#6.2 "暴きだす青の光"
骸が並ぶ。
かつては、人間の意思を宿してクレフと戦った兵器達。
オルフェアが誇る叡智と力の象徴、ウォーメイル。
ウォーメイルの残骸は、大きな破片から細かい屑まで可能な限り収集され、貴重な研究材料となっていた。
今、研究者達が集中して取り組んでいるのは、クレフと近い形のソルジャーウォーメイルの分析。
他の一点物のウォーメイル、『アーム』と『ホッパー』とは異なり、ソルジャーは数が多い。一つ一つは残骸で不完全だが、それぞれを集めることで完全な形が浮き彫りになる。バラバラに発掘された恐竜の化石を繋ぎ合わせるようなものだ。
また、ソルジャーはその形状が最もクレフに似ていた。武器も銃と剣を切り替えられ、クレフの武器に近い。これらを解析することで、オメガプライムの伝達方式や武器として使用する際のシステムが少しずつ明らかになっている。
その成果を応用し、武器は復元されつつあった。
「この短時間で、ここまで分かったんですか」
成果物についての概要を聞き、稲森は素直な感想を述べた。
「いや、我々技術者だけでは到底ここまで辿り着けなかった」
そう言って、円城長久は那一に目をやる。
「彼のおかげだ、可能な限りクレフから情報を引き出せたことが、解析に役立った」
「なるほど、それで那一は最近研究室にいたのか」
「はい」
復元されたソルジャーウォーメイルの武器が置かれている。まだコードが繋がれ、内部機構が剥き出しになっているが、既に機能は8割方再現されているらしい。
「これはデュアルウェポンとほとんど同等に使える。暫定名称は『プロトウェポン』だ」
「武器が2本になれは、それだけで戦闘における選択肢は広がるな」
そう言って稲森は那一の方を見た。きっと彼の頭の中では、既に新たな戦術のプランが出来ているのだろう。
「せっかくだ、テストしてみよう」
円城の一声で、復元されたされたソルジャーウォーメイルの武器のテストが行われることになった。戦闘で使用するわけではないので、未調整でもどうにかなる。
那一がサモナーを腰に装着した。
「いきます」
左腰の鍵が収納されたホルダーから、いくつかある鍵のうち、コマンド『オリジン』の黒い鍵を掴む。
とそこで、稲森が思いついたように言う。
「そういえば、その腰に付いてる他の鍵はどうなっているんですか?」
その質問に、円城が困ったように頭を掻く。
「そうなんだよなぁ。少なくともクレフの鎧に関係するものじゃないみたいだが、使い道がな、まだ分からんのだ」
腰に収められたその他の鍵は、今那一が掴んでいる『オリジン』の鍵とはデザインが多少異なっている。そもそも『オリジン』の鍵が黒いのに対して、残りの鍵は全て銀色、しかも同じ形のものしかない。
那一が呟く。
「おそらく、全て同じ性能を持ったもの」
「確かに、その可能性が高いか」
むしろ『オリジン』の鍵が特殊という考えだ。とにかく、ひとまずその件についての考えは後回しにして、テストを再開する。
那一が鍵を差し込もうとした。
その時、研究室に入ってきた少女。
オルフェア王女、リエラ・シューヴァント。
2人のガーディアンズ隊員に付き添われている。
彼女は普段、オルフェアの情報を提供する仕事にあたっている。もちろん、那一や薫とは違ってガーディアンズ隊員ではない。しかし彼女自身の意思もあって、一日も休まずに絶えず情報提供と説明を行っている。
おかげで、少なくとも彼女が知る限りのオルフェアについての情報は、ガーディアンズで共有されている。
今、リエラはその仕事の合間に研究室を訪れたのだ。
訪問の理由は単純で、最も親しい地球人である久馬那一がここにいるから。
付け加えるなら、オルフェアの国宝であるクレフが、現在どのような状態にあるかの確認もしたいと考えていた。
「那一さん」
サモナーを着けた那一を見つけ、近づいてくる。
彼は掴んだ黒い鍵を差し込む動作を中断した。
リエラはそんな姿をしげしげと眺め、言った。
「久し振りに見ました、那一さんがそれを着けているのを」
「ああ」
那一もそうかもしれない、と思った。サモナーを着けるのは、襲撃してきたウォーメイルを撃退するとき、つまり戦場ということになる。
彼女がほとんどこの姿を見ていなくても無理はない。
彼は思い出す。
オルフェアからの最初の襲撃があった時のこと。彼女が呼び出したクレフドライバーを、那一は使った。そのことを那一が思い出していると、リエラが言った。
「懐かしいですね、もう遠い昔みたいです」
「確かに、そんな気もするかな」
リエラが首元からペンダントを取り出す。
オルフェア王家に伝わる品で、クレフを呼び出す鍵となったペンダント。
ペンダントは白銀の金属でできていて、中央には青い水晶。
それは、サモナーと似た外観だった。
「似てますよね、それと」
それも当然。サモナーとそのペンダントには、深い繋がりがある。
突如として、ペンダントの水晶が輝く。水晶自身と同じ、青い光だった。
「何!?」
一瞬だけ放射状に広がった光はすぐに収束し、青く細い糸のように、サモナーの水晶部分まで延びた。
光の直線で繋がった、ペンダントとサモナー。
そして、サモナーが声を発する。
「信号確認、ロック解除。内蔵データを表示します」
水晶から、発せられる光。
青い光が広がっていき、何もない空間に像を描き始める。
光が結ぶ像は最初は輪郭すらぼやけていたが、徐々にその輪郭は一本に収束し、さらにはその像に色までがついたようになった。
そこに映し出された像は……。
「鍵?」
那一も稲森も円城も、すぐに気がついた。
これは、クレフのベルトのホルダーに何本も収められた鍵と同様だ。
映し出されたのは3次元映像であり、触れることはできないが、立体的な視覚情報を与える。さらに各箇所に関して細かな数値やグラフなどが表示されていた。
技術者である円城はすぐに気づく。
「これは、設計図じゃないのか?」
そう言いながら、素早く映像の隅々まで目を走らせていく。
円城の顔は確信に満ちていく。
「間違いない。これは……おい!急いでこの映像を記録に残してくれ!」
すぐに、その場にいた何人かの技術者達がすぐにカメラなどの記録媒体を用意し、この光景を保存し始める。
那一や稲森も、現れた映像に目を見張っていた。
ペンダントの持ち主であるリエラだけが、状況を理解しつつも困惑し、おいてけぼりの様子だ。だが、目の前の映像をしばらく眺め、それから彼女は思いつきを口にするように、確信はなさそうな口調で言った。
「……やはり、メイルキーとよく似ていますね
メイルキーのことは、リエラの情報提供によって、地球側も知っている。
そして、那一は彼女の呟きから、彼女の意図以上のものを読み取った。
「円城さん、この鍵はおそらく、クレフやウォーメイルにも使われている、物体の転送に関わっているんじゃないですか?」
円城はその言葉に、すぐに反応した。
「そうか、その可能性は高いな。まあ、とにかく解析してみよう」
いくつもの謎を抱えながらも、人間は目の前に道が開ければ、その道を進んでみたくなる。今、様々な疑問を押し隠しながら、サモナーから明かされた情報の解析が始まった。
***
オルフェア。
カリリオン家の居城。
応接室にセイムは入る。
既に中に通されていた、客人ランス・ジルフリド。
ただし客とは言え、爵位や勢力の差は明らかであり、またセイム自身がランスに敬意を抱いているため、ランスの立場が上になる。
「ランス様、一体どのような用件でこちらに?」
「いや、すまない。君に、より正確に言うならば、カリリオン家当主に、少し相談があってね」
「相談、ですか?」
「ああ。今起こっている戦争、地球との争いについてだが」
セイムはそれを聞き、納得すると同時に難しい顔を見せる。
確かに今起きている戦争の話と言うならば、事態は一刻を争う話であり、ランスは急いでこちらまで来たのだろう。
しかし一方で、この件については自分では荷が重い気がしている。
まだ当主を継いだばかりの、少年であるセイム。そんな彼が、オルフェア全土に関わるこの大きな事件について、できることは多くないはずだ。
そして、彼がまだ非力な貴族であることは、ランスとて十分に知っているはず。
ならば、なぜ自分のところへ来たのか。
ランスはセイムの表情に疑問や困惑といったものを読み取り、説明をするように語り始める。
「私は、王城の牢獄に幽閉された王女リエラ様の侍従、ポート・ダズールに会ってきた」
ランスは語る。王家に仕えるダズール家の忠誠心、そして『ポート・ダズールがリエラの逃亡へ加担したのではないか』という、彼の推測を。
セイムは驚く、が同時に、まだ話の着地点が見えない。
「では、そのポート・ダズールがリエラ様の逃亡を助けた、と。でも、それがランス様の相談とどんな関係が」
「ああ、問題はそこだ。私が言いたいのはつまり、ダズール家のように真に王家のために戦える家の人間も、戦争を止める動きに加担している場合があるということだ」
ランスはそこで、セイムに強い視線を向けて言う。
「そして、今私の目の前にいるのは、カリリオン家の人間。王家に忠誠心を誓う騎士だ」
「確かに、カリリオン家は王家の騎士であることを重んじてますが……」
話の方向がぼんやりと見えてきた。
「そういう人間こそ、私が求める人間なんだよ……この戦争を、早々に終わらせるために」
***
一方、王都ルシエル。
ここに、今何人かの貴族が集まってきていた。
彼らの爵位は『ヴァイカウント』。
『バロン』よりも上の爵位。
彼らは、王家の召集に従い、地球への出陣をするべく、王都まで出向いてきたのだ。
今ここにいるヴァイカウントは3人。
ペイル・メイラー。
チェイセン・ロンハ。
ジョゼ・キョンク。
謁見の間。
国王ガイセルが、集まった3人の貴族に対して挨拶を述べる。
「よく集まってくれた、感謝する」
それに対し、うち一人のチェイセン・ロンハが応える。薄い笑みを貼り付けたような表情で。
「いえ、王家の命令とあれば、我々貴族は喜んで応じます」
「うむ」
その様子を見ながら、玉座の傍らに立つオルフェア王子。ガロン・シューヴァントは苦虫を噛み潰すように、一瞬だけ表情を険しくする。
「王家の命令とあれば……」などとは、よく言ったものだ。野心溢れる彼は、このタイミングをわざわざ狙って召集に応じたのだろう。
一般兵士数名と『バロン』の貴族2名が次々と敗れて帰ってくる現状。この状況で武功を立てれば、爵位は一気に上がり、オルフェア内での勢力は大きなものになるだろう。
しかし、ガロンはすぐに表情を改める。
同じことを考えているはずの父ガイセルは、顔色一つ変えずに、王としての挨拶をしている。自分も王子としての立場を考えなくてはならない。
そして、ふと思いを馳せる。
姉リエラが地球へ向かったのは、王女としてだろうか。
それとも、一人のオルフェア人としてだろうか、と。
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