#1.5 "ウォーメイル"

ガーディアンズ本部へと向かう久馬那一とリエラ・シューヴァント。

本部まではあとわずか。

「もうすぐで着きます」

「分かりました」

那一の言葉に丁寧に返すリエラ。

一方で、ガーディアンズという軍の本部までの距離が縮んでいくのに反比例して、リエラの緊張は高まっていた。

これから彼女が伝えようとすることを、素直に取り合ってくれるのか。そんな疑問は押し殺し、リエラは気を引き締める。


その時、唐突に異変が生じた。

背後で爆音が響く。それは大きくはない音だったが、音量は距離の問題だろう。

リエラが振り向き、那一もまた振り向いた。

先程まで彼らがいた辺り、つまり十字市市街地から、粉塵の煙が空へと昇っていた。明らかに、何かしらの大規模な破壊が行われている。

「テロ!?」

那一は呟いた。

いずれにせよ、この十字市で破壊活動が行われることは奇妙だと言えた。ガーディアンズ本部が位置する十字市でそんなことを行えば、部隊が即座に鎮圧に向かう。もちろん、軍に反対する思想的な理由から、この十字市でテロが起きる可能性も考えられるが、どちらにしろテロの成功にはリスクの大き過ぎる土地だ。

那一がリエラを見ると、その横顔は青ざめて見えた。何かを知っているようにも見える。

「まさか、こんな早く……!?」

彼女の呟きからして、何らかの心当たりがあるに違いない。

だが、それを問い質す前にすることがあると彼は考えた。

「とにかく、ガーディアンズ本部へ行きましょう…そこなら安全だ」

一度道案内を任された以上、彼女の身の安全も考えなければならない。ガーディアンズ本部なら基本的にはこの十字市で一番安全な場所であり、また情報も集まってくるだろう。

だが、彼女はこの言葉に対して首を横に振った。

「……爆発のあった方向へ行ってみましょう」

不安を覗かせながらも、彼女の視線はまっすぐだった。

「……私は……その理由を知っているかもしれません」

那一は数瞬だけ思案し、そして決断する。

「分かりました……来た道を戻りましょう、なるべく早く」

2人はガーディアンズ本部の方向に背を向け、足を速めた。

頭上では、ガーディアンズ本部からヘリが飛び発ち始めていた。


***


十字市市街地。

絶えず火の手が上がる。建物のガラスは割れ、瓦礫が積もる。

破壊の渦の中心には、3体の人型機械。機械とは言うが、生物と遜色ない滑らかで速やかな動作をしている。金属製の肉体を持った生物であるかのようだ。

実際、それらの中には、異世界オルフェアの兵士の人格が備わっている。

機械兵は握った銃から光の弾丸を放ち、秩序を壊して無秩序を作り出していく。


『ウォーメイル』、それがこの機械…人型兵器の名前だった。

ウォーメイルはオルフェアの根幹を担うシステムで、動力源には特殊な高エネルギー『オメガプライム』を使用している。ウォーメイル自体は完全な機械であり、使用者は『メイルキー』と呼ばれる鍵型の端末を用いて、ウォーメイルを使用者自身が存在する空間座標に転送する。それと並行して、使用者の肉体は一切の干渉を受けない亜空間に転送され、精神のみがウォーメイルと接続される。すなわち、自らの肉体を機械の肉体へと交換するのに等しい。


十字市に転送されたウォーメイルは、一般の兵士が使用する汎用タイプ。

分類上は『ソルジャーウォーメイル』と呼ばれるものだ。


十字市市街地上空に、ガーディアンズのヘリが集まり始めた。

軍用ヘリはその機体の下部にミサイルを搭載している。

ヘリのパイロットが無線を開いた。

「現場に到着しました……正体不明の人型兵器が、地上で破壊活動を続けています!」

報告の後、本部からの命令がすぐに聞こえた。

「了解した。攻撃を許可する」

「了解!」

攻撃許可の命令は現場周辺のヘリ全てに伝わり、揃って攻撃動作に移る。それぞれのヘリの下部に搭載されたミサイルが一斉に外れ、激しく炎を吹き出しながら推進し始めた。数十のミサイル全てが、たった3体の人型兵器に向かって進んでいく。


ソルジャーウォーメイル3体は、上空を飛ぶ飛行物体からミサイルが放たれたことを察知した。空気を切り裂きながら、全方位からミサイルが迫る。ソルジャーウォーメイルはいくつかのミサイルを、銃を乱射して弾幕を張ることによって防いだ。

銃口から放たれた光弾は推進する金属塊とぶつかり、弾けた。撃ち落とされなかったミサイルがウォーメイルに直撃していった。

爆音と爆風、そして爆炎。ミサイルの有する暴力的な破壊エネルギーが解放された。


十機以上のヘリは爆心地を囲むように飛行し続けていた。人型兵器の状態を確認しなくてはならない。

やがて煙が晴れていく。その中でうっすらと黒く、煙の中を影がよぎった。

煙が晴れたとき、そこには爆発前と変わらず、3体の人型兵器が立っていた。

煤や砂埃が金属の表面に付着していたが、ほぼ無傷と言っていい。

ヘリのパイロット達は絶句した。

もちろん、ミサイル程度では壊せないものなど、地球上にはいくらでもある。しかし、人間大のサイズで、人間と同等以上に自在に活動している兵器が、よもやここまでの防御力を有していることは、彼らの想定を超えていた。


ソルジャーウォーメイル達は、ヘリに向けて銃を構える。幾筋もの光の線が空中に走り、ヘリは射られた鳥のように墜ちていった。

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