#7.6 "決闘者達"

クレフとデュエルウォーメイルは、ほぼ同時に駆け出した。

約束された一撃を放つため。

最後の一蹴り、それと同時にデュエルが両手の剣を振りかぶる。

勢いを乗せ、両手の剣が斜め十字の軌道を描く。

だが、その十字の交点には、クレフは既にいなかった。

クレフは宙を舞っている。

予定調和であったはずの激突を無視し、跳躍したクレフはデュエルの頭上を飛び越えて、その向こう、つまりソルジャーウォーメイルを狙う。

落下するクレフが握るデュアルウェポンの刃が、『傍観者』だったはずのソルジャーを襲う。

ソルジャーはバックステップを踏んで緊急回避。

しかし、クレフの剣先からは逃れ得ず、浅く胸部を切り裂かれる。

直後、クレフは横へ跳ぶ。

位置関係からして、背後にはデュエルウォーメイル。

そんな状況を逃れるための回避だった。

しかし、デュエルはクレフを攻撃しない。

ただ、その場で振り向く。

「なぜ、俺ではなくそちらのウォーメイルを狙う?」

ただ、疑問だった。

クレフは特に隠す必要もないと思い、あっさりと答える。

「あちらの方が弱い。先に潰しておけば数が減る」

それは戦のセオリー。

いかに量産型ウォーメイルとはいえ、数が多ければそれだけで優位。その優位を失わせるには、敵の数を減らせばいい。

だが、デュエルウォーメイルは納得しない。

もし生身なら、首をかしげる仕草をしていたかもしれないところだ。

「あれは『傍観者』だと、言ったはずだが?」

それに対してクレフは、にべもなく答える。

「お前の言うことを、信じる道理はない」

それが、彼にとっての『当然』。合理的スタンダードだ。

「ううむ……」

デュエルウォーメイルは唸る。

と言っても、怒りや不快さはなく。むしろ、愉快そうに。

クレフが動いた。瞬時にデュアルウェポンを変形させ、剣は銃になる。

銃口を向けた相手は、やはりソルジャーウォーメイル。

撃つ。吐き出される三発の光弾。

一発はソルジャーが動いて回避し。

二発目は取り出した剣によってガードされる。

だが、三発目はガードを掻い潜り、腹部に当たった。

火花。

ソルジャーは地を擦りながら後退。

残るデュエルを警戒するクレフではあったが、敵は動こうとしない。

その様子に、ソルジャーが声を上げる。

「メイラー様!なぜ、動かれないのですか?」

そのある種苛立ちとも取れる声に対し、デュエルは淡々と答える。

「……『互いに不干渉』。これがお前の主君との間に定めた契約だ。お前もそのことは知っているだろう?」

「ぐっ……」

反論はできない。

確かにその通りで、それは彼の主君であるジョゼ・キョンクの方から持ちかけた話でもある。

たとえ、こんな状況を予期していなかったにせよ。


クレフは追撃を続け、弾丸が精確にソルジャーへと迫る。それを避け、あるいは防ぐが、全てに対処することはできず、被弾を重ねる。

さらに、銃弾に気をとられていたソルジャーの視界の隅に、影が出現する。

それは接近してきたクレフだった。銃撃に敵の意識を割かせた隙に、肉薄していたのだ。

突き出された右の拳に、ソルジャーは反応すらできない。

よろける。

さらに、クレフが左手をを、握る銃ごと突き出した。

銃口がソルジャーの胸に当たる。

引き金を引いた。ゼロ距離での射撃に衝撃が弾ける。

ソルジャーウォーメイルは宙を舞い、後方へと飛ばされた。

落下して、上がる土煙。

それでもソルジャーは起き上がる。

ウォーメイルはただの兵器、その表情は変わらない。だが、土煙を被ったその姿は苦痛を覚えているようでもあった。

ジョゼ・キョンクの部下として、彼には使命がある。それは、クレフの戦闘を見た上で、『無事に帰還する』こと。現在、まだクレフの動きを十分に見たとは言えない。しかし、このままいけば、狙われ続け、いずれは倒されるだろう。

その考えを読んだかのように、デュエルウォーメイルが声をかける。

「撤退しても構わんぞ。そのことにも私は干渉する権限を持たない」

「くっ……」

ジョゼの臣下として、忸怩たる思いを抱えながらも、決断する。

「……撤退させていただきます」

クレフと離れている今の隙に、オルフェアへの撤退を決断する。

光の幕がソルジャーを包み、そしてその金属の肉体を異次元へと転送する。


一瞥してそれを見届けるや否や、デュエルウォーメイルはクレフの方へ向き直る。

クレフもまた、今やただ一体のみになった敵の方へ意識を集中させる。

「礼を言おう、おかげで邪魔な露は払われた」

クレフはそれに答えない。そんな気など微塵もないからだ。

彼は最適な行動を取っただけのこと。敵の言うところの『決闘』のためではない。

敵は倒す。ただそれだけだ。

クレフは鍵を一つ取り出す。

それをベルトの鍵穴に差し込んで回す。

「転送」

光が左手周辺に集まり、そしてその光が晴れるとき、そこには一振りの武器があった。

プロトウェポン。デュアルウェポンに酷似した、サブの武器だ。

「ほう」

それを見たデュエルが感心したような声を上げる。

この武器は前の戦いの時には無かったものだ。


クレフは二振りの武器を双方とも剣にして、構える。

目の前のウォーメイルのように、二刀流だ。

「いざ参る」

デュエルが駆け出す。

その足は徐々に速く。奮う心が足に表れ、速くなる。

そして目標の眼前で、両の剣をそれぞれ斜めに振るった。

クレフもそれに反応している。敵の剣の軌道上に、自らの剣をそれぞれ置くように構える。

実体を持つ剣と実体無き剣 。しかし、どちらも高エネルギーを秘めていることに変わりはない。

衝突。

互いに2本ずつの剣なので、その音は重なり、響く。

さらにスパークも激しく音を立てる。その光に照らされて、クレフとデュエルウォーメイルは至近距離で互いを睨み合う。

そこには憎しみや怒りはなく。

片や、決着をつけることへの喜びに満ちて。

片や、防衛のために敵を迎撃する。

そこに埋めようのない溝があって、だから彼らの激突は避けようがない。

弾く。

弾いたのは両者で、弾かれたのも両者。

後退する。

だが、一歩退いた後に、二体はまた足を前へ。

再び両手の剣を振るう。剣と剣の激突が二組。

再び重なって響く音。

剣が弾かれては、すぐにまた相手に襲いかかり、そして相手の剣に阻まれる。

互いにそれの繰り返し。

反復する。

未だ互いに傷は与えず。

積み重なるのは剣の音だけ。

音。

音。

また音。

重なる音はそこに留まらない、すぐに消える。


埒が明かない。

そう2人が同時に思った。


その同一も、もはや偶然ではなく必然。

双剣をぶつけ合う彼らは、ある意味で、一つの舞を踊るパートナーのようなものなのだから。

しかし、『埒が明かない』と思ったことを境に、舞は終わりを迎える。

もはや彼らは同じことをしない。

互いの裏を掻くために、変化を起こす。

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