第3話

 寝込んでいた日から3日が経過した。今日は母さんから魔法を習う日だ。朝からわくわくが止まらない。朝食を食べたあとに母さんと共に庭に出た。


 庭には的があり、そこから10歩ほど離れたところで母さんと向かい合わせで立つ。


「まずは魔力を感じる練習をしましょう。さあ、両手を前に出して。」


 言われたとおりに両手を前に出す。僕の右手を母さんの左手が握る、僕の左手を母さんの右手が握る。


「今から魔力を流すわね。シルクの左手から魔力が入ってくるのを感じて。」


 なるほど、なにかエネルギーのようなものが左手から入ってくるのを感じる。


「エネルギーのようなものを感じるよ。」


「そう、それが魔力。次は右手から魔力を出すことを意識してみて。」


 ん、なかなかうまくいかない。対流が滞っているような感覚だ。高度思考によるトライ&エラーを繰り返してみる。5分ほどでちょっとコツを掴んだ。エネルギーを出す、エネルギーを動かすというよりも、エネルギーを循環させるイメージに近い。


「これでどうかな。」


「なかなかスジがいいわね。」


 ちょろちょろと右手からエネルギーを出すことに成功した。


「次は一人でやってみて。」


 母さんから手を放し、目の前で合掌するような形を取る。そして右手から左手へ魔力を流す。流す量を増やしていく。最短経路で流すのではなく、全身に行き渡らせるようにしたほうが効率がいい点に気がついた。


「うまく循環させれたよ。」


「ちょっと確認させてね。」


 そう言って、母さんは僕の肩に手を触れた。


「ほんとスジがいいわね。これなら次のステップに進めそう。」


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「まずは生活魔法のウォーターをやってみましょう。今からいう呪文を唱えてみて。【水よ来たれ、ウォーター。】」


 すると、母さんの右手の手のひらから水が流れでてきた。


「さあ、やってみて。」


 全身の魔力の流れを意識してみながら呪文を唱えてみる。


「【水よ来たれ、ウォーター。】」


 体内の魔力がセミオートのような形で勝手に制御されていくのを感じる。ただし、うまく水は出てこなかった。


 呪文とはある程度の魔力制御を肩代わりしてくれる。

 文節や単語を唱えるごとに、魔力が動き、変換され、形を作っていく。

 そして、発動するには完成形のイメージが大事ということらしい。


 2回目に呪文を唱えると、右の手のひらからちょろちょろと水が出てきた。

 母さんのウォーターと比べると発動にかかる時間と水の量が明らかに違う。


「うっ・・・・」


 何度かウォーターを試しているとひどい吐き気と目眩を感じた。


「今日の魔法の訓練はここまでね。これから少しずつ訓練しましょう。」


「わかったよ。吐き気と目眩がひどいや。」


「魔力が枯渇するとそういう症状がでるのよ。魔力残量には気をつけてね。ひどいと気を失うからね。」


 今の魔力量では5回分で魔力が枯渇することがわかった。


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 生活魔法は第0階梯にあたる魔法に分類される。

 ウォーターを基準として、5回で魔力が枯渇したため、現在の最大魔力量は5と仮定した。


 前世はそこそこのゲーマーだったので、数値で比較したほうがしっくりくるのだ。

 ほとんどの生活魔法は消費魔力1ということになる。


 母さんが言うには魔力を消費せずにできる訓練は、ひたすら体内で魔力を循環させる方法があるらしい。


 それからの日々はひたすら体内で魔力を循環させる修行を行った。

 起きている間だけではなく、寝ているときにもシーにコントロールさせて、魔力循環させつつ分析させていた。


 新たな発見として、起きている間は4時間で魔力が1回復するのに対し、

 寝ている間では2時間で魔力が1回復するのだ。

 この違いに秘密があると思うのだが、効率よく魔力を回復させる方法もシーに解析の依頼をしておいた。


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 初めての魔法の訓練から20日が経過したときに、ようやく最大魔力量が6に増えた。


 シーによる解析の結果、どうやら心臓に隣接するように魔力を発生させている臓器があるらしいということがわかった。

「魔力発生器官」というべき器官を活性化させることによって魔力の自然回復量が増えるのだ。


 いろいろ試行錯誤した結果、魔力回復量を睡眠時と同等にすることに成功した。意図的に魔力発生器官を活性化する技を瞑想と名付けた。そして、起きている時間も並列思考の1つに瞑想をさせ続けることで常に魔力回復量を増やすことにした。もうすでに瞑想って感じではないので「魔力自動回復」でいいか。


 魔力が減っている状態から、超回復によって魔力の最大量が増えるらしいこともわかった。

 つまり魔力を使い、回復すれば回復するほどに魔力の最大量が増えるのだ。このあたりは筋肉を酷使した後、超回復によって筋肉が肥大化していくところに似ている。魔力回復量の増加は最大魔力量を増やすために重要なのだ。


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 日々の畑仕事や家のことを手伝いつつ、魔法の修行をしながら過ごしていく。


 庭の木の下で座禅を組み、膝の上に両手を開いた状態で置く。「瞑想」状態を維持しつつ、両の手のひらの上に魔力の球を作り出す。魔力の球の属性を火水土風などに変化させたり、大きさを変化させたりを繰り返す。


 魔力は体から離れるほどに制御が難しくなる。そして、魔力を外に向けて放出しない限りは魔力は消費しない。瞑想で魔力を回復しつつ、回復した分の魔力だけを消費するようにすれば永久に修行できる。


 この修業法は魔力制御、属性変化、瞑想の魔力回復、最大魔力量の4つを同時に鍛えられるのだ。


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 5歳の誕生日を迎えてから3ヶ月と10日を超えたあたりで最大魔力量が10を超えてきた。そろそろ第1階梯の攻撃魔法が使えそうな予感がした。どうやら毎日1%ずつ最大魔力量が増えているようだ。ようするに日利1%の複利ってことだ。すげー。


「魔力よ、火の球となり敵を燃やせ、ファイヤーボール」


 庭にある木人に向けて魔法を撃ってみる。体中からほとんどの魔力が抜けていき、サッカーボールほどの火の球が的に向かっていく。魔力欠乏症にはならなかったが、結構ギリギリだった。魔力欠乏症になるとひどいめまいや吐き気が起こる。限界を超えるような魔法は発動せずに失敗するだろうが。


 呪文を唱えることで魔力制御を補助してくれ、魔法の過程や完成形をイメージし、魔力を送り込めば魔法が成立する。


 無詠唱を試してみたが魔法は成功するものの、魔力制御とイメージを同時を行う必要があり、魔法の発動はなかなか難しかった。高度思考を使って無詠唱をしたとしても、同時実行に限界がある。魔力操作の練度を鍛える必要があると感じた。


 無詠唱を練習するのも大事だが、切り札となりうるので、普段は魔法名を言う短縮詠唱を使うことにする。


 詠唱を行うことで魔力操作を肩代わりすることが出来る。無詠唱や短縮詠唱は、詠唱によって肩代わりされるはずの魔力操作を自分で行うことになる。車のマニュアル操作とオートマ操作の関係に似ている。逆にいうと、詠唱では魔法の自由度が低いが、無詠唱や短縮詠唱はイメージ次第で好きにカスタマイズできるということだ。


「炎弾」


 火の球を弾丸状に圧縮し、回転を加えて射出する魔法だ。火属性、圧縮、回転、直線射出をパターンとして予め決めてイメージしておく。この魔法のいいところは消費魔力量と比較して威力が高いことだ。効率的に魔力を操作することで消費魔力を5に軽減しつつも、威力はファイヤーボールを大きく上回る威力を出すことに成功した。


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 この世界での魔法について少し解説する。


 第0階梯は生活魔法で消費魔力は1。

 第1階梯は基本的な攻撃魔法で消費魔力は10。


 攻撃魔法、補助魔法、回復魔法などは第1階梯以上となる。


 第1階梯から第10階梯まで定義されている。


 第9階梯、第10階梯は複数人で発動する儀式魔法の扱いだ。


 第11階梯以上は定義されていない。神呪クラスになるだろう。


 それぞれの階梯で消費魔力量があるのだが、ステータスが可視化されていない世界なのでどれくらい魔力が必要なのか、現時点ではよくわからない。


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 僕が開発している魔法は、既存の魔法体系と全然違う。オリジナルでかつ、効率のいい魔法を目指している。日々の日課にオリジナル魔法を作成する作業が追加されたのであった。


 作りたい魔法はたくさんある。最低限の各属性の攻撃魔法、障壁(物理、魔法)、身体強化、身体負荷、探知系(魔力、熱源)、逆に探知されない隠蔽系(光学迷彩、魔力偽装)。暇があるときにどんどん魔法を開発していこう。よく使う障壁や身体強化、探知系は無詠唱で出来るようにもなっておく必要があるな。

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