第6話 幼馴染


「それで、いつものように朝5時に起きて、色々準備してるから、今日も1時間目の授業で強い睡眠欲に襲われたの!」


 莉菜はご機嫌な様子で今日の出来事を話す。一輝の席の直近に立ちながら、何気ない会話をする。


「そうなんだ。それにしても、すごいね!朝5時起きって。俺は朝弱いから絶対にできないよ。もしできたとしても、必ず授業で寝てしまう」


 一輝は自身が朝5時に起床して学校生活を送るイメージをした結果、げんなりとした顔を浮かべた。


「そんなことないよ。慣れれば誰でもできるよ。それに、私は2、3年、今と同じ生活を続けてるけど、未だに学校で毎日すさまじい睡眠欲に襲われてるんだよ?」


「え!?そんなに朝5時に起きる生活を続けてるんだ!今まで授業中に居眠りした経験はないの?」


 一輝は感嘆の声を漏らした後、気になった疑問を言語化する。


「う〜ん。ないかな〜。意地でも居眠りしないように、ノートを取る手を止めずに動かし続けたり、強い睡眠欲が襲った際は、普段よりも目に力を入れて、決して目を瞑らないようにしているから」


 莉菜は頬に人差し指を添えながら、一輝の疑問を解消した。


 一方、片山が戸を介して教室に帰還した。休み時間終了後すぐに、友人数名と一緒に仲良く教室から外出していた。そのため、片山は普段とは異なる教室の空気感に違和感を覚えたような顔を作った。


「なんだ?ほとんどのメンバーが、ある一点に注目してるな。・・・って、あれは!もしかして、あの2大巨頭の与田莉菜じゃねぇか!!」


 片山は鼻息を荒らして、後に次いで教室に足を踏み入れたメンバーに視線を向ける。


 友人達も莉菜が教室に身を置く光景に、心から驚いている様子だった。


「お、俺、早速話し掛けてくるわ!」


 片山は友人の反応が出る前に行動を始めた。片山にとって友人の反応などあまり重要ではなかったことが容易に推測できる。


「ねぇねぇ。与田さん。そんな奴とお話してもつまらないでしょ。絶対に俺のほうがいいよ?俺と盛り上がる楽しい話でもしない?」


 片山は一輝の言葉を強引に遮り、幼馴染2人の会話に無理やり割って入った。片山には悪びれた表情が一切ない。


 一方、一輝と莉菜はお互いから目を離し、片山に視線を向けていた。一輝は席に座りながら、莉菜は立った状態をキープしたまま。


『うわ〜。なんだよ。なんで片山が関係ないのにも関わらず勝手に割って入ってくるんだよ」


 一輝は胸中に嫌悪感と不満を抱きながらも、決してそれを口から放出しなかった。そんな勇気も彼にはなかった。


 一輝は片山を間近で視認したせいで、嘘告白された苦い経験を思い返してしまう。一輝の心には怒りと悲しみが混合する複雑な感情が渦巻く。


「・・・そんな奴ではないですよ」


 莉菜から予想外の言葉が生まれた。莉菜は黙って俯いている。


「へ?」


 片山は虚をつかれ、素っ頓狂な声を漏らす。


「だから、かずくんはそんなやつではないです!朝元一輝という立派な名前があるんです!!それに、かずくんと話をしていてつまらない?何を言ってるんですか!そんなわけないでしょ!!」


 莉菜は目線を上げ、怒りをぶつけるように早口で捲し立てた。莉菜の言葉と声には強い気持ちが篭っていた。


 莉菜の急な態度の変化は一輝を大きく困惑させた。しかしそれ以外にも、一輝は心をジーンと熱くさせる温かみを覚えた。


 片山は莉菜の迫力に圧倒され、あからさまに大きく後方にたじろぐ。


「それと、あなた誰ですか?」


 莉菜の激震が走る問い掛けに、シーンっと教室内が静まり返る。


 片山は当然、他の生徒達も誰1人として口を開かない。片山は絶望と羞恥が混ざった独特な表情を露出させる。


 キーンコーンカーンコーン。


 静寂な空気の中、教室にチャイムが鳴り響く。大きく甲高い音が休み時間の終了を遠慮なしに伝える。


「かずくんごめんね!私、急いで帰らないと」


 莉菜は「またね」と手を振ると、駆け足で教室の出口に走り、退出した。莉菜は周囲の状況など全く気にする素振りを顕在化させなかった。


 クラスメイト達は黙って目だけ動かして莉菜が退出する姿を追った。


 やかましいチャイムが鳴り終わった。


 再び、教室に静寂が拡がる。


 しかし、しばらくして何人かの生徒達が耐え切れずに噴き出した。


 片山は顔を真っ赤にしながら、その人間達に対して鋭い睨みを利かせた。



⭐️⭐️⭐️

読んでくださった方ありがとうございます!


今回の、主人公と幼馴染の会話内容ですが、他愛もない話をするシーンを書きたかったのですが、最初は自身が満足できる適切な内容が脳内に浮かびませんでした。


そこで、小説や専門書などを何冊か読んで、浮かんだ会話の内容が、今回の幼馴染が口にしていた朝の習慣に関する内容です。


毎回、そうなのですが、今回も私が満足した内容が書けたため、小説を更新しています。

→やはり、作者が満足していない小説を更新するのは失礼だと思いますので。


これからも、私が満足した小説を皆様にご提供していければ良いと思っております!!

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