第12話:王国からの使者

「他に、私にできることはありますか?」

「じゃあ、そこにある消毒ポーションを取ってくれるか?」


 その後、リオンを群れに帰してからも、私はギルドにいるモンスターたちと対話を重ねている。

 最初はみんな警戒していたけど、何度も話すたび心を開いてくれるようになった。

 今日もモンスターの治療を手伝っていた。


「よし、一旦休憩しよう」

「シェルタリアちゃんのおかげで、モンスターたちの治療が上手くいっているよ」

「皆さんの役に立てて嬉しいです」


 一通り治療が終わり、ロビーに戻ってきたときだった。


「こちらが“擁護の館”で間違いございませんか?」


 ギルドに見知らぬ人たちが入ってきた。

 豪華ではないけど、どことなく貴族風な格好をしている。

 冒険者でもなさそうだ。


「ああ、ここは“擁護の館”で間違いないぞ。それで、アンタたちは誰だ?」

「私たちはアニマビスト王国の使者でございます。王女様からシェルタリア殿にお手紙をお持ちしました」


 その言葉を聞いて、ギルドをどよめきが包み込んだ。

 ベティが小声で話しかけてくる。

 声の調子から、動揺している様子が伝わってきた。


「シェ、シェルタリアちゃんにお手紙だって」

「な、なんだろうね…………私がシェルタリア・ガードナーですが」


 名乗り出ると、使者たちは丁寧にお辞儀をした。

 慌てて、私もお辞儀を返す。

 先頭にいた人が一通の文書を差し出した。

 表面には王族の印であるワシの紋章が押されている。


「アルシンカ様からのお手紙をお持ちいたしました。至急ご確認いただきたいとのことです」

「は、はい、確認させていただきます」


 急いで手紙を開けて中身を読んでいく。

 


□□□


シェルタリア・ガードナー殿

 突然のご連絡をお許しください。

 時間がないのでいきなり本題に入りますが、アニマビスト王国は建国以来の危機に瀕しております。

 ドラゴンが襲来したのです。

 幸いなことに、我が国には手練れの騎士隊がいるので膠着状態を保てています。

 ですが、相手はドラゴン。

 このまま全面対決となれば甚大な被害は免れません。

 そこで、貴殿のお力を風の噂で聞きました。

 どうか、あなたの素晴らしい力でドラゴンたちを説得していただけないでしょうか。

 私は何としてでも穏便に、尊い命を犠牲にせずに事を収めたいのです。

 不躾なお願いで申し訳ございませんが、どうか……どうかよろしくお願いいたします。


 

 転送魔法の使える部下を使者として送ります。

 ご了承いただければすぐにでも王宮へ転送してくれます。

             ――――アニマビスト王国王女 アルシンカ

□□□



 王国がドラゴンに襲われているなんて……。

 気がついたら、手紙を握っている手が震えていた。


「シェ、シェルタリアちゃん、なんて書いてあったの?」

「顔が真っ青だぞ」


 ベティやストロングさんが心配そうに私を見ていた。

 

「お、王宮がドラゴンの襲来を受けているそうです」

「「え……!?」」


 ドラゴンの襲来なんて、数百年ぶりのことだ。

 数百年前の襲来では、ドラゴンと人間の双方に多大な損害が出たと聞いている。

 当時より人間の魔法や武器が発展しているとはいえ、相手はドラゴンだ。

 アルシンカ様の言うように、まともに戦えば相当な被害が出るに違いない。


「王女様は私の噂を聞いたそうで、ぜひ力を貸してほしいとのことです……」


 絞り出すように話すと、みんなの表情が固くなった。


「シェルタリアちゃんにドラゴンの説得をしてほしい……ってこと?」

「それはまたとんでもない大役だな……」


 ベティもストロングさんも“擁護の館”のメンバーも、みんな緊張した表情だ。


「シェルタリア殿。今すぐ王宮に来ていただけませんか。このままでは、ドラゴンとの戦いが始まってしまいます」


 “擁護の館”を緊迫した空気が覆う。

 もちろん、私には覚悟ができていた。


「はい、ぜひ私を王宮に連れていってください」


 ドラゴンを説得できる自信があるかわからない。

 それでも私にやれることがあるならば、なんでもするべきだと思った。

 少しでもなんとかなる可能性があるなら、精一杯頑張るべきだ。


「わかりました……ご協力ありがとうございます。すぐに転送の準備を始めますので、少々お待ちください」


 そう言うと、使者の人たちはギルドの前で魔法陣を描き始めた。

 私も急いで準備を進める。


「シェ、シェルタリアちゃん、ほんとに行くの!? 相手はドラゴンだよ!」

「いくらモンスターと会話ができるといっても危険すぎるぞ!」


 ベティとストロングさんが慌てて引き留めてくれた。

 でも、王宮に行かないという選択肢はなかった。


「はい、危険なのは十分わかっています……ですが、それでも私にしかできないんです。大丈夫ですよ、絶対に説得してみせます」


 両方の拳を固く握る。

 気丈なつもりでいたけど、握った拳は微かに震えていた。

 やっぱり緊張しているのだ。


『シェルタリア、俺もついて行くぞ。お前一人では不安だからな』

『僕も忘れないでよね。シェルタリアは僕がしっかり守るよ』


 ヘブンさんとライムが、ぴたりと身を寄せてきた。

 彼らの優しさが体温と一緒に伝わってくる。

 嬉しくてぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう……二人とも」


 私のそばには心強い仲間がいる。

 彼らがいれば大丈夫だ。

 やがて、魔法陣が描き終わった。

 いよいよ、王宮へ行くときだ。


「では、シェルタリア殿。魔法陣の中央にお立ちください」

「はい、よろしくお願いします」


 魔法陣の真ん中に立つ。

 ギルドの前にはメンバー全員が集まっていた。


「頑張れよ、シェルタリア!」

「ライムもヘブンも、シェルタリアちゃんのことお願いね!」


 みんなを心配させないよう笑顔で手を振る。

 “擁護の館”とは暫しの別れだ。


「<転送>! この者たちを王宮へと転送せよ!」


――大丈夫……きっと大丈夫よ。この子たちがいるんだから。


 そして、私たちは王宮へと転送された。

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