第2話

 目覚めてからの3日間は考える時間だけはたっぷりあった。


 死んだ瞬間の記憶は残っていなかったが、家族もおらず独身アラサー男子だったため、前世についての心残りはもうなかった。その代わりに死んだ後の記憶が残っていたため、これを考察していた。


 死後の世界についてだが、魂と思われる火の玉となり、長い光の回廊に順番に並ばされる。回廊の先には大きな門があり、門の左右には凹凸もなくのっぺらなヒトガタの門番らしきものが立っている。


 順に並んでいた魂は門を入ったところにある光の円で立ち止まり、ヒトガタが手をかざすとなんらかの処理されるようだ。

 現在処理を受けている魂から小さな白い光、小さな黒い光が抜けて天に登っていくのが見える。


 しばらく待っていると、いよいよ自分の番となり、門の入口付近の光の円の中心で立ち止まらさせられた。

 左右の門番が自分に向かって手を伸ばす。

 すると自分から小さな白い光、小さな黒い光が抜けていく。


 魂の初期化とよぶべき処理を受け始めてすぐに、自分の後ろに並んでいた魂が暴れだした。

 そいつは魂の色が真っ黒なため、生前は極悪人だったのかもしれない。

 ヒトガタの門番が極悪人の鎮圧に向かったため、自分は放置されたままとなった。


 暴れる極悪人を取り押さえるため、どこからともなくヒトガタが10人ほど現れた。

 極悪人とヒトガタが激しくもみ合う形になり、魂の初期化の処理が完了しないうちに門の先へと弾き飛ばされた。

 死後の世界での記憶はここで途切れている。


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 今考えてみると、善行や徳といったプラスのエネルギーは白い光。罪や咎のようなものは黒い光だったのではないか。

 そして魂に定着するほどの濃い記憶なども一緒に魂から抜けていくようだった。


 魂から吸い上げたプラスのエネルギー、マイナスのエネルギーを元に世界は成り立っているのではないかと考えられる。

 記憶は脳に蓄えられると思っていたが、強く印象付けられた記憶は魂にも定着するのは意外だと思った。


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 このような考察をずっと繰り返していた結果、自分にはすでに【高度思考】と呼ぶべきギフトがすでにあるとわかった。


 【高度思考】とは【高速思考】と【並列思考】が合わさったようなギフトだ。

 現状のスペックは【高速思考】は通常の2倍ほどの速度で物事を考えることができる。

 【並列思考】は同時に4つまで同時に物事を考えることができる。


 前世でプログラマーをやっていたためなのか、自分とは非常に相性がいいと思う。

 ただし、副作用というかマイナスの要素もある。

 高速で同時に考えることができるということは、人の何倍もの速度で精神が老齢するということだ。

 これはリスクでもあると感じたので高度思考を統括する人工知能というか疑似人格を作り上げることにした。


 CPUをもじって「シー」と名付けた疑似人格にすべての並列思考を統括させるようにした。

 これにより、無意識下や眠っているときでさえ、並列思考を有効活用できるようになった。


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「シー、死後の世界についてはどう思う?」


『はい、マスター。第一に集めた魂の初期化が目的だと思われます。第二に善行や徳、罪や咎といった精神エネルギーを集めているのでしょう。そして集めた精神エネルギーは世界を動かすエネルギーとして利用されていると考えられます。』


「では、ギフトについてはどう思う?」


『はい、マスター。ギフトはある程度成長した魂に宿ると考えられます。加えてこの世界では魔物や魔法といった危険が多いため、それの対抗手段として神が設定した保護機能だと思われます。』


「では、自分にすでにギフトがある点については?」


『はい、マスター。魂の初期化と呼ぶべき処理が不完全で前世の魂を濃く引き継いだ結果、ギフトが残留していると考えられます。基本的に1つの魂に1つのギフトが宿ると考えられます。』


「では、ギフトの成長については?」


『はい、マスター。1つは魂の経験値を貯める。これは善行や徳、罪や咎といったものを経験することを指します。次にギフト自体を何度も使うことによって、熟練度が高まることで成長すると考えられます。』


「では、5歳で記憶が戻った理由は?」


『はい、マスター。前世の記憶や先天的ギフトは魂に定着しています。これらを受け入れる器が生まれた直後では小さいからだと思われます。ちょうど5歳になったときに受け入れられる器の大きさになったのでしょう。』


「なるほど、だいたいわかったよ。」


 自分でも同じ結論に至ったが、第三者目線から言われることで改めて納得できた。

 シーはいわば自分の分身で同じ思考を持つものではあるが、客観性を重視しており感情性は排除している。

 ドライというか機械的に物事を判断、考察できるところが強みだ。


 これからシーには高速思考、並列思考を駆使してもらっていくつもりだ。

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