第4話

 7歳になった。高度思考のほうも成長しており、高速思考は1年に1倍ずつ、並列思考は1ヶ月で1つずつ増えていった。現在は高速思考4倍、並列思考28といった具合だ。最大魔力量は6400になった。


 7歳になったことをきっかけに剣の修行を始めることになった。体ができていないので型の練習や軽い模擬戦をやる。


 父さんが目の前で見本を見せてくれて、それをなぞるように体を動かしていく。父さんは冒険者なので、独自の剣技を使っている。実践で身につけた剣技だけあって、泥臭くも実践的な剣技だった。

 ここでも高度思考は役に立っていた。1度見ただけでそれなりに理解でき、数回やってみるだけで、ほどんど真似できるようになった。


 父さんの戦闘スタイルは剣と盾を利用した技巧派だ。盾で相手の攻撃を受け流し、崩した体勢に攻撃を加えるカウンター主体だ。

 僕は盾を持ってのスタイルが合わなかったので、片手剣のみのスタイルだ。訓練は僕のスタイルに合わせて父さんも片手剣のみで相手してくれている。


 ある日、身体強化した状態で模擬戦をしたくなった。


「父さん、身体強化の魔法を使ってもいい?」


「ああ、いいぞ。無理しない程度でな。」


 高度思考のおかげで、全員一律の身体強化ではなく、部分ごとの強化が可能だ。目や反射神経、知覚系の倍率は高め。腕や足は臨機応変にといった具合に。しかも前世の記憶により筋肉や関節は細胞で出来ていることを知っているため、より繊細な強化が可能だ。こまめに倍率や範囲を変えているため魔力効率がいいというメリットもある。


 最初は2倍くらいの強さで少しずつ倍率を上げていこう。身体強化は魔力による強化になるので緑のオーラが体にまとわりつく。


 素早く父さんの懐に飛び込みつつ、両手持ちで上段からの振り下ろしを行う。


「えいっ!!」


 父さんが剣で受け止める。父さんは手加減しているようだが、鍔迫り合いの状態から押し切ることができない。


 剣を滑らせて次の動作に移る。両手持ちしていた剣から左手を話して、距離を離しつつ凪払い放つ。簡単に叩き落とされるが、左手を使って両手持ちにして切り上げを行うがバックステップで躱されてしまった。


 そこからお互いに剣をぶつけ合う。振り下ろし、切り上げ、なぎ払い、流れるように剣を振るう。


 少しずつ身体強化の倍率を上げていく。5分ほど続いた剣のぶつけ合い、3倍、4倍・・・10倍。そろそろ魔力が底をついてきた。

 身体強化が強すぎると筋肉や関節を痛めそうな感じがした。安定して強化できるのは10倍くらいまでだな。


 右からのなぎ払いを受け止められたタイミングで両手持ちしていた剣から右手を放し、拳を作って父さんの左脇腹を殴りにいく。


 そこで右手を空振って、回転を利用しつつ、足払いを父さん掛けにいく。そこを父さんはバックステップで躱した、ところで、一旦仕切り直しの空気になった。


「それくらいやれるなら森での狩りにも連れて行っても良さそうだな。今度一緒に森に行こうじゃないか。」


「そうだね、そろそろ実戦も経験しておきたい。あと身体強化の倍率は今は10倍くらいが精一杯かな。それ以上は体を痛めそうな感じ。まだまだ制御が甘いかな。」


「身体強化の魔法もそんなに簡単なもんじゃないんだがな。シルクは天才なのか? そこまで体が動かせるなら、闘気についても教えておいたほうがよさそうだな。」


 闘気? 初めて聞いた単語で、それがどんなものか全然想像つかないな。


「よく見ておけよ、戦闘系の職における身体強化の魔法みたいなものだよ。」


 いうなり、父さんの体から赤色のオーラのようなものがゆらゆらと出てきた。


「闘気っていうのは筋肉や血液から出ている生命エネルギーを戦闘に応用したもので、身体強化のようにも使えるし、一部に集めて耐久力を上げたり、武器から飛ばすことで遠距離攻撃も可能になるんだ。」


 これは便利そうだ。是非覚えておきたい。


「父さん、ちょっと闘気まとっている状態を触らせて。」


 父さんの肩を触りながら【診察】の魔法を発動する。【診察】は触っている部分から魔力の波を流すことで、体内を調べる魔法だ。前世の記憶があるため筋肉や内蔵、魔力や闘気などの状態を細かく調べることが出来た。


 なるほど、闘気というのは生命エネルギーを消費して、肉体強化や耐久力を上げる技術ということがわかった。日々の訓練に闘気の練習が加わった。


 そして身体強化の魔法と闘気を同時に使うと黄色のオーラになるので金剛気と呼ぶことにした。これは高度思考を駆使しないと使えないので、普通の人には無理だと思う。一部の天才だけが手にできる技術だろう。


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 それから2日後。初めて森に入って魔物を倒すことになった。今日の狙いは定期的に減らす必要があるゴブリンの駆除と、食料としてのファングボアの討伐だ。

 ゴブリンはFランクの魔物で繁殖力が異常で、定期的に減らしておかないとすぐに増えてしまう。一定の規模を超えた集団になってくると上位個体が出てき始めるので、早めに数を減らしておく必要がある。数体で行動していることが多いため、雑魚といっても注意が必要だ。

 ファングボアはゴブリンと同じくFランクの魔物で牙の発達した猪といった感じの魔物だ。可食部位が多いため、村での貴重なタンパク源としてたまに狩っている。


 父さんと村の男衆5名のチームを3つ作って、森に入っていく。森での行動の仕方を父さんから習いながら後ろを静かについていく。音を立てない歩き方や、風向きを意識した場所取り、獲物が多いエリア、その他注意事項などを習っていく。


 しばらくしてゴブリンを発見した。ゴブリンとの戦闘は、3体と同時に戦うことになった。


「やばかったら助けてやるから、思いっきりやってみろ。」


 相手が複数いるときの戦闘の訓練なんだそうだ。

 それぞれはスキがあるのだが、1匹に集中しすぎると、別の個体から攻撃を受けそうになる。

 複数の相手と戦うのはなかなか難しいことがわかった。


「グギャギャ」「グギャギャギャ」


 何を言っているかはわからないが、仲間内でコミュニケーションを取れるくらいの知能はありそうだ。


 ゴブリンは棍棒のような木の棒を持っているだけなので、万一打撃をくらっても致命傷にはならないとは思う。


 1匹が殴りかかってきて、スキだらけなのだが、他の2体の行動を見ていないとならないため、すぐさま反撃することができない。3匹を視界に収めつつ、3体の行動の流れを俯瞰して攻撃のタイミングを探していく。


 しばらく防御や回避に徹してタイミングを見ていたが、ゴブリンは頭のほうはよくないのか、スキを補い合うようなことはしてこない。


 ゴブリンの行動を誘導して1匹目、2匹目に大ぶりを誘えば、3匹目に攻撃できそうだ。


 1匹目、2匹目と攻撃を誘って、3匹目の頭部を1撃で切断する。


 人数が減ってしまえば、驚異ではないため、各個撃破できた。


 1対1では、武器や体の流れ、間合いが大事だったが、複数を相手にするときには視界に全員を入れておく、立ち位置が大事、流れを作るということを学んだ。


「ゴブリンくらいなら安心して見ていられるくらい余裕があるな。」


「そうだね、連携してこない相手なら楽勝だよ。」


 それからは何度かゴブリンに遭遇したが、特に苦労することもなく特別なことはなかった。


 人型の魔物は急所も人間と同じなので、対処の仕方も同じだった。


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 ファングボアを探して森の中を慎重に歩く。ファングボアは雑食でなんでも食べるのだが、ゴブリンの肉は匂いもヒドイので、さすがに食べないらしい。そのためゴブリンの死体の近くにいては見つけられない。ある程度森を探していると、ちょうど1体のみのファングボアを見つけることができた。


 ファングボアの攻撃方法は、突進と牙を利用したかち上げだけなので、正面での立ち位置だけ気をつければいい。そこそこ動きは素早いが直線的な動きだ。冷静に距離感や予備動作に気をつければ簡単だった。


 ファングボアの解体を見学して解体方法を学ぶ。大人たちがファングボアを運んでくれるので僕は気楽な気持ちで村へ戻っていった。


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「ギャギャッギャ」


 村への帰り道でゴブリンの耳障りな声が聞こえてきた。慎重に観察すると3匹のゴブリンだったので僕が対応しようと大人たちに合図をおくる。奇襲をかけようと飛び出そうとしたときに気がついたのだが、どうやらスライムを虐めて(?)いるようだった。スライムに注意がいっている今がチャンス、と飛び出して3匹を軽く処理した。


 あたらめてスライムをみるとプルプル震えている。自然と震えているのではなく、怯えているように見える。僕は慎重に近づきつつ、手に持っている剣でつついてみた。スライムは驚いたのか、ひときわ大きく震えると少しずつ離れていく。なんとなく危険はなさそうと思って、今度は手で触ってみる。ひんやり冷たく、弾力があってなんとなく気持ちいい手触り。


『やめてー、たべないでー』


 耳ではなく、頭に直接働きかけるように声が聞こえた。どうやらスライムが念話(?)のようなもので話しかけてきているらしい。これが有名な「ぼくわるいスライムじゃないよ」か、と思いつつ話しかける。


「食べないから安心していいよ。ゴブリンはやっつけたしね。」


『ほんとー?』


 知能は低いのか、のんびりした性格なのか、語尾がゆるいな、なんてずれた感想を感じていた。


『ねー、これからもたすけてよー』


「それって連れていけってこと?」


『うん』


「連れて行ってもいいけど、君はなにを食べるの?」


『なんでもたべれるけど、まりょくはごちそー』


「うーん、それくらいなら食べ物にも困らないかな。いいよ、一緒に行こうか。名前がないと不便だから、今から君の名前はリンだ。」


『リンがぼくのなまえー?』


「そうだよ、ちゃんと覚えてね」


『リン、わかったー』


 帰り道はリンを頭の上に載せて、のんびり帰った。


 これがリンとの出会いだった。


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 リンは残飯や食料廃棄物を食べてくれるので、母さんからすごく有難がられている。夜寝る前には魔力の残量をすべてリンに渡すようになった。これで寝る前の魔力の消費が格段に楽になった。


 どうやら魔物は食事以外に魔石の核、魔核に大気中から魔力を取り込む習性があるらしい。後から知ったこととして、魔核が一定以上に成長しつつ、一定以上の経験を得た個体は進化するということだ。


 まぁお互いウィンウィンということで何よりってことだな。

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