敵手相手ならば、少しだけ応援に似た気持ちを抱いてもいいのではないか。そう思った。
***
地球。十字市。日本のガーディアンズ本部。
戦闘のダメージを癒すために療養していた那一も元通りに活動できるようになり、稲森と共にガーディアンズの研究室を訪ねていた。
多くの技術者達が作業をし、主にクレフの修理、解析にあたっている。
その中の一人で、クレフ関連の技術面についての責任者である円城長久が那一と稲森に気付いた。
「おお、来たか」
寄ってくる円城に、稲森が頭を下げる。
「お世話様です」
「はは、堅苦しいのはいいって言ってるだろ」
そう苦笑しつつ、那一の方を見た。
「そういえば、この間の戦闘はずいぶん派手にやったな」
『派手』というのはつまり、プロトウェポンの破損状況を指している。至近距離での『プライムバースト』によって、銃形態のプロトダブルウェポンは銃身が歪むほどの負荷を受けた。まともに使えない武器は戦闘中は捨て置いたが、戦闘後に回収されて、この研究室に運ばれた。
「おかげで、修復作業が忙しくてな」
「すみません」
那一が頭を下げる。
もっとも、傍らの稲森が見る感じでは、さほど悪びれた風もない。だが、無理もないだろう。たった一人で敵と戦い、その上で武器まで気遣えとはとても言えない。
円城は笑った。
「冗談だよ、冗談。お前は確実に自分の役目を果たしている。その結果として武器が壊れて直すことになろうが、こっちはそれが仕事なんだ。気にすることはない。ガンガン使って、ガンガン壊せ」
「ありがとうございます」
「『ガンガン壊せ』なんて言うと、こいつならホントにやりかねない気がしますけどね………」
稲森が苦笑して口を挟む。
「まあ、プロトウェポンの方なら、既に予備をもう一つ作ってある」
そう言った円城は、研究室の中の一角に案内した。
そこには、明らかに破損した、那一がこの前の戦闘で使用した物があった。そしてその隣に、無傷のプロトダブルウェポンが置かれていた。
「まあ、量産型ウォーメイルの残骸には相変わらず困らないからな、これぐらいなら増産できたってわけだ」
円城は照れたようにそう言ったが、続くのはやや苦い笑み。
「だが、クレフにあらかじめ装備されていたデュアルウェポン、あれと同じものはまだ作れない」
「何かネックが?」
「簡単に言えば、エネルギー効率の問題だ」
プロトウェポンは、ソルジャーウォーメイルの武器から開発することができる。しかし、クレフのデュアルウェポンはそれよりもエネルギー効率が高く、それが全体的な性能の差に直結している。より少ないエネルギーで高威力を実現し、さらには負荷がかからないため破損しにくい。
「これはクレフ自体にも同じことが言える。量産型ウォーメイルより、クレフはエネルギー伝達に優れている」
そう言った円城は、ため息をついた。
「たしか、クレフが開発されたのは約百年前だったな。それが本当なら開発した人間は本物の天才だ。百年後の俺達が、まだ到達していないレベルの技術なんだからな」
その後、スペアのプロトウェポンを転送用のキーとリンクさせる作業などを行い、円城との話があらかた終わった。
そんな時、円城が思い出したように那一に言う。
「そうだ。前に王女様のペンダントと共鳴して、ドライバーが転送用のキーの立体映像を表示したことがあっただろ?」
「はい」
もちろん覚えている。
リエラのペンダントとクレフドライバーが青い光で繋がり、物質転送用のキーの設計図を映し出した。そのおかげで、今はプロトダブルウェポンを戦闘中に自由に装備することが可能なのだ。
「あの時の設計図を、できることならもう一度見たい」
「分かりました」
そう言って、那一はサモナーを腰に巻いた。
いきなり腰に身に着けた那一を見て、稲森が疑問に思う。
「おい、王女様を呼んでくる必要はないのか?」
「いえ、問題ないです」
そう言った彼の頭には、サモナーから情報が直接流れ込んでいる。
それによると、どうやらリエラのペンダントによってロックが解除されたということらしく、一度解かれた今となっては、資格者である那一自身の意思があれば情報を開示できるようだ。
「なら助かる。始めてもらえるか」
「はい」
円城が部屋にいた研究者・技術者達を集める中、那一はベルトから情報を引き出す。
水晶から青い光が放たれ、その光が像を結ぶ。
あの時と同じ、転送用のキーの設計図。
「これだ。これをもう一度見たかった」
研究者達に指示して前回同様に映像記録を録らせつつ、円城は手元の手帳に色々と書き込んでいく。
熱心に、目線は映像と紙面を行き来した。
そんな中、サモナーを着けた那一だけが、前回とは異なる点を感じ取っていた。
自らそれを確認し、確信するまでに数十秒。
それから、彼は円城に声をかける。
「円城さん」
「ん、どうした?」
「おそらくですが、前回は見られなかった情報を開示できます」
その発言に場がざわつく。
「本当か?」
円城が勢い込んで訊ねた。
「はい、やってみます」
そう言って那一はベルトに伝える指示を変化させる。
それに従い、ベルトの水晶が投影する立体映像も、別の形へと変化を始める。
「これは……」
現れた立体映像も、また鍵の設計図であった。
それも二本。
二つの鍵の映像が空中に浮かび、並んでいる。
「転送用の鍵か?いや……」
映像を眺める円城は気づく。そして同様のことに、那一も、稲森も、他の研究者達も気づいていった。
サモナーから直接情報を得られる那一が、その情報を皆で共有するために声に出す。
「これは、特定の物を転送するための専用の鍵みたいです」
「なるほど、『任意の物を設定して』転送する汎用性のある鍵とは違い、この設計図の鍵は『既に転送するものが設定されている』専用の鍵ということか」
「はい」
稲森の解釈を肯定する。
「じゃあ、その転送するものは……」
彼らは、あらかじめ転送するものが設定されている鍵を、一つだけ知っていた。
それは、那一が初めから使っていた鍵。
「『オリジン』の鍵と同じです。これらは、クレフの鎧を転送するための物です」
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