糸使い

南無4

幼年期

第1話

「ん、ここは・・・」


 ぼーっとした頭でふらふらっと体を起こして周りを見渡す。見覚えのない部屋だ。日差しがよく差し込み、明るい室内で6畳くらいの広さがある。自分から出た高い声、見える小さな手、どうやら自分は子供であるらしい。


「目が覚めたのね、よかったわ。体調はどう?」


 部屋のドア近くの椅子に座りながら編み物をしている女性が声をかけてくる。10代後半に見える容姿だ。淡い緑色のストレートヘアーで、顔は物凄く美形。


「えと、あなたは・・・」


 いきなり話しかけられて驚いて、とっさに変な回答をしてしまった。


「眠りすぎて混乱しているのね。私はあなたの母親のシンシアよ。そしてあなたの名前はシルク。ちゃんと覚えてる?」


 シンシアが心配そうに近づいてきて、頭や体に触れてくる。


「熱は下がっているし、他に異常はなさそうね。」


 あぁ、そうだった。僕の名前はシルクだ。5歳の誕生日にひどい頭痛に襲われて、倒れてしまったのだった。自分のことをシルクだと認識すると頭の中がクリアになって、今までの記憶を思い出してきた。


「あぁ、大丈夫。ちゃんと覚えているよ、母さん。」


「そう、よかった。今から軽く食べれるものを用意するわね。」


 そう言って母さんは部屋から出ていった。まず、覚えている記憶を整理しよう。


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 まずは自分のことから思い出してみよう。僕の名前はシルク。5歳の誕生日に頭痛で3日間寝込んでいたため、つい3日前に5歳になったばかりだ。身長は平均よりも少し低いくらいで、体型は痩せ型。


 両親に似たのか将来のルックスには期待が持てそうだ。特徴的なのは髪の色で、透明感のある白髪だ。髪の毛の色が名前の由来になっている。


 ある程度、現状を思い出したところで、前世にあたる記憶があることに気がついた。前世の記憶とシルクの記憶と違和感なく統合されていくように感じる。


 地球で日本人だった前世、冴えないアラサーのサラリーマンでプログラマーだった。アニメやラノベをよく読んでいたため、ファンタジー世界には憧れは持っていた。


 プログラミングが趣味で、寝食を忘れて没頭することも多かった。自分の想像力が形になることに楽しみを感じるタイプであった。


 プログラマーは新しい機器や技術も大好きだ。プログラム言語も勉強しないと使いこなせないため、勉強することに対しても忌避感がない。好きなことに対しては貪欲に突き進む感じだ。


 まぁ、前世の記憶があるといっても体は子供なため、精神は子供に引っ張られているようだ。

 異世界転生のテンプレのようで今後が楽しみな気持ちもある。


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 家族構成は、父さんと母さん、そして妹の4人家族だ。


 父さんの名前はジンク。32歳で、元Aランク冒険者で剣士。盾と片手剣を扱う標準的な剣士だ。仕事は畑仕事や狩猟、自衛団をやっている。


 ギフトは剣術適正(Cランクギフト)。戦闘技能を伸ばす系のギフトは安定感があり人気がある。体型は痩せつつもきちんと鍛えられている肉体を持っている。顔は非常にかっこよく、金髪のサラサラヘアーをポニーテールのように縛っている。


 母さんの名前はシンシア。31歳で、元Aランク冒険者で治療師。定期的に教会で治療師の仕事をしている。


 ギフトは回復適正(Cランクギフト)。回復魔法の効果拡張、効果増量、消費魔力軽減といった効果がある。回復魔法はとくに有用な魔法なので、非常に使えるギフトだ。淡い緑色の髪のロングヘアーの美人だ。すごく若く見え、10代後半と言っても通用しそうだ。


 妹の名前はフレア。3歳。とてもかわいらしく目に入れても痛くないと言える。5歳の少年であるところの僕にはロクな仕事がないため、家で妹と遊ぶことが仕事みたいなものだ。


 小さい村で同年代の子供がいないこともあり、ほとんど一緒に過ごしている。これはシスコンと呼ばれても仕方のないレベルだ。


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 この世界についておさらいしておこう。


 この世界の名前はアルカディア。そして剣と魔法、魔物やダンジョンがあるよくあるファンタジーの世界観だ。


 リアルなので当たり前だが、ステータスは数値化されていないし、スキルのレベルといったものも見えない。もちろん、レベルという概念もない。魔力や闘気があるためか、訓練や実戦を繰り返すことで強くなっていくことが可能だ。


 時間の概念は地球とは結構似ていて、1日は24時間、1時間は60分、1ヶ月は30日、1年は12ヶ月だ。1週間は6日、基本属性4種の火水土風、特殊属性2種の光闇で曜日が設定されている。つまり1ヶ月は5週間だ。とても計算しやすくてありがたい。この世界を作った神様には感謝だな。


 そしてこの世界でもっとも特徴的なのは、人族は10歳前後にギフトを発現する。ギフトはFランクからSランクまで様々だ。


 勇者や剣聖のような戦闘用スキルで強力であればランクが高い。逆にデザインセンス適正や鍛冶適正のような生産性のギフトはランクが低い傾向がある。とはいえ、ギフトの有用性に人間が勝手にランク付けしたものだが。


 ギフトには目に見えないが熟練度というかレベルのようなものがあり、使い続けると効果が上がったり、効果が広くなったりする。このあたりは勉強や運動と同じだ。


 魔法や技能には、才能が関係して効果が高くなったり、習得が早かったする。ただし、誰でも習得の可能性があり、特定の才能がないと覚えれなかったりするということはない。ギフトと同じように使い続けることで熟練度が上がっていく。ただし、向き不向きがあるためすべての属性が同じように使えるというわけでもない。


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 次に村の説明をしよう。ここはクォリア王国の開拓村の1つ、フェイ村という。特に特産物はない。人口は60人程度の小さな開拓村だ。こういう開拓村は村長の名前がつけられる事が多い。子供の数は少なく、10歳未満は自分と妹の他には4名しかいない。ギフトが発現してから大人とみなし、大人と同じように扱われる。


 畑仕事をしつつ、たまに安全の確保のために魔物を狩ったり、食料を探して狩猟に近くの森へ入る。周りの木々を切り倒し畑を拡張していく。畑では麦や綿のようなものを育てている。まわりに出る魔物は比較的弱いものが多く、イノシシやシカのような可食部位がある魔物が狙いだ。


 父さんの仕事は、畑仕事がメインで、他に開墾したり、周辺の魔物退治を行っている。開拓村では畑を広げていく関係で防衛の高い防壁などは作られていない。せいぜいが木で作った柵のようなもので囲っているだけだ。


 母さんの仕事は、基本的に内職で服飾系の仕事をしている。たまに教会に行って治療師としても活躍している。魔物との関わりが多い開拓村では怪我人がよく出るため、治療師は大事な仕事なのだ。


 村の中ではほとんどが物々交換で成り立っており、お金は近くの町からくる行商人とのやり取りでしか利用しない。特に魔物から取れる魔石は村の中では役にたたないのでお金に変えるしかない。


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 しばらく考察していると、母さんが食事を持ってきてくれた。


 前世でいうところのポトフに似たようなものを素早く平らげる。3日間眠っていた体は栄養を欲していたのだ。


「どうやら体調のほうはずいぶんよくなったみたいね。約束していた魔法を教える訓練は3日後に行いましょう。それまでは大人しく安静にしていなさい。」


 そうなのだ、実は5歳になったら魔法の訓練を開始する予定だったのだ。あと3日ほど大人しくしていれば、念願の魔法を習うことができる。今から楽しみでしょうがない。


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 この段階では気がついていなかったが、前世の記憶と、プログラマーという職業、そしてこのあと与えられるギフトによる相乗効果によってチート並みの強さを手に入れることになる。


 勇者や剣聖のように特別な役割など与えられていないが、世界に影響を及ぼし、波乱万丈の人生を歩むことになるのであった。

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