第11話

 ドラゴン襲撃の翌日、犠牲になった人たちを集めて合同葬儀が行われた。

 その中には父さんも含まれている。


 (強くならないといけない。すべての悪意に勝てるほどに。そして母さんを取り戻す。)


 妹のフレアが俺に抱きつきながらひたすら泣いている。


 (母さんを見つける旅に出かけるために、フレアを預かってもらわないとな。)


 父さんの亡骸に土が掛けられていく。この村では土葬が基本だ。土葬の前には遺体を聖水で清めることでアンデッド化の防止を行う。


 ひとしきり葬式が終わった後、家に戻ってきた。


 妹であるフレアは一旦村長さんの家で預かってもらうことになった。


 俺は父さんの遺品からアイテム袋と少量のお金をもらって旅に出る準備をしていた。

 アイテム袋は中に空間魔法の魔法陣が刻まれており、見た目以上に物を入れれる袋のことだ。

 アイテム袋は中に入れれる量によって値段はピンきりだ。

 父さんのアイテム袋はそこまで高性能ではないけど、旅に使うには十分だった。

 大体5立方メートルほどだ。


 旅の目的は、父さんのパーティメンバーだったカリスさんに報告するためだ。父さんは「自分になにかあったときはカリスを頼れ。」と言っていた。


 カリスさんの村は、フェイ村から馬車で2日のところにある街を経由して、さらに2日のところにある開拓村だ。


 リンには外装に擬態してもらって、カグヤを背負って準備完了。


「【空歩】」


 足元に障壁の足場を設置して、そこを踏みしめて走る。空を駆けるように進むように見えるから【空歩】と名付けた。風のカーテンによって空気抵抗を受けないようにもしてある。


 身体強化によって時速100kmは超える速度で空を走っていく。空を直線距離で行けば、カリスさんの開拓村までは1時間ほどだ。


 カリスさんの開拓村ヒルス村についてから、その辺にいる村人にカリスさんがいる畑を教えてもらった。


「カリスさん、父さんが殺されたんだ。話を聞いてもらえませんか。」


「なに!? 詳しく聞かせてくれ。すぐに俺の家に行こう。」


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 カリスさんの家で、二人きりでフェイ村で起こったことを報告した。

 レッドドラゴンが襲ってきたこと、父さんと二人で倒したこと。

 仲間のモンスターの魔核を取り込んだこと。

 黒いローブの怪しい人物がいたこと、その人物に父さんが殺されたこと。

 母さんが連れ去られたこと。


 カリスさんは適度な相槌をうちつつ、話を全部聞いてくれた。

 カリスさんも「黒いローブ」の組織については知らないらしい。


「まずはシュバルツ街で衛兵隊と冒険者ギルドに報告しよう。黒いローブについてはどうにもならない可能性があるが、フェイ村の復興などやってもらうことはあるからな。出発は明日の朝だ。」


「わかったよ。あと冒険者登録もしておきたい。強くなりたいからカリスさん、稽古つけてほしいんだ。」


「そうだな、黒いローブのことを調べていくなら冒険者になるのがいいだろうな。あと、フレアちゃんのことはうちで面倒をみよう。」


「それは助かります。フレアのことをよろしく頼みます。安心できる拠点が準備できたら引き取りに来ます。」


 その日はカリスさんの家で泊めてもらった。

 カリスさんの奥さん、娘さんと一緒に食事をしたのだが、今は亡き父さんのことや拐われた母さんのことを考えてしまい、悲しい気持ちがあふれてくる。


 次の目標は、一番近くにある冒険者ギルドで一連のことを報告することだ。

 レッドドラゴンの襲来の理由や、フェイ村の復旧についての相談をするためだ。


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 翌朝、カリスさんと一緒にシュバルツ街へ向けて身体強化をしつつ駆け出した。

 正直、【空歩】で行ったほうが早いのだけど、カリスさんから冒険者について説明を受けながら走っていた。


 シュバルツ街への道程を6時間で走ってきた。


 シュバルツ街について、外周にある門のところで入場者の列に並んだ。

 シュバルツ街は2万人ほどの交易都市だ。東西南北に交易のための大きな門がついている。


 冒険者用の列に並んで10分ほど待って、自分たちの番がやってきた。

 門のところで水晶玉に手をかざす必要があるらしい。犯罪歴があると赤くひかり、入場するのに厳しく検査されるとのことだ。犯罪は犯したことがないので、サクッと審査が終わって入場できることになった。


 カリスさんが衛兵にフェイ村での惨状を聞かせると、すぐに衛兵の詰め所につれてこられた。

 従魔は建物に入れてもらえないらしく、厩舎のところでリンとカグヤに待ってもらうことになった。

 衛兵長が詳しく話を聞きたいらしい。

 衛兵長が来てから同じ話をすると、すぐにフェイ村への査察部隊を用意してくれることになった。フェイ村へは明日の朝に向かってくれると決まったのでようやく解放された。


 次は冒険者ギルドへ行って、レッドドラゴンや怪しい男の報告と、俺の冒険者登録をすることになった。


 -------------


 冒険者ギルドは2階建ての結構大きい建物だ。

 ここでも従魔は建物に入れないことになっているので、建物の横の従魔用の待機スペースでリンとカグヤには待ってもらうことになった。

 空いてる受付に行って、ギルドマスターへの面会を希望していることを伝える。

 フェイ村がレッドドラゴンに襲われたことを伝えるとすぐに面会の段取りをしてくれた。


 ギルド職員に連れられて2階のギルドマスターの部屋に通された。


「ギルドマスター、緊急の要件です。当事者をお連れしました。」

「入ってくれ。」


 部屋に入って、ギルドマスターと対面する。


「よく来てくれた。俺がシュバルツ街の冒険者ギルドのギルドマスターのガンツだ。まずは座って話を聞かせてくれ。」


 カリスさんと応接用のソファーに並んで座る。


 フェイ村がレッドドラゴンに襲われたこと、怪しい黒ずくめの男が母さんをさらったことを伝える。


「なるほど、ひょっとして通称黒の教団という組織の仕業かもしれないな。黒ずくめの集団で村にモンスターをけしかけたり、怪しい集会をしている集団と言われているな。ただ人が攫われるというのは聞いたことがない。」


 黒の教団というのは、俗称で正式名称も判明していない組織らしい。名称がなければ不便ということでつけられた名前だそうだ。組織の行動目的も不明、規模も不明らしい。


 ただ、国際的なテロ集団ということでギルドにも常設依頼として掲示しているらしい。


「黒の教団は国際テロ組織だ。アジトが分かれば冒険者による鎮圧もあるだろう。ただし、高ランク冒険者の仕事になるだろう。目安としてはBランク以上でないと参加させられない。」


 この時点で、俺は冒険者ギルドでの活動をする気になれなかった。悠長に冒険者ランクを上げていられない。別の手段で黒の教団の情報を入手し、自分の手で母親を奪還しなければ、と考えていた・・・


「とりあえず、衛兵団と協力して、明日にはフェイ村の様子を見にいく段取りはしておく」


 無事にギルドマスターに話をつけたことで、俺の冒険者登録をすることにした。


 受付までいって、順番待ちの列に並ぶ。


「次の方、どうぞー。」


「冒険者の登録と従魔の登録をしたいのだが。」


「それでは、こちらに記入をお願いします。従魔の登録はテイマーギルドでお願いします。」


 名前:シルク

 職業:ソロ希望

 パーティーメンバー:なし


 とりあえず、書けることは書いて受付のお姉さんに渡す。


「ソロでの活動を前提としているんですか?」


 リンやカグヤと一緒にパーティーを組むつもりなので、厳密にはソロではないのだが、説明が面倒なので、ソロということにしておく。


「あぁ、だいたいのことは一人でできるので問題ない。」


「了解しました。では、こちらの水晶玉に触れてください。」


 水晶玉に触れると淡い光を放った。


「はい、これで魔力紋の登録ができました。ギルドカード作るので少々お待ちくださいね。」


 少し、待ち時間ができたので、カリスさんを探す。


「カリスさん、このあと稽古つけてもらえませんか。強くなりたいんだ。」


「ああ、いいぜ。といってもこんな時間だと一時間程度だろうけどな。」


「シルクさん、ギルドカードできました。」


 受付の人が大声で俺の名前を呼ぶ。受付まで急いで戻ってギルドカードを受け取る。


「それでは冒険者について軽く説明させていただきますね。」


 聞いた話を要約すると次のような感じだ。

 冒険者ギルドは国際的な組織で、特定の国に属していない。

 冒険者にはランクがあり、G、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの10段階がある。

 それぞれのランクで適切な依頼を何件以上こなすなどの一定の功績が認められると、ランクアップ試験を経て次のランクになることができる。

 従魔が問題を起こしたらテイマーが責任を負う。


 どんなに実力があっても、登録したての新米はGが始まるものなのだ。

 なおさら、冒険者ランクを上げるのは時間の無駄だな。


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