#5.4 "予想しなかった声"
東と西。
大通りの両側に立ったソルジャーウォーメイルから放たれた銃撃。クレフは片方の射線から逃れるべく前に駆け出すが、それは相手側も読んでいたことで、あえて2つの銃撃は角度をずらして撃たれていた。
肩に銃弾が炸裂する。西にいたソルジャーウォーメイルの銃撃だ。
だが、その衝撃に怯むこともなく、クレフは銃撃をソルジャーウォーメイルに放つ。
弾丸が衝突し、相殺される。その隙に、クレフは一気に駆け出し、敵の懐を狙う。
攻めるのは西のウォーメイルの方。
その間も東の敵が、クレフの背中に銃を向け、引き金を引き続ける。
何発か当たるが、クレフはその被弾を必要コストと割り切り、無視した。
目標に近づく。
クレフの視界は狭まり、その収束点に敵の姿がある。
手に持った武器を剣に変えた。同時に、敵もまた武器を剣に切り替える。
交錯する刃。
斬り結ぶ。
何度も。
何度も。
何太刀も。
その隙に、もう一体もクレフに迫っていた。
銃を撃つたび、銃弾はクレフに命中していく。
被弾の衝撃に耐えながら、クレフは剣を振り続ける。目の前のウォーメイルも的確に防御する。だが、クレフとソルジャーウォーメイルではそもそも運用しているオメガプライムの出力が違う。
防御を続けている間に、クレフの剣が押す展開になっていた。
だが。
「ぐ、らあぁぁ!」
気合と共に、劣勢を覆すため、半ば強引にウォーメイルが押し返す。
クレフはバックステップ。回避しきったかに思えたが、切っ先は胸に当たる。
散る火花。
だが、クレフはそれを受けた直後に、半身をずらしながら一歩踏み出した。
左手でバックルのレバーを引くと、女性の電子音声が響く。
「プライムバースト」
ウェポンの刀身、つまりオメガプライムで構成された刃が眩い輝きを放つ。
今度は敵が回避をする番だった。
しかし、クレフの剣はオメガプライムの収束によって伸び、その間合いからは逃れられない。水平に、敵のボディを切り裂いた。
敵が切り裂かれた箇所からスパークを散らせる中、クレフの背後からもう一体が迫る。その事を把握していなかったわけではないが、正面の敵と斬り合っていたため、完全には位置を把握していなかった。
クレフが考えていたよりも敵は近くに迫っていて、そして既に武器を切り替え、剣を振りかざしていた。
***
その光景は、十字市内の各地に設置されている定点カメラでもモニターされていた。
その情報はガーディアンズ本部の作戦司令室に届き、そこにいた『彼女』は、戦う彼に向かって声を上げた。
***
那一の手に渡った後に、技術者達の手によってクレフに搭載された通信機。
その回線が開き、声が聞こえた。
那一が予想しなかった声。
だが、その声は彼にとって、馴染みの深い声だった。
「那一、後ろ!!」
その声に驚き、しかし聞こえた内容には瞬時に反応し、クレフは振り切ったばかりの光剣を構え直して振り向く。
目前には剣を振り下ろすソルジャーウォーメイル。
コンマ数秒の差で、相手の剣の軌道上に、自らの剣を割り込ませた。
ぶつかり合う剣と剣。
ただし、クレフの剣は出力を上げた直後で、強いエネルギーを帯びたままだ。
ぶつかり合った剣と剣は、一瞬の均衡を示した後に勝負を決する。
敗れたのはソルジャーウォーメイルの剣の方。
実体を持たないオメガプライムの刀身だが、砕けるように掻き消された。
続けてクレフが振り切り、その刃はソルジャーウォーメイルを捉えた。
斜めに斬った痕。火花は激しく咲く。
切り裂かれた2体のウォーメイルは同時に爆発した。
至近距離の爆発に挟まれたクレフ。
しかし、ウォーメイルの爆発は敗北の副産物であって、殺傷能力が低い爆炎と爆風はクレフを傷つけない。
クレフは武器を腰に収め、すぐに開いたままの通信回線に呼びかける。
『クレフ』ではなく、久馬特別准尉でもなく、ただの久馬那一として。
「薫?」
先程聞こえた声と同じ声が答える。
「うん」
その声はやはり間違えようもない、親しい幼馴染み、千崎薫の声だった。
「どうして?」
疑問の声はしかし、彼女の緊迫した声によって掻き消される。
「説明は後で!ウォーメイルがまだいるの!」
薫が位置情報をすらすらと読み上げる。
そこに、ソルジャーウォーメイルが2体いるらしい。どうやら、クレフが交戦を開始した直後に転送されてきたようだ。
「陽動、かな……」
那一は推測する。
2体がクレフと交戦することでクレフを釘付けにし、その隙にもう2体のソルジャーウォーメイルを転送し別行動を行う。
目的は、王女リエラ・シューヴァントの捜索と奪還か。
たった今倒したソルジャーウォーメイル2体のいた場所で、立ち上がる男達。ウォーメイルとリンクしていたオルフェアの兵士だ。彼らは目的を果たしたとでも言うかのように、一切表情を変えずに姿を消した。転送される際に生じる光のカーテンが一瞬だけ空間に漂い、残滓も立ち消える。
敵のウォーメイルがいる地点はそう遠い位置ではない。
敵のいる場所へ、クレフは移動を開始した。
***
ソルジャーウォーメイル2体は、十字市の市街地からわずかに離れた地点へ転送されていた。
場所はややガーディアンズ本部に近い。
それは彼らにとって好都合であった。
彼らはオルフェア王家、シューヴァント家の兵士。
目的は一つ、王女の保護。
そして、おそらく王女が敵の基地にいるであろうことは予測されている。
ソルジャーウォーメイルは動き出す。
ガーディアンズ本部へ向かって。
囮になっている他の2体がクレフを抑えているはず。
彼らは、そう思っていた。
だが、その瞬間、近くのビルの陰から飛び出す物体。
一瞬、警戒していたクレフかと思ったが、違う。
それは4本足で、人型ではなかった。
サグナ・コロリアの襲撃の際にも使用された、ガーディアンズの無人兵器、『ハウンド』。
動き回りながら、ハウンドは背中の砲台から弾丸を撃つ。しかし、弾はソルジャーウォーメイルに当たるが、装甲に容易く弾かれた。
「無駄だ」
ソルジャーウォーメイルの1体が銃を撃つ。
オメガプライムの光弾はハウンドの右前脚を捉え、砕く。ハウンドは倒れ、地を滑った。
止めの一撃を、もう一体のソルジャーウォーメイルが撃ち込み、ハウンドは爆散した。
***
ガーディアンズ本部。
作戦司令部。
一つのモニターを見ていた隊員が叫ぶ。
「ハウンド、破壊されました!」
作戦を指揮する稲森はそれを聞き、すぐに確認をする。
「クレフはどうなっている?」
彼が確認したのは、あるコンピューターのディスプレイの前に座る少女。
少女が着るガーディアンズ隊員の制服は、まだ真新しい。
それも当然で、彼女はガーディアンズに入隊したばかりなのだから。
名は、千崎薫。
だが、彼女はキーボードを素早く打ち続け、あらゆるデータを確認しながら、稲森の声に答える。
「問題ありません!クレフは間もなく到着します!」
凛とした声。初陣だったが、彼女は確実に自身の役割をこなしていた。
***
それから約1分後。
「目標を確認、戦闘に入る」
その報告と共に、クレフとソルジャーウォーメイル2体の戦闘は開始された。
既に消耗しているはずのクレフは、それでも元々の性能の高さと、使用者の能力の高さが重なり、敵2体を圧倒していく。
敵を撃ち抜き、その数秒後には斬り裂く。
数分間の戦闘の末、ウォーメイルは2体とも爆散した。
十字市における今回の戦闘の終了。
終わりと同時に、那一は別のものに関心のベクトルを戻す。
急いで本部に戻り、訊かなくてはならないことがある。
***
ガーディアンズ本部。
帰還した那一を迎えたのは、直属の上官である稲森渡中尉。
そして、もう一人。千崎薫。
彼女がガーディアンズの制服を着ている姿は初めて見る。
十字第一高校で生徒会長を務めるような、そんな生真面目な彼女に、制服はよく似合っていた。
だが、それでも感じる違和感。
那一は自覚する。
自分がそれを、望んではいないと。
「薫、どうしてガーディアンズに?」
落ち着いた、それはいつもの彼の声だった。
「那一と一緒。……私がそれを望んだの」
返す彼女の声もまた、明朗だった。
『自分が望むから』。
確かに那一もそう言った。それがこんな形で返ってくるとは、那一自身思ってもみなかったが。
「……じゃあ、その理由は?」
『望むから』。
それが根底の願望とは限らない。そうであることも確かにあるが、実際には人が何かを願うとき、その理由はさらに奥底に根源を孕む。
那一の問いかけに、薫は少しだけきょとんとした後、笑った。
からかうように。
それでいて、どこか寂しく、そして悲しそうに。
「……じゃあ、那一はその先の理由を、教えてくれるの?」
その問いかけは那一の奥底にある何かを叩く。
だが、その何かはまるで分からない。
根差すもの。
深く、そこにあるのは何か。
何も分からないならば、答えられない。
この少年は、他ならぬ自らのことに、解答を出せない。
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