第4話

さて、家に帰ってきたは良いものの…

牛丼屋を出てから、ずっと胡桃が不機嫌である。


「あ、あのー、胡桃ー?」


「なんよ。明日はあの人と遊びに行くんやろ。うちはもう知らんし。行ったらええんちゃうん。」


やっぱりそれしか原因ないよなぁ〜。

胡桃はわざわざ限られた大学の夏休みを削ってまで、こっちに遊びに来てくれたんだもんなぁ…

どうにかできないものか…。


ブー ブー


鳴ったなぁ…明日なぁ…どこであろうと行きはするけどさぁ…どこにしたって二人きりだとすごい気まずいと思うんだよなぁ…まあとりあえず見るかぁ…


やっぱり松谷からだなぁ…

えっと…『明日は日帰りで遊園地はどうですか?電車で一時間もかからないところで、すごく乗りたいジェットコースターがあるんですよ。もしよろしければ行きませんか?お返事待ってます。』


なーるほどねぇ…まあ多分ないだろうけど、明日のこの遊園地、もし松谷と二人きりという可能性を考えたら、めちゃめちゃ気まずいし、松谷にも申し訳ないなぁ…


ん?待てよ……はっ!これは俺天才では?


「おーい、胡桃ー。」


「どしたんお兄。」


胡桃は相変わらず不機嫌そうにソファーでスマホをいじっている。


「いつまでこっちに滞在する予定なんだ?」


「別に考えとらん。お兄が望むなら今からでも帰るけど。」


おぉぉい、それはだいぶとネガティブだこってぇ…ちゃうてぇ、違うんよぉ…


「いやいや、そうじゃなくてな?あの、俺も久しぶりに遊びに来てくれた胡桃のために、一緒に楽しみたいのよ。だから、いっぱい遊ぶ時間を確保するために、聞いたのよ。な?わかってくれ?」


「うちは別に今のところはしばらくは大丈夫やけど、でもお兄明日あの人と遊びに行くんやろ?あんま気遣わんでええよ。」


んもーう…これは…中々…強固なディフェンスだなぁ…こうなったら…!


「いや、あの、それがな…あれなんよ、あの、明日、遊園地になったんだけど、あの、もしどこかのタイミングで松谷と二人きりになったらお互いめちゃめちゃ気まずいと思うから、胡桃、お願いだ!助けてくれ!!」


もう胡桃に土下座した。別に俺は松谷のことが嫌いになった訳では無い。むしろ好意は今でもある。だからこそ、これ以上俺が松谷を不快な思いにさせるのが嫌なのだ。


「………まあ、良いんだけどさ、助けるったってどうすんのよ?」


来た!鉄壁のディフェンスライン!俺を受け入れてくれた!!神に感謝!胡桃!ありがとう!!


「話は簡単だ!明日俺と一緒に遊園地に行く!そして遊ぶ!終わり!どうだ?素晴らしいだろ?」


頼む!頼む…!胡桃!OKを出してくれ…!俺の明日の平穏を掴み取るために…!胡桃の力が必要なんだっ…!!


「まあ、そういうことなら、うちも行く。」


「ぃよし!そうとなれば、今日のうちに準備するんだ!」


「うん。お兄…。……楽しもな。」


心なしかその時の胡桃の表情は、柔らかかった、ような気がする。

あの、目線合ってなかったから、よく見えなかったのが、真実。


さてと、俺は松谷に胡桃を連れて行く条件でOKを出してから準備だな。



ーーー


さて、連絡もしたし、後は連絡来るまで準備するだけだな。


「お兄〜。」


「んぁ?どうした〜?」


もう準備終わってクソ暇だから話しに来たって感じが溢れ出てる俺の妹がソファーにドサッと座りにきた。


「お兄のクソしょうもない心の傷広げたらごめんなんやけど。」


え?

もうキツイよ〜?え?なにこれ?予告〜?予告式〜?そんな犯行予告みたいなのはやめようよ〜。もうその話しなくて良いじゃ〜ん…。


「お、おん、まあ、もう広がりかけてるし、もうそこまで言ったら聞け。それで何だ?」


「お兄が昨日焼肉屋で告って振られた相手があの、あきさんだったのはもうわかったんだけど、普段の会社とかでの関係とかはどんな感じなの?」


おーーん、そこ聞くかぁ。


「まあ、俺の失恋歴全部知ってる胡桃だったら大体想像つくと思うけど、普通に同僚で、俺が片思いだった、それで個人的な食事とかを重ねて、3回目の昨日の焼肉で告って振られた、そんだけよ。」


「あー。なるほどねぇ〜。お兄、成長したねぇ〜。」


おうおう胡桃〜?煽りかお前よぉ?

まあ、昔の失恋とか思い出しただけで意味わからんかったり恥ずかしすぎたりすること多すぎてゲロ吐きそうになるけど…。あ!それ胡桃!タブーだぞ!!言ったら俺弾け飛ぶよ!?もう俺の人生の終末迎えちゃうからね?


「初恋は仲良くなったのに、告白しようとした日に転校されたやつねぇ…」


おいおいおいおいそれ胸の1つ目の傷ぅ…一番の古傷で個人的に俺に効くやつぅ…


「ねぇ…れんなちゃんだっけ?折角お互いの家にも遊びに行ってたし、すっごい仲良かったのにね〜、お兄が前日に告白のシミュレーションしすぎて、それで寝坊して遅刻した頃には転校の挨拶も終わってもういなかったんだよねぇ〜。」


グサグサグサグサァッ!!オゥイェ…バンダフル!!俺の最初の古傷は、どうやら起爆剤だったらしい…弾け…飛んだぜ…グッバイ…俺のメンタルボディ…


「おまっ、おまっ…れんなちゃんのぉ…話は、まじで、まじのまじで…やめろぉ……俺が死ぬぅ…思い出すだけで頭が痛くなる…悲しみに溢れてしまうううう!!」


「たかだか幼稚園の時の恋やのに、お兄もよう忘れやんよなぁ。そのキモい記憶力、キモいけど尊敬するわ。」


おい、今お前の一言の中に!俺がキモいって、2回入ってた。よな?


おおおおい!1回はギリ行けるけど2連撃以上は対策してねえって!!おっ…もう無理ィ…。これゲームオーバーだわ…。多分残機ないからコンティニュー不可ダネ。俺は妹に看取られながらこの世を去るんだナ…。oh…。




「お兄〜、死んどらんからね〜?ちゃんと今も脈動いとるよ〜?確認取れとるからね〜?」


「………ピヨピヨ………ピヨピヨ」


「……おい……そろそろ動けや!」


胡桃はうつ伏せでダウンしていた俺のケツに容赦のない踵落としを放った。


ごっ

あの、まじで洒落ならん音鳴ってんけど。え、てか……


「痛ああああああああい!!!!なんだこの踵落としぃ!痛すぎるわぁ!鉄球落としかぁぁ!?!?なんならその鉄球って某有名な日本を代表するRPGに出てくるは○いのってつくやつやんなぁ!?もうそれはは○いの踵落としなんよぉ!ヒンッ!」


「誰の可愛い細足が鉄球やって…??」


あっ…失言した。これ、多分じゃない、絶対胡桃ブチギレてる。もうラ○ウとか超えるどころか比じゃないレベルで、剛○波も涼しいレベルのちびりそうなオーラ出てるよ。


「よしゃ、ほんならお兄のケツに後50回は叩き込んだろか、これは鉄球ではありません。可憐な足です。ってなぁ!」


ごっ ごっ ごっ ごっ


「ヒンッ ヒンッ ヒンッ ヒンッ」


「お許しをーーーーッ!!!」


10分後ーー


「ごめん、お兄。」


「ピクピク」


これは、なんの10分間だったのだろうか。俺は最初、確かに50回と、そう聞いたはずだった…。


「お兄、ほんまごめん。あの、思った100倍ぐらい楽しくて…気ぃ付いたら10分間ぐらいエンドレスにお兄のお尻に踵落とししてた。」


「ぉ……ぉぅ……」

とんでもないSの才覚を垣間見た気がした…。見なかったことにしよう…。


「胡桃、こういうのはあんまり人にしちゃいけないからね。わかった?」


「うん、なんか、感覚でそんな気がしたから、あんましやんとこうと思う…。」


まあ、わかっていただけたなら、まだ、セーフかな…多分。


「よし、そしたら準備も終わったし、買い出しはこの前したから…なんか作るか。何がいい?」


「うちが嫌いじゃなくて食えたらなんでもー。」


スッキリしたのか、疲れたのか、安心したのか、よくわからないが、物凄く雑な返事である。


「おー。それなら市販のパスタで良いか?」


ということを考える俺も俺で雑である。


「んー、いんじゃね?」


「はいよ、そしたら作るぞー。」 


兄妹なんだから、この程度の雑さで良いのだ、このくらいの雑さがほんとに心地良い。


ブー ブー ブー ブー ブー


あれ?なんかいっぱい通知来たのか…?


「お兄、電話やで。」


あぁ、そうか、しばらく人と電話することがなかったから、電話の通知のパターンを忘れていた。


「はいはい。誰だろうか。」


俺は鍋に入れた水を沸かした後、スマホを見る。


すると、思いがけない人からの電話であった。


「あれ…?おい胡桃、こっちに来ることは家族に話してきたんだよな?」


そう、電話をしたのは紛れもない、俺たちの家族、母である。


「ん?普通に言うたしOKも貰ってきたけど?」


「え?」


じゃあなんで電話が来るんだ…?もしかしてなんかに巻き込まれたとかそういうやつか…?なら早く出ないと!!


「もしもs」

「もしもし琢磨!?あんた生きとるんか!?え?」


……おーん?生きてるも何も、今あなたがかけてる電話、俺の携帯だし、なんならそれに出てるのも俺なんだが…?


「琢磨?琢磨?無事なんか!?はっ!もしかして琢磨…誘拐されとるんか!?」


「おかん!落ち着け落ち着け!俺だよ、琢磨で合ってるよ。」


地元で何かあったのか?ってレベルな聞かれ方なんだが。


「あんた、ほんまに琢磨か…?無事なんか…?なんも巻き込まれてへんのか…?」


「おいおい、俺が一体どうしたら何かに巻き込まれるなんて事に繋がるんだよ。」


「あんったはほんっまに……!あほんだらかぁ!!えぇ?」


いやいや、なんでこんなに怒られなあかんの…?


「え、おかん、なんか俺悪いこと…したっけ…?」


もう聞くしかないよな、だってわからんのやもん。


「あんたなぁ…最近そっちにくーちゃん行ったやろ?それで私もOK出して琢磨のとこに遊びに行かせたんよ?」


あぁ〜。確かに胡桃は昨日の夜に来たって言ってたなぁ〜…俺は酔っ払ってたから、記憶ないけど…うん。それを言うのはやめておこう。んで何に怒ってるんだ?


「あぁ、それは胡桃が来てるから知ってるし、連絡も見たんやけど…。」


「あんたなぁ…見たなら最悪見たでもなんでもええから連絡返しなさいよぉ!メッセージ送るだけ送ってなんも返ってこやんかったら生死を疑うレベルやで?ほんっまに、あんたはこれやから昔っからなんべんもなんべんも既読機能ぐらいはONにしときなさいって言うてんのに、つけへんのやから…。」


あ〜。そういうことか…。それは確かにおかんからすれば自分の子供が二人とも連絡つかずに行方不明だと、そりゃビビり散らかすし落ち着かんわなぁ…。


「あ〜、おかん、連絡を返さなかったのは謝る、ごめん。だけど、既読機能をつけることだけはご勘弁を…」


「まあ…ええわ。生きとるならええ!ちゃんと琢磨もくーちゃんも家にもおるんやろ?そやったらもうええわ。既読云々の話は、私もあんたもあんまり思い出したくないやろ。」


さすがおかんだ…何も言わなくても、俺が既読機能を絶対につけたくない理由まで全部覚えてる上で察して、強制しない。やっぱ親には敵わないな。

…ん?


「なあおかん。」


「なんやなんや?」


なんかこれは気になる。


「胡桃がこっち来ることを許可したってことは、おかんは胡桃が来ることを知っててんな?」


「まあそれはねぇ、知らんかったらこんな電話かけやんわ。」


「えっと、おかんよ、胡桃に連絡はしなかったの?」


「・・・あ。ああ、あああ。琢磨、ごめん。もうなんか、私パニクっとって、その方法忘れとったわ。」


はいバカ〜もうバカ〜おかんのノンストップな思考回路が暴走したせいでこうなったのが丸見え〜。もうそれこそ周りが見えてないのよ〜。


「はぁ…まあ胡桃が来たことを確認してから連絡してなかった俺も悪いからお互い様ってことで。」


「ありがとね琢磨。それでくーちゃんはおるんか?元気か?」


「ああ、めちゃめちゃ元気にしてるぞ。なんならちょっと待っててなおかん、ビデオ通話にするから。」


そう言って俺はソファでくつろいでいる胡桃に声をかける。


「胡桃。おかんから電話で、今からビデオ通話するからこっち来い。」


「ん?うん。わかった。」


胡桃はのんびり立ち上がり、こっちに来る。


「よし、つけるぞー。」


ビデオ通話に切り替える。


「おかん、見えるか〜?」


「あら見えるわ琢磨!あらくーちゃん!ちゃんと着いたのねぇ!良かった良かった。」


「ママ、うちは大丈夫やから。安心してな。」


「あらもうくーちゃんったらしっかりしてもう、立派な大人になったわねぇ!」


まあこの通りうちの親は胡桃には何かと甘い。ゲロ甘だ。まあ、別にそれだからと言ってもそれだけのことで、特段何も思わないが。


「んで、おかんよ、胡桃はいつまでうちに滞在することができる予定なんだ?」


これは大事だから、絶対に聞いておかなきゃいけないマスト事項だ。これが聞けるだけで、今後の夏の過ごし方が変わってくる。


「……んぇ?くーちゃん琢磨に話しとらんの?」


「え?軽く言うたけど。」


は?聞いてないんだが?


「すまん、おかん、俺が多分理解不足か耳が終わってたんだと思う。だから改めて教えてくれ。」


正直もうすぐパスタを茹でるための鍋の水が沸騰しそうなので、手短に済ませたい。早くパスタ食べたいし。


「えっとねぇ琢磨、くーちゃんはこれから好きなだけそっちに滞在できるんよ。」


・・・は?


「いやいやいやなんかそれっぽいことさっきも胡桃本人が軽く言ってたけど、夏休み終わったら帰るだろ?その期間を聞いてるんだけども!?」


「あちゃ〜…琢磨にはそっから話さなあかんか〜…」


どういうこと…?まさか……胡桃…大学でなんかあったんか…?転校とか…?はたまた退学とか…?


んでなんか胡桃本人はもじもじしてるし!なんかやばい予感するって!


「何があったんだおかん、いや、お母さん!話してくれ!!頼む!」


「ん?別にええで?今から話そ思うてたし。」


あれ…?なんかそういうヤバい話にしては、ノリ軽くない?


「まずくーちゃんって昔からなんかめっちゃなんでもできたやん?」


「あー、うん。」


確かに胡桃は昔から学校での定期テストは勿論、実力テストも、なんならどんな学校を受験しても、その受験テストでも満点で、通知表はオール5だったのを当時嫉妬してたって理由で覚えてるけど…


「そんでなぁ、くーちゃん去年の末になんか私らはようわからんねんけど、歴史に残る偉業を成し遂げたみたいで、なんかそれがすごすぎるらしいてなぁ、その時点で卒業も保証される通知書来たわなぁ、就職もその段階で決まったんよ。」


あの〜、おかん、いや、お母様、そして、胡桃様。


私、石本琢磨。ぶっ飛びすぎて、お話についていくことができませぬ。


あの、嫉妬とか、世の中は理不尽とか、なぜ兄妹でこんなにも差が生まれたとか、そんなことを今は考えようもできないくらい、お話がぶっ飛びすぎて、わからぬ、わからぬでござるなのです。


いや、そりゃさ、胡桃が賢いのはなんとなく知ってたよ!?だって通知表もオール5じゃん!?でもさ!?今回のそれは今までのとは比にならんのよ!?もうイカレポンチなのよ!?天と地ほどの差とかそんなかわいいもんじゃない。もう言葉にすらできないほどの距離と差が存在してるのよ?


おおう…おう…そうかぁ…


「ママ、お兄が固まったんやけど。」


「あー、まあ、琢磨は良くも悪くも普通やったからなぁ…強いて言うならちょっと女の子と付き合うのが下手っぴなだけの凡人やからなぁ…」


あの、あれです。なんか、今だけは何言われても、ぶっ飛びすぎた影響で割と何も感じないです。麻痺しちゃってます。


「へぇへぇ…おかん…。それで…?」


もう俺は自我を保つのでやっとです。


「んで、くーちゃんが卒業するまで後2年ないくらいはあるんやけどな、まあ、うちから大学通うだけの毎日はつまらんし、別にもう通わんでも問題はないって言われてたし、っていうので、今年の夏休みを機に、くーちゃんにどこ行きたいか聞いてみたんやけど〜…」


「それで、こっちの観光がしたいから俺の家に泊まりつつ、観光するって?」


もうそれしかないだろ…。それ以外こんな兄のもとに訪れて何をするんだ…


「いいや?そんなことはくーちゃん言っとらんかったなぁ。確かくーちゃんは琢磨のことがs」

「わーわー!ママ!ママ!それなし!言ったらあかん!やめて!ほんまやめて!それ以上はあかん!!」


俺のことがなんだよ…。皆目見当もつかないが、割と聞いたところで仕方のないことだろう。てかお湯沸いたやん!


「ちょっと待っておかん、ちょっと鍋のお湯沸いたから、パスタだけ茹でる。ちょっと胡桃と喋ってて。」


よ〜しよし、これで俺はパスタを茹でることに集中できる。


まあ聞いたところで仕方のないこととは言え、興味がないことではないので、盗み聞きしてやろう。


「ママ、ほんまに、言わんとってって…うちがお兄のこと大好きなんて…恥ずいから…」


ほんほん、別にそんなの、兄妹愛なんてどこにでもあるだろう…?何をそんなに言ったらダメなことなのだろうか…?


「はいはい、ごめんねくーちゃん、あ、後ねぇ、くーちゃんが気になってたこと、そろそろ私達も話さなあかんことやと思ってたから、さっきくーちゃんのとこに先に連絡入れといたからな。」


胡桃が気になってたこと…?なんだ…?こっちが暑すぎるのはどうしてかとかそんなんか…?いや、それに関しては気になってるのは俺だし、その根拠とかはヒートアイランド現象だし…そんな学生のときに授業で教わるようなことを胡桃が知らないはずはない…わからん…わからんぞ…


「うん…ありがとママ…」


おーん、わからんがとりあえず俺は目の前のパスタを茹でねば、そろそろ頃合いではないか?


よし!茹で上がったぞ!これをザルにぶっ込んで、水切りして、パスタソースのもと…俺はペペロンだけど…胡桃は昔からツナマヨだったな!


……まあ、一応選ばせるか。


「おーい胡桃〜、パスタ茹で上がったけど、ソースはどれがいいよ。」


「うーん、お兄はどれだと思う?うちの好きな味。」


「えぇ…知らないよ。知らないけど胡桃は実家で昔から毎回ツナマヨだったからツナマヨにしとくよ。」


「お兄、当たり〜えへへ!」


なんか…さっきとは打って変わってめちゃめちゃ機嫌いいな。まあ機嫌が良いならそれに越したことはないんだけども。


「あらら…琢磨、あんた、一人でもちゃんとご飯できるようになったんねぇ…お母ちゃん感激やわぁ…」


「おおお、まだ電話中だったのね、まあ、大学進学と同時にこっち来てもうだいぶ経つから、このくらいはそれなりになるよ。」


「あ、そうそう琢磨、来週の金曜、お母ちゃん、お父さんと一緒にそっちの様子見に行くからね?」


おー…いらねぇ…


「いや、それはいらないけど…まあ胡桃の様子見たいんだろうから…来てもいいけど、特に何も用意できないよ?なんなら俺その日普通に仕事だし。」


「いやいや、なんの用意もいらんでなぁ、ちょっと顔見に行くだけやでな、ほなまた行くから、それまでくーちゃんをちゃんと可愛がらなあんたしばくでぇ!」


「はいはい。そこはしっかりしとくから。んじゃ切るよ〜。」


ツーツー


長い電話だよほんとに…


「おーにーいー!」


「んぁ?どうした胡桃?」


急に後ろから勢いよく抱きつかれた。


「パスタた〜べよっ!」


「あ、おん…」


あれ…?なんか…キャラ違くね??


俺の知ってる胡桃はどこに…


「とりあえず食うか。」


俺は席につく。


「いただきまぁす。」


うちの胡桃はこんなにキャピキャピしたいただきます言わない!ヒンッ!どうしたっていうの!?うちの妹ッ!


「はいよ、いただきます。」


まあそんなこと直接なんて聞けないし、うん、とりあえず食べよ…。


食べながら頭の中を整理する。

あれか、今日が土曜で、明日は松谷と胡桃と後誰が来るかしらんけど遊園地だろ?そんで、そっから月、火、水、木、金は仕事して、金曜の晩には親父とおかんもうちにいる…と。んで、まあ基本的には胡桃のご飯作らないといけないから直帰で…朝も胡桃の朝と昼作るから早起きで…


あれ…?これもしかして…俺、ハードスケジュール?


この時の俺は全く予想もしてなかった。

まさか、来週の金曜、あんな悲劇が起こるだなんて…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る