第12話 教室に入れない理由が僕にも分からない

『キンコーンカーコン』

授業の始まりを告げる音がした。

周りはゾロゾロと自分の席に座り始めて、授業の準備をし始めた。

そんな中で八木くんは高野さんに声を掛けた。

『じゃあ僕は保健室に行ってるね。昼休みでも保健室で会おう。じゃあね』

そう言って立ち去ろうとする八木くんに高野綾は待って。と呼び止めた。

高野綾は八木くんの肩を掴み言った。

『どうして教室にいるのに、教室から出て保健室に行くの?保健室なんかにいるよりずっと教室にいる方が楽しく感じると思うよ。なんで、行っちゃうの?』

八木くんは高野さんが掴んだ肩を掴み下ろした。

八木くんは高野さんを見て言った。

『僕は僕なりに理由があるんだよ。みんながみんな教室に入って授業の準備して授業を受けられる訳でもない。僕は教室で空気なんだよ。君みたいに太陽のように光って周りから愛されるような生き方してないんだよ。じゃあ、また保健室でね。そろそろ先生来ると思うから僕はこれで、バイバイ』

高野さんは八木くんを呼び止めようとしたが、彼は教室を出て行ってしまった。

そんな彼に残念そうに自分の席に戻ると隣の見知らぬ男子が言ってきた。

『高野さん、彼のこと知らないで友達やってるの?彼は入学式に髪を虹色にして来た逸話を持つ男子だよ。しかも、八木遊平って言ったら入学試験1位でありながら、新入生代表の人だよ。高野さん確か入学式欠席してたから、知らないんだっけ。でも、あの子確か自分のクラスでは空気だったらしいよ。良いところの中学校出ていながらこの国清高校に来たから、みんな不思議がってたよ。そんな変わったやつと友達になるなんて、やっぱり高野さんも器が大きいというか凄いね。僕ならビビっちゃうわ』

それを聞いて高野綾は国語の授業前に先生に話した。

『先生、お腹痛いんで保健室行って来て良いですか?』

先生は行ってこいと後押しした。

高野さんは廊下を走って保健室に向かった。

保健室に着くと八木くんの姿は無かった。

高野さんは花岡先生に泣きそうになりながら言った。

『先生、私八木くんに謝らなきゃいけない。酷いこと言っちゃったから』

花岡先生は落ち着いてと言ってから話を聞くと花岡先生は言った。

『八木くんは怒ってないと思うよ。八木くんは少し高野さんのことが羨ましく感じたから言っただけだと思うよ。八木くんなら図書室にいると思うよ。この時間は八木くんしか図書室にいないから行ってみると良いよ』

そして高野さんは足早に図書室に行き、1人座ってる男子を発見した。

彼は飴を舐めながら本を見ているようだった。

図書室には彼と司書さんしかいないため、飴の音が響き渡っていた。

高野さんは八木くんらしき人に声を掛けた。

八木くんらしき人は振り向くと八木くんだった。

八木くんはにっこり笑って言った。

『見つかっちゃったか。花岡先生に聞いたの?』

高野さんは涙を拭いて言った。

『なんで笑ってるの?私酷いこと言っちゃったんだよ。なんで教室に入って勉強しないのって言っちゃったんだよ。八木くんがどんなに辛い思いがあったか知らないで何も考えずに言ってごめんなさい』

八木くんは本を閉じて、口に含んでいた飴を噛み砕いて言った。

『みんなが僕に思ってる事だろ。なんで学校には来るのに教室には来ないのかなんて。僕にも理由が分からない。でも、あの時一瞬高野が居たから教室には入れたけど、授業は受けられなかった。高野とはクラスが違うっていうのもあったけど、僕は教室が怖いんだ。高野みたいに強くはないんだよ。高野に勉強や友達として色んな場所に行くことは楽しいし、行けるけど教室には入れないんだ。目立ちたくて友達欲しかったから入学式に虹色の髪をしたけど、それは友達を作れない方法だったのかもな。だから、その後普通に黒髪に戻しちゃった。本当、馬鹿野郎だろ...僕』

高野さんは何も言えず泣き出した。

八木くんはごめん、ごめん、と高野さんの頭を撫でた。

泣き止んだ高野さんは言った。

『私が太陽なら八木くんが月になってよ。強くなんてならなくていい。優しさが八木くんにはあるもん。もうひとりぼっちにならないで、私が友達なんだからさ』

八木くんは笑って言った。

『そろそろ...保健室の先生も心配してるし、高野さんの担任の先生も心配してると思うから、1回教室帰りなよ。昼休みに保健室で会おう』

そう言って八木くんは図書室で高野さんを見送った。

八木くんは見送った後、司書さんに言った。

『まさかここにいることがバレるとは思わなかった。うるさかったですよね。すみませんでした』

司書さんは言った。

『でも、大事な話してましたよね。別に大丈夫ですよ。それに今の女の子LOVE RoseのAYAですよね。今度、ここに来た時にサインとかダメですかね』

八木くんは曖昧に返事をした。

『そうですね、サイン...出来るか高野さんに聞いときます』

八木くんは高野さんが僕のことをちゃんと友達として見ていたことに、嘘じゃないんだなと実感していた。


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