死刑不要論・必要論

エリー.ファー

死刑不要論・必要論

 死刑など必要ない。不要だ。

 人が人を殺すなどあってはならない。

 よく、国が人を殺しているのであって、人が人を殺しているわけではないと屁理屈をこねる人間がいる。

 間違っている。

 国とは人によって形作られている。

 つまり、人の手が血にまみれているということである。

 人は、その手で、我が子を強く抱きしめられるのか、その手で愛する人を優しく抱けるのか、その手で固く握手を交わせるのか。

 死刑とは、人の中にあった残虐さを制度という形で表出させたものである。

 見る必要のないものだ。

 気づく必要のないものだ。

 共有する必要のないものだ。

 人は醜い生き物でありながら、綺麗事をぬかしたがる。

 けれど。

 その綺麗事がなければ、人ではない。

 綺麗事によって平和が現れ、文化が生まれ、社会となった。

 人を人たらしめたものは、綺麗事である。

 死刑は不要と考える。




 死刑は必要である。

 人の手が血にまみれていることを忘れないためである。

 死刑というものがなかったとして、社会は人に死を押し付けていないと言い切れるのか。

 そんなことはない。

 社会はいつだって、人を殺してきたのだ。

 いや。

 人は人を殺してきたのだ。

 命を奪うというだけではない。

 心を奪い。

 身分を奪い。

 財産を奪い。

 思考を奪い。

 仲間を奪い。

 未来を奪ってきた。

 死刑を失くしたとして、同じような制度は必ず現れる。

 何故なら、人というのは異分子を排除することでしか平穏を保てないからである。

 死刑がなくなると。

 死刑によく似た制度が現れる。

 それは、何かに、いや、誰かに。

 異分子とラベリングした存在たちに。

 死ではない何かを押し付ける制度である。

 それが、死刑ではないから。

 それが、殺すわけではないから。

 それが、命を奪うものではないから。

 あぁ、良かった。

 死刑がこれでなくなった。平和だ、平和だ。良かった、良かった。

 僕らの手が血まみれにならなくて済む。

 と、なるわけがないだろうが。馬鹿が。

 馬鹿じゃないのか。本当に馬鹿なんじゃないのか。

 人は、死刑がなくなれば、その手が血で汚れなくなると思っている。

 馬鹿が。

 最初から、ずっと。

 人の手は血まみれなんだよ。

 死刑の廃止とは、失明だ。

 血まみれの手が見えなくなるだけだ。

 分かりにくくなるだけだ。

 死という文字がなくなるから気分が良くなるだけだ。

 死という文字がなくなるから悩みにくくなるだけだ。

 死という文字がなくなるから自分の所属する社会が誰も殺していないと勘違いしやすくなるだけだ。

 自分が。

 誰も殺していないと信じたいだけだ。

 本当に、本当に、本当に申し訳ないが。

 この歪んでしまった社会において。

 死刑ほど健全な仕組みはないよ。




「で、お前はどっちなんだよ」

「何が」

「死刑が必要か、不要か」

「どっちでもいい」

「え」

「どっちでもいいよ別に」

「なんでだよ、お前、めっちゃ熱く言ってたじゃん」

「必要だったら必要っぽく言うし、不要だったら不要っぽく言うし」

「お前、マジで終わってるな」

「でもさ。俺たちは別に死刑にならないじゃん」

「まぁ、その。何かめっちゃ変な社会になったり、悪いことしなきゃな」

「俺はこれまでも、これからも普通に生きるわけよ。ていうことは、一般的には死刑にはならない側じゃん」

「おう」

「じゃあ、死刑にならないのに、なんで死刑について考えなきゃいけないわけ。クソ面倒なんだけど」

「でも、考えた方がいいんじゃねぇの。大事な問題っぽいじゃん」

「何を真剣に考えるかは、俺が決めることだから。他人とか社会とかが決めることじゃないから」

「まぁ、そうだけど」

「それに」

「それに、なんだよ」

「そんな俺でも、あんな感じで喋れるわけよ。それっぽく熱量が籠ってるように聞こえたでしょ。じゃあ、いいじゃん」

「まぁ、お前がいいなら、それでいいけど」

「それにさぁ、この会話だって全部俺の独り言じゃん」

「まぁ、これも俺の言葉だし」

「そっちも俺の言葉だもんなぁ」

「ずっと一人で喋って」

「ずっと会話っぽくしてるの飽きたぜ」

「ずっと」

「ずっとだもんなぁ」

「マジで退屈」

「俺も、そう」

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