第5話
「デレレレデレレレデレレレデデデンデレレレデレレレデレレレデデデn」
アラーム…あぁ…朝か…なんか…いつもより…腰痛い…あぁ…そうだった…今日は遊園地で、昨日はまあなんやかんやあり、なんかキャラ変わってキャピりだした胡桃がこの家に永住するみたいなことを堂々宣言されーの、とりあえずベッドがないから胡桃をベッドに行かせて、俺がソファーで寝たんだった。
眠気はない、が首と腰がどうにも…
あれだな、胡桃が永住するって言い張ってる内は折れないだろうし、別にあいつが永住してもあいつにデメリットはないし、俺は割とやること増えるけど…まあ…とりあえず今日の遊園地は行くだけ行って、可能なら今日中にでも、敷布団買いたい…そのくらい…腰痛い…。
んで、アラームは早めにセットしたから今は4時のはず……
俺は眠い目を擦りながらスマホをズボンのポケットに入れて、とりあえず顔を洗いに行く。まあ、どうにかなるだろ…。昨日の連絡で、一応松谷からはOKもらってるし、昼飯も園内の施設で食べるらしいから、まあ夕飯は帰ってきてからなんとかなるだろ…
つまり俺がやることは…
「朝飯だな!」
そう言って、顔を洗う。
今日はもう何事もなく、平和に、平和にそれなりに過ごせることを一番期待している。現地集合で10時だろ?4時に起きている俺には死角なしだ。6時間もある。内訳で家から駅、そこから電車で少なくとも1時間半は交通に消えても、着替えに迷っても、なんの問題もない。俺にはまだそれを引いても3時間はあると断言できる。
だからまじゆっくりできる。とりあえず胡桃を起こす時間と胡桃が着替えに迷うかもしれない時間を逆算して、胡桃を起こすのは…6時、今から2時間後だ、余裕すぎる。今からシャワーにいっても、コンビニにいって何かを迷いながら買っても余裕で間に合う時間だ、優雅だ、優雅である。まだ4時台!優雅すぎる!夏だからな!もう外は明るいが、それでも早起きとは、ここまで優雅なのか!これから毎日胡桃の飯とか家事が増えるからという理由で練習がてら始めた早起きだが、こんなにも素敵なら毎日できるかもしれない。これからは早起きに励もう。
「お兄!起きたんだ!おはよっ!今日の遊園地楽しみやねっ!!」
・・・ん??
………え??胡桃の方が、早起き…?
「お、おう、胡桃、おはよう。ところで、お前、何時に起きた?3時か?それとも、寝てないのか?」
「お兄〜?うちが起きたんは6時半だよ〜?まだ寝ぼけてるの?」
うーんと……??わからん…わからんぞ…時間が逆行しているのか…?それとも胡桃は昨日俺を叩き起こした日の6時半に起きて、そこからオールしているのか…?そうか!それなら胡桃がここまでキャピってるのも、ナチュラルハイだと仮定すれば納得がいく!それか!!
「お兄?なんか勘違いしてそうだから、言っとくね!今7時だよ?」
………ホワッツ!?……!?!?
いや!そんなはずはない!俺はっ!俺は確かに4時に設定したアラームを止めたっ!手癖で止めたが、止めたっ!夢じゃないっ!俺の、俺の記憶が間違ってると言うのか…!?
「お〜に〜い〜、なんかわかんないけど、今は7時だって言ってるじゃ〜ん、スマホに書いてるも〜ん。」
……はっ!そうか!確かにスマホを見れば今何時かわかる!そうなれば、この不可解な現象に終止符が打てる!これでもし、スマホが7時なら、夢だ!これは夢なんだ!で終われる!スマホが4時なら胡桃が寝ぼけてるだけだ!よし、夢か現実か、この勝負に決着をつけよう…。
俺はポッケに入れたスマホを取り出す。
よし、後は電源を入れるだけだ…!
………なっ!?スマホの電源ボタンを押そうとすると、指に力が入らないッ!?これは、俺の本能がその画面を見るなと警告しているッ!!そうだ、これは夢の中で間違いないッ!!
スマホの画面がふっと点いた。表示されたのは07時08分、間違いなく書いてあるのは07時だ。
しかぁぁし!ここは夢の中!そもそもスマホは勝手に点かないし!7時などあり得ない!フハハハハ!俺の勝ちだぁッ!
「お兄?早く準備しないと!電車乗れなくなっちゃうよ?」
「何を言ってるんだ?ここは夢の中だぞ?遊園地も起きてから行けばいい!今はこの夢の世界を堪能するに限るだろう!よし!俺は今からゲームをする!」
「お兄?現実なのになんで夢の中だと思ってんの!?ついに頭がバカ通り越して無になっちゃったの!?」
あれ…?この言い方…ちょっと現実のナチュラルハイじゃない胡桃の要素もあるぞ…?だが…だがしかぁし!
「……え?いやいやいやいや、胡桃よ、聞け。まず、俺は4時にアラームをセットして寝た、そしてアラームが鳴り、しっかりその時に起きた。まずこの時点で7時はあり得ないだ。そして、もう一つ決定的な証拠が、俺のスマホが電源ボタンを押していないのに勝手に点いたことについてだ!もうこれは言い逃れできまぁい!」
どうだ、俺の夢の中の胡桃、これでもう言い返せまい!
「えっと…まず…お兄は確かに4時にアラーム鳴ってるのは、なんかうちは寝ぼけてたけどなんとなく聞こえた。それは確かに4時なんだけど、すぐ止めた後にまたいびきかいて寝てたよ?」
「お、お、おおお?おお…おお!それはそうとしてもだ!!スマホが勝手に点くのはどう説明する!?」
これは証明できまい…!!なぜなら夢の中はご都合主義だからなッ!!
「えっとね、お兄の機種は多分太陽センサーで光を内カメが認識したら勝手に点く仕様なんだけど…」
………あ、確かに…なんか…うん…太陽センサーの話、機種変のときにショップ店員さんにすっごいさらっと言われた気がする…。んでまぁ、昼休憩のときに会社から外に出てスマホ見たときとか、割と勝手に点いてた気がする…もう癖になってて、なんか…忘れてたよね…
「え…あ、あの、でも、でもな胡桃?ご都合主義ってやつじゃないのか?ああ言えばこう言われるみたいな、あれじゃないのか?」
頼む!頼む胡桃!お兄ちゃんの楽園を…!!
「う〜ん、お兄…これはちょっと言いたくないけど、事実で現実なんだ〜…」
失楽園だわ〜。もしくは俺のラピ○タが崩れる音だわ〜。
「……うん、なんか、途中から…そんな気は…してた…うん…。」
「お兄、泣かないで…現実でも、きっといいことあるよ。お兄のことがこんなにも好きな妹もいるんだし、元気出して?」
う〜ん、嬉しいんだけど、胡桃のそのキャラ変が一番現実要素薄れさせてんのよ〜…。
んで、あれか、今は4時ではなく、7時ちょいと、んで、10時集合の、俺寝起きの、8時には家を出たい…と。
あれ?ちょっと急がなきゃいけないやつじゃね?
「胡桃。」
「ど〜したの?」
「朝の準備を秒でするからちょっとソファにでもいっててくれるか?。」
「お兄〜。だめだよぉ〜多分お兄だけ頑張っても、ギリギリセーフかワンチャン間に合わないから〜。」
そんなのわかってる!わかってるんだ!
「いや、胡桃、でもな、男にはやらねばならぬときってのが、あるんだ。」
そう、それは今だ。
「お兄?そろそろ目を覚まして周り見て?」
え?
「あの、これは…」
ちょっと…僕…寝てましたよね?
「お兄が起きないから、うちもう朝ごはんとか大体のことやっちゃった。後は昨日選んだ服に着替えるだけかな。」
テーブルの上に食事あるんだけど…??
長年、朝食ではパン食より時間がかかるから諦めてた、白米と漬物と味噌汁があるんだけど…?
天才過ぎん?これ、血が繋がってなかったら求婚してたよ?毎日プロポーズさせてほしいよこんなレベル?
「とりあえずお兄は食べて。うちはもう済ませたし洗い物も終わってるし、他も大体済んでるから、後はお兄だけ。」
「あ、あぁ、うん。」
そして俺は席につく。
そう、この食卓。もう何年も見てないこの食卓。実家に帰るときとか正月だけやからおせちと餅ばっかりで、ほんまのほんまに何年ぶりレベルの温かい飯。こんなん、こんなん、俺が大学時代から封印してた、あれが…あれが出てまう…あかん…これは…大学でいじられて嫌で、やめたんや。あかん、でも、味噌汁の味が、味噌汁の味が、全てを溶かして、思い出させてくれる…!
「うおおおん!!胡桃の飯は実家の味やぁ〜!!うますぎる!俺もうなんか、泣けるう!寧ろ泣きたいわ!もう胡桃好き!もう大好き!可能なら結婚したかった!あああ!もうこんなんあかんわ!うますぎて食が進む進む!もう最高やわ!ああぁ!!うまいぃい!!」
「ちょっとお兄、喜びすぎ…照れるわ…」
「うおぉ…うまかったぁ…ありがと!ごちそーさん!」
はっ!ダメだ!
胡桃の朝ごはんが美味しすぎて、ついつい地元の方言丸出しの思考回路になってしまってた…!懐かしすぎたんや…!っておいおい!また戻ってる!落ち着け!落ち着くんだ…ふぅ〜。
「いや、本当に朝ごはんありがとな。すごく美味しかったぜ。」
よしよしよし、封印できてるよ〜、いいぞ〜!
…なんか胡桃がやたらめったら笑顔だが?
「にへへ〜 やっとお兄の方言聞けた〜!これやないと、お兄って感じしやんもんなぁ〜にへへ〜。」
めちゃめちゃ機嫌いいな…。
「あっ!お兄!食器とかもう運ぶんも洗うんもうちがするから、お兄は着替えてから昨日支度してたお兄とうちの鞄でも玄関に置いといて〜。」
「お、おう」
んでもってすっごいしっかりしてるや〜ん…。
これ、家事関連に、俺必要なくない…?
ま、服は適当で良いや、別にデートとかじゃないしな…。
ああああ〜女の子とデート行きてぇ〜…
最後にちゃんとそれっぽいデートしたのとかいつよ?もう8年前よ!泣くよ!
よし、まあ、外に出て恥ずかしくない程度の一般的な服も選んだし、あとはリビングの胡桃の鞄と俺のショルダーを玄関に置くだけ…。
「お兄〜!ごめ〜ん、一個忘れてた〜!」
ん!?ここに来て緊急事態!?今何時だ………7時45分!?あれ…真面目にまずい…?
「どうした胡桃!何があった!!」
俺はすかさず声が聞こえた胡桃が来たときの荷物が置いてある俺の部屋だった場所に直行する。
「お兄ごめ〜ん、うち、今日着ていく服めっちゃ迷ってしもて、2つまでは絞ってんけど、どっちにするかまでは決めれんと寝ちゃってたのを今思い出した〜!」
俺が一番危惧した問題、予防しまくって、いや、予防できてないけど、出発15分前に直面して解決できる問題じゃない!!これは、究極の二択!!お兄ちゃんにはその二択、選ぶことすらきつすぎる!!
確かに、これが俺と胡桃の二人の外出だったらどこであろうと別に問題ははかったし、胡桃自身が気にすることでもないだろう。しかし、しかしだ、今日の遊園地、同僚の松谷は勿論、聞いてないけど、多分他の色んな人を誘ってると思われる!だって松谷人当たりいいもん!なんなら昨日の昼に誘われたときも、連絡来てたときも、他は誰も誘う予定はないですって来てないし、なんなら普通に二人きりだと気まずいだろうし、胡桃を連れて行っていい事実が何よりの証拠!!
つまり…これは俺の優秀な妹が、胡桃個人としてではなく、俺の妹「石本 胡桃」として色んな人から好き勝手に見た目評価を受けてしまう物凄く俺にとっても、胡桃にとっても辛いしめんどくさいイベントなのだ!!
あぁ、断れば良かった…。牛丼屋のときは遊園地に行くなんて思いもしなかったんだよ…。断り辛い状況になってから遊園地だったからなぁ…きついなぁ…
「お兄?どっちがいいと思う?」
ああ!そうだ!こんなことを考えていても、決めても決めなくても、どちらにせよ、その審判の時は訪れる!ならば、俺がしなければならないことは、その後を考えることでも、断るための適当な理由を考えることでもない!
一刻も早く、胡桃の選んだ2つの服で、外から見てまともな方を選ぶことだ…!
ーーー
「お兄、悩むね…。」
現在時刻 午前7時50分
出発時刻まで、後、10分。
俺は、ベッドの上に並べられた2つの服を見比べては、考えを巡らせていた。
右の服は極めて露出の少ないゆるふわガーリー系とも見れるような、明るめの色を基調としたなんかひらひらしたワンピースみたいな服だ、俺は服に関しては詳しくないから名称とかは全然わからんが、この服は全体が白っぽい。そしてワンポイント胸元に紺色のリボンがある。
この服はまあまあ、遊園地に行く分にも、変に見られることはない。ただ、松谷の連れてくる人たちが、もし大人の上層部的な人たちだったと考えろ!この服は、多少子どもっぽいと、言われてもおかしくはない……。
いや…?左の服よりは大人に見える…。だったら右の服のほうがマシなのか…?
うーーん、これは、右と言うべきだ、よし、右と言おう。
とその前に…
「うん、俺の中でどっちがいいかは大体固まったんだけど、胡桃は俺にどういう基準で選んでほしいんだ?」
「ん?お兄の好きな方。」
好きな方ッ!?
「いや、正直、胡桃は何着ても似合うから、何着ても好きなんだが…。」
こう言うが、好きな方…か…。
そう言われると、また悩む。
右は俺は好きだが多分老若男女誰しもある程度は好感が持てるだろう。
しかし俺は左も好きだ。なんなら俺個人の話になると左の方が好きだ、ただし、この服を胡桃に着られたら、恐らく俺は実の妹の胡桃であろうが、本気で惚れてしまうだろうし、手を出す可能性だって考えられるくらい俺に刺さる服装だ。そういう意味でもやめたほうがいい。やはりここは右だ。
「ここはみg」
「ちなみに好きってのは見てて好きでもなんでも良いけど、うちとしてはどっちのほうがお兄がうちに触りたくなるかで考えてくれるのが一番嬉しいなぁ。」
「左で。…うん…左で。確定で…オナシャス…。」
「は〜い!じゃあすぐ着替えるから、お兄ちょっと部屋出といて〜。」
「あっ…はい。」
やらかした。私欲に負けて左って言ってしまった。色々まずい。あれも別段露出自体は高いわけじゃない。しかしピンクと黒のどちらも色としてある上に割合はピンクのほうが高い。でもって、なんか、あれはなんて名前なんだ…?俺で言うシャツとか、そういう系のなんか…上に着る服なんだが、めちゃめちゃピンクでリボンとかフリルとかついてた。なんなら下のスカートも真っ黒のフリフリだった…。
それで更に今日の胡桃のメイクと相まって、俺の予想の見立ては…!
「お兄〜!おまたせ〜!行こ〜!!」
や、やはり…これは…!
俺がネットの画像の女の子で一番にやけながら可愛い可愛いと愛でていた、あの…あの服装とあのメイクは…!
「お兄どうした〜ん?」
ネットで見ていた地雷系である。
「すまん、胡桃、これ以上俺に近づかないでくれるか…?」
これ以上近づかれたら、もう俺はお前を妹として見れないんだ…許せ、胡桃…これも家族の絆を守るためだ…
「お兄…近づかないのは、うちには無理やわ。だから!逆に〜こうっ!」
!?!?
なんだ…この少しの間に何があった…!?
俺が長い瞬きをしたとでも言うのだろうか…
目の前から、妹が消えた…?
「お兄、行こ…?」
あれ?声は聞こえる。右から。なんか息もかかった…ような?
ん?右から?左からは聞こえない?
俺の左耳、聴力なくなったか…?
いや、そんなはずはない…となると、俺の頭に考えられる可能性はたった一つ…!
しかしそれは決して兄妹で越えてはならない絆と愛のボーダーラインッ!
これで越えていない、そんな可能性はない!と言い張れれば、証明できれば、俺の考えなんて、どれほどつまらなく、どれほど思い過ごしで、どれほど楽になり、家を出られるだろうか。
そう、今の俺には、その可能性が100%ないと証明できる理由が、見事に何一つない。
というより、次に思う三つの理由により、その可能性を確信してしまっているため、100%ないどころか、100%ある、という次元にまで行ってしまっている。
そのうちのまず一つは、視覚的情報である。先程の俺は左耳が聞こえなくなったかと自分の左耳を疑っただけであり、恐れ多い可能性を信じたくない俺は右を向けていない。つまり、右にもし胡桃がいたなら、目の前から消えた理由も合点がいくし、実際に右にいるのであろう。右にいるだけであるならば、別に何も恐れることはない。しかし、次の2つの理由が、俺をここまで追い詰めている。
続いての二つ目の理由は、聴覚的情報である。これは、右から聞こえた。ただそれだけ、それだけのはずだった…。しかし左から聞こえない。しかも結構右だけにしては大きな聞こえ方であった。まるで、現実的な距離がすごく近くて、例えるならそう、漫画とかでよくある、耳元で囁かれるやつ!それの声量を普通よりちょっとだけ抑えたバージョンみたいな、もう、俺みたいな残念な男がいかにも想像しそうなシチュエーションである。これだけでもボーダーライン突破の可能性を軽く疑うレベルだが、最後の理由がもう、証明しちゃってんのよ…。
最後の三つ目の理由。これが、感覚だ…。
まず、さっき耳元で声をかけられたと思ったときにちゃんと息もかかっていた。まあ、ここまでだったら、声をかける動作と言う一時的なものでもあるので、別段ここまでだったら100%あるとは、ならなかっただろう。まだ誤魔化す言葉を考えられただろう。
しかし、もう一つの感覚がこの可能性が100%である、という事実をより強固なものとしている。
その時から今まで、継続的に、右腕が何者かに触れられているのだ。更に細かく言うと、触れられるなんて可愛いものじゃない。これは所謂、『ガッツリホールド』だ。もう、ここまで感じてしまっていては、逆にそうじゃない可能性を証明することが不可能なのだ。
・・・そうか胡桃、お前は、その家族の絆は腕を絡めたぐらいじゃ壊れないと思ってるのか…。すまなかった、俺が興奮したばっかりに。右を見る覚悟ができていなかった。そうだよな!兄妹で腕を絡めてイチャイチャ風に歩いたところで、俺たちは血の繋がった兄妹であり、それ以上はあり得ないよな!ありがとう!ありがとう胡桃!俺にとって一番大切なものを、家族の絆の本質を思い出させてくれて!胡桃!お前は俺の最高の妹だ!
さあ!覚悟はできた!右を向くぜ!
「ああ、行くか、胡桃。」
「お兄…!行く前にちょっと…一言…だけ…。」
どうした、胡桃顔真っ赤だな、熱でもあるのか?まあ、聞いてから熱を測らせよう。
「お…?おう、わかった。」
「耳、貸して…。」
お、おお?家の中だから別に多少何か言っても聞こえないが?
・・・まあ、仕方ない、胡桃がなんか伝えたいんだろう。聞くのが兄としての責務だ。
俺は胡桃の口元に耳を寄せる。
「お兄、いや、お兄ちゃん……いや、琢磨くん…うち、うちね、琢磨くんのことが………」
ブー ブー ブー ブー ブー ブー
「あ、電話だわ、すまん、後で頼むわ!」
まあ、何だったのかはわからんが、後で聞くし、電話は…?松谷だな、何の用だ?今は7時55分、まだ大丈夫なはずだが…
「もしもし?どうした松谷」
「あ、もしもし!石本さんですか?」
「あぁ、俺だけど?」
「ついに今日ですね!遊園地!」
「あー。そう、だ、な、うん。」
「私そろそろ家を出るので、また現地でお会いしましょ!!胡桃ちゃんにもよろしくお伝えください!」
「あ〜、はい、おっけー、そしたら俺も胡桃連れてそろそろ出発するから、また現地ってことで。」
「は〜い!では〜!」
「あ、そういy」
ツー ツー ツー ツー
あいつ切りやがった…今日何人くらい来るのか聞こうと思ったのに…
もっかいかけるのもめんどくさいし、メッセージで聞いとこ…。
「よし、胡桃、待たせたな!行くか!」
「ぅ、うん…。」
なんか元気なくなってるぞ?やっぱり風邪か?
「胡桃、大丈夫か?風邪引いてないか?」
「ひ、引いてないわ!もう!行く!」
うん、元気そうだな、だったら大丈夫かな。
「よし、忘れ物ないな?」
「ない!」
「よし、行くか!」
俺たちは、まず駅に向かう。
俺の好みの服を着た妹が色んな人に見られ、あの子地雷系じゃね?みたいなのは正直言われたくないが…それ以上に俺が地雷系の服が似合う胡桃と遊園地に行きたいという私欲に負けてしまった…
だから、俺の遊園地でのミッションは胡桃をあらゆるものから守ること!だな。
「んで、胡桃、さっき後にしてもらったやつ、あれ何を言おうとしてたんだ?」
「………今はいい。今のお兄には言わん!」
あ、え、えぇ…今の俺、嫌われたぁ…
「うん、胡桃、なんか、ごめんな?遊園地では楽しもうな?」
もうずっとうちの胡桃がそっぽ向いてる。お兄ちゃん泣きそう。
「…………うん。楽しむ。」
ん?そっぽ向いてる割には今の声だけ、心なしか優しかったような穏やかやったような…。
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