第10話
急いで村へ帰った僕が見たのは、ドラゴンに壊され燃やされた家、その犠牲になった人たちだった。
「リン、カグヤ、僕の家で待ってて。あと、フレアがいたら守ってやってくれ。絶対に帰るから。ルナは一緒にきてフォローをよろしく。」
リンとカグヤは、戦闘力がまだあまり高くなく、ドラゴンとの戦闘に耐えられなさそうなのでお留守番だ。
『わかったー、まってるー。がんばってー。』
「「わかりました」」
村の広場では今もまだ父さんがドラゴンからの猛攻を防ぎ続けている。ドラゴンに目立った外傷がないため、防戦一方であることは明白だった。
「父さん、加勢するよ!」
「シルク、村にこれ以上被害を出さないために協力してくれ。」
【金剛気】は強力なのだが、熟練度不足で長時間の使用に不安がある。なるべく切り札として温存したいところだ。
空を飛ばれると厄介なので、先に飛べなくさせる必要がある。
「【下降嵐刃】」
ダウンバーストを起こさせ、そこに風の刃を混ぜる魔法だ。ドラゴンの羽をズダズダにしていく。体の鱗には効果が薄かったようだ。
「【水刃】」
いわゆるウォータージェットカッターを再現した魔法で、微小の土魔法を混ぜ込んである。近距離なら相当のダメージを与えることができる。これで飛べないように翼を切り落した。
これでゆっくり対策が取れる。と言っても、僕は森にいったときの装備のままで、爪で引っかかれただけで致命傷だろう。すべての攻撃を避ける必要がある。
父さんがタンクとしてドラゴンの攻撃を受けている間に、僕は【水刃】で体に傷をつけていく。次は尻尾か腕か足を切り落とす。
しばらく優勢に進んでいたのだが、さすがにヘイトが高まりすぎたのか、ドラゴンが僕を狙い出すようになった。
ドラゴンがある程度傷を負っていたので、ルナは傷口に糸を飛ばし、麻痺毒を注入することに集中しているようだった。
ひっかきや噛みつき、尻尾でのなぎ払いを回避するために中距離で立ち回っているため、【水刃】は使えない。【氷弾】や【氷槍】などを使ってみたけど、鱗を貫けない。
しばらく、回避しつつなんとか攻撃していたのだが、どうやら誘われていたらしい。ドラゴンの顔の正面に追い込まれていた。
ドラゴンの口からブレスが放たれた。僕は剛性糸を布状にして前面に展開、その上に物理障壁、魔法障壁を展開する。なんとか直撃は防いだが、魔力がすごい勢いで減っていく。
父さんが駆け寄ろうとしてくれるのだが、ドラゴンの尻尾で弾き飛ばされてしまった。
魔力に余裕があるとはいえ身動きが取れない状態になってしまった。防御に精一杯で、自分だけでは動けないし、この状況を覆せない。
そんなときにルナがブレスの射線に飛び込んできた。糸を編み込んだものを全面に展開しつつ、僕の体を包むよう抱きしめてきた。
ブレスはそのまま2,3分続いただろうか。
ブレスが止んだあと、ドラゴンは尻尾で薙ぎ払ってきた。僕はルナを抱きしめられた状態で弾き飛ばされてしまった。
どうやら父さんが復帰してドラゴンを引きつけてくれているようだ。
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一息ついたところで自分の体を確認してみると、火傷一つなかった。急いでルナのほうを向いてみると、そこには背中半分は完全に炭化しており、致命傷という具合だった。
急いでルナを抱きしめて、回復呪文を唱える。
「ルナ、今から助けるからな。【完全治癒】」
しかし、すでに致命傷になっているからだろうか。まったく回復魔法は効果を発揮しない。
『ごじゅじんさま、いままでありがとう』
そういって、ルナの体は崩れていき灰となって空へ舞い上がっていき、あとに残ったのは青色の綺麗な10センチほどの魔石だけだった。
「あああああぁああぁ!!」
魔石を握りしめて、膝をついて、泣き叫ぶ。涙が溢れて止まらない。
感情が最高潮に高ぶったとき、ガチンとなにかが壊れた音を聞いた気がした。もともと1つの魂に前世の部分とシルクの部分が仕切りで仕切られていたような状態、太極図のような状態だった。その仕切りが壊れたのだ。2つの魂が混じり合い、本当に一つの魂になった瞬間だった。性格も前世よりの部分が強く現れるようになった。
それからの行動は理由は説明できないが、本能的なものだった。
剣で胸に十字の切り傷を作って、ルナの魔石を傷跡に埋め込むように押し付けた。そして…
「【完全治癒】」
完全にルナの魔石を取り込んだ。毎日ルナに魔力を分け与えていたせいなのか、拒絶反応もなく体に力が馴染んでいくのがわかる。
魂の位階が上がり【糸使い】が【繊維マスター】に進化した。より細かく、より強靭に、より繊細にコントロールできるようになった。【高度思考】にも【自立思考】が追加された。
それと共にルナの心、気持ちが伝わってくる。
『なぜわたしはにんげんじゃなかったのか』
『わたしがまもので、ごめんなさい』
『ごしゅじんさまのことがすきです』
『かんしゃしています』
『まいにちがたのしかったです』
ルナは魔物であることを気にしていたのか。俺にとっては本当に家族同然だったよ。
感情は高ぶっているのに頭は冷静になってきた。魔石を取り込んだ影響でシルクの青い目は真っ赤に変わってしまった。
「シー、あいつを倒すにはどうしたらいい?」
『視神経、神経、筋肉も繊維です。【繊維マスター】で作り変えましょう。』
「わかった、やってみよう!」
全身の細胞という細胞が作り変わっていく。激痛が流れるなか、ルナとの思い出が頭をよぎる。
初めてあったとき、一緒に狩りをしたとき、なんでもないような会話をしたとき、体の激痛と心の痛みを耐えつつ涙を流した。
全身の痛みが引いたとき、見た目は人間だが、中身はとても人間とは言えない状態になっていた。
魔石を取り込んだ人間を【魔人】と呼ぶことは後から知った。カテゴリとしてはすでに魔物として扱われるらしい。
魔人になったことで1段階、全身を作り変えたことで1段階、合計2段階の進化をしたようなものだった。
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急いで父さんの元へ合流する。
「父さん、合わせてくれ!」
「わかった。攻撃は任せる。」
魔力闘気を混ぜ合わせて金剛気を発動させ、全力で剣に流した。魔人となったことで扱える魔力や闘気の量が格段に上がっていた。身体強化の魔法は緑色、闘気は赤色、金剛気は黄色のオーラだ。
金剛気を全身にまとい、ドラゴンにすれ違いざまに剣で切り裂く。パワーもスピードも今までと桁違い、なによりドラゴンの鱗を軽々と切り裂いた。
腕や足、尻尾に傷をつけてまわって、まずは腕を切り落とすことにした。
攻撃をドラゴンの腕に集中していたせいで、噛みつきを攻撃を食らってしまい、ロングロードは砕かれ、右腕も食いちぎられてしまった。
魔人化と体中を糸に変化させ半分以上が糸で構成されているため、【完全回復】を使わずに糸で再生を行った。
失ったロングロードのかわりに、糸を剣状の形に変化させた。
糸から作った剣だったためか、金剛気との親和性が高く攻撃力は高くなったと言える。
ドラゴンの右腕を集中的に攻撃したおかけがで無事に切り落とすことに成功した。
金剛気を使えば攻撃は通ることがわかった。
ドラゴンは大きな怪我を追ったせいなのか、激昂しているようだ。
理性というものが残っていないのか、シルクに向けてがむしゃらに攻撃を仕掛けてきた。
次はドラゴンの左手を切り落とす作戦にした。
近距離でドラゴンの攻撃を躱しつつ、少しずつ攻撃を加えていった。
魔人化が馴染んできたおかげで、危なげなくドラゴンの左手に攻撃を加えていけた。
しばらくして左腕を切り落としたことで、ドラゴンもだいぶ疲弊しているようだ。
ドラゴンの全身に切り傷を刻んで意識を散漫にさせてから、一気に首を切り落とした。
さすがにドラゴンも頭を落とされては生きていられないらしい。
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父さんが母さんのところへ、駆け足で向かっている最中に、真っ黒のローブを着ている怪しい男が現れた。
怪しい男が何かを呟いたと同時に父さんの胸に穴が空いた。
「あなた!!」
それを目撃した母さんが父さんに駆け寄ろうとしたとき、母さんの背後に素早く移動した怪しい男が首を強打し、母さんを失神させた。
俺は遅れて、その場にたどり着いた。
怪しい男はすでに母さんを肩に担いでおり、父さんは即死のように見える。
「母さんを離せ!」
「・・・・・」
怪しい男がなにか呟いたとき、突風が吹き荒れ、突然のことに俺は目を細める。
怪しい男は懐から宝玉のようなものを取り出すと、光が発生し、怪しい男は消え去っていた。母さんは連れ去られたのだ。
俺の【ソナー】で検索できる範囲にいないことはわかった。急いで探していきたいが、先程までの戦闘で全身が酷使されており、数歩歩いたところで気を失ったのだった。
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