第16話 愛なんて名前嫌いだ
『先生、先生ってば何考えてるの?』
花岡先生は倉野愛のことを考えすぎて、目の前にいる倉野のことを見ていなかった。
花岡先生は倉野さんのことに気づき、言った。
『倉野さんはそんなにお母さんのことが嫌いなら誰かに助けを求めたりとかはしなかったの?例えば、おばあちゃんとかお父さんにさ』
倉野愛さんは突然目が変わり、先生を鋭い眼差しで睨みつけながら言った。
『お母さんが決まって私に言葉の暴力をぶつける時は私1人でいることが多かった。お母さん、外面は良いから他人には優しい人なんだ。昔、家に友達が来た時あって、その時に友達の前で母から見た私にとっての恥なんてかいたら友達帰った後必ず反省会してた。大人になんて相談したって意味ないよ。だって、返ってくる言葉は『お母さんが正しいから、お母さんの言う通りにしなさい』だもん。先生、母にとって私って恥ずべき存在なのかな』
倉野さんが言ったことに花岡先生は重く口を開いて言った。
『先生が言えることはひとつだけかもしれない。それはね...お母さんと一定の距離を取ることだよ。倉野さんは今、お母さんと近い距離で接してると思う。それを少し離れた距離感で接することが大切な事だと思う。でも、もっと離れるなら一人暮らしを考えてみた方がいいかもしれない。でも、まだ高校生だからそれは難しいことかもしれない。それならまずはお母さんと話すのに距離を取ることがいいと思う。
今、私が言えるのはこれだけなの。本当にごめんなさい』
倉野さんはそんな自分のことを考えてくれた先生に向かって深くお辞儀をして言った。
『先生、ありがとうございます。私のことを考えてくれたのは先生だけです。』
先生はそれに対して即反応して言った。
『それは違うと思うよ。確かにあなたから見たら、お母さんとの関係を上手く運ぶ為に考えてくれたのは、私が初めてなのかもしれない。でも、あなたの未来をあなたのことを1番に考えていてくれたのはあなたの嫌いなお母さんだと思うよ。あなたの名前の由来は分からないけど、あなたを愛していなかったら倉野愛なんて名前付けないと思うよ。お母さんのせいで、全てが自分の思う高校生活が狂ったかもしれない。でも、15年生きてきてお母さんの言動が変わらないってことが分かっただけ良かったと思うよ。だから、この先の未来はお母さんが変わらないなら自分が変わるしかないんだからさ』
倉野さんは笑いながら言った。
『フフッ...先生、自分で私に良いこと言ったと思ったでしょ。マジ先生真面目すぎる。私、愛って名前嫌いなの。呼ぶ時はフルネームより苗字で呼んでください。確かに母は私のことを思って言った言葉も結構あります。でも、私にとって母といる時間は母の機嫌を取る時間でした。変わるべきものは私ではなくて、母だと思います。15年生きていて言動も何も変わらないのは、変わる気がないからだと思います。先生は母のこと見ていないから、言えることであって先生が母に会ったら多分言ったことを撤回すると思いますよ。でも、母には絶対会わないでください。母、マジやばいんで』
花岡先生は倉野さんの母親について言う時、とても怖がっているのが分かった。
それだけで、花岡先生が倉野さんに何を言おうと倉野さんに何も響いていないことに気づいた。
先生は無力に感じた。
倉野愛さんと話していたら保健室にノックをしてきた。
花岡先生は倉野さんに待っててとソファに座らせ、ドアを開けると彼女の担任が立っていた。
彼女の担任は言った。
『花岡先生、今、倉野の親御さんが職員室に来ているんですが、倉野は病弱でか弱い子だから何かあった時保健室の先生に頼みたいから、花岡先生に会いたいって言ってるんですよ。だから、今会っていただけませんか』
『でも、今保健室に倉野愛さんがいるんですよ』
『だったら、三者面談で会えば良いじゃないですか?好都合ですよ』
『ダメなんです、倉野さんは母親が嫌いなんで会えないんですよ』
すると担任は思いついたように手を叩いて言った。
『じゃあ、倉野を奥のベットに寝かせて、その間に二者面談すれば良いんじゃないですか?』
花岡先生はその案に乗ることにした。
倉野愛の母親が来る前に、倉野さんに事情を話し、渋々奥のベットに寝てもらった。
ソファに机前を綺麗にして、保健室に来る倉野愛の母親を待った。
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