第11話:行く末(Side:バニット③)

「ずいぶんと好き勝手やってくれましたわね」

「ぐっ……」


 気が付いたとき、私は縄で縛りあげられていた。

 こ、ここはどこだ?

 うっすらと見覚えがあるが……そうだ、王宮だ。 

 以前にも来たことがあるから間違いない。

 私は王宮の広間に横たわっていた。

 となると、先ほどの声はもしかして……?


「バニット伯爵、あなたの行いは到底許されることではありません」

「ア、アルシンカ様!?」


 目の前には、アニマビスト王国の王女であるアルシンカ様がいた。

 病気がちの国王陛下に代わって国を治めている方だ。

 厳しい目つきで私を見下ろしていた。


「あなたは無理矢理モンスターを捕まえては貴族や国外に売っていたそうですね」

「そ、それは、商売の一環として……」

「アニマビスト王国ではモンスターの売買は認められておりません。知らなかったはずはないですよ」

「うっ……」


 そんなことはもちろん知っている。

 だからこそ、あれだけ稼げたのだ。 

 クソッ、どうする。

 そうだ、国内外の貴族に脅されていたと言えば……。


「あなたのせいで、我が王国は大変な危機に瀕しています。国境付近でドラゴンの襲来を確認する報告がありました。それも群れで来ているようです」


 言い訳を考えていたら、アルシンカ様は静かに言った。

 一瞬、思考が止まってしまった。

 な、何を言っているんだ?

 ドラゴンの襲来?

 

「ド、ドラゴン……でございますか? そ、それがどうして私のせいになるのでしょうか?」

「あなたがひどい対応をしていたモンスターたちが、ドラゴンに助けを求めたようです」

「…………え?」


 ドラゴンはモンスターの中でも最上位種だ。

 人間などまるで歯が立たない。

 怒りを買った国はたった数匹のドラゴンに壊滅させられたという伝承もある……。

 しかも、群れの襲来なんてそれこそ国の終わりだ。


「国を危機に陥れた罪は重いですよ、バニット伯爵」


 周りの衛兵たちも険しい表情で私を見ている。

 今になってようやく、私は自分の行いを自覚してきた。

 背中を嫌な汗が伝う。

 

「あ……う……」


 もはや、何か弁明しようとしても言葉にすらならなかった。


「あなたがシェルタリアさんを不当に追放したことも、もう調べてあります。シェルタリアさんはモンスターの言葉が話せるそうですね。彼女がいればドラゴンとの対話が望めたかもしれませんのに……」


 疲労のためか、アルシンカ様の表情からは感情がそぎ落とされてしまっていた。

 その顔を見て、私の良心が痛いほど締め付けられる。

 

「ア、アルシンカ様。私がシェルタリアを探しに行ってまいります。娘が見つかれば、なんとか……」

「シェルタリアさんは今どこにいるのですか?」

「そ、それは……」


 シェルタリアは生きているかさえわからない。

 今から探すなど現実的に不可能だった。


「バニット伯爵。あなたからは爵位と領地を剥奪し、牢獄行きとします。使用人たちもすでに牢へ収容されていますよ」

「そ、そんな……」

「この者を監獄へ連行しなさい!」

「「はっ!」」


 アルシンカ様の合図で、衛兵たちがいっせいに私を引きずっていく。

 力の限り、必死に抵抗した。


「お、お待ちください! 監獄行きだけはやめてください!」

「「黙れ! 見苦しいぞ!」」


 あっという間に、牢屋へ押し込まれてしまった。

 ガシャン! と勢い良く錠が下ろされる。

 

「た、頼む! ここから出してくれ!」

「お前のせいで国の平和が脅かされているんだぞ! なんてことをしてくれたんだ!」

「いざとなったら、お前をドラゴンの前に差し出してやる! 覚悟しろ!」

「そうすれば、少しは機嫌を直してくれるかもな!」


 衛兵たちは私を罵倒すると、すぐに監獄室から出て行ってしまった。

 一瞬で物音が消え、辺りは静寂に包まれる。

 自分の行く末を考えると、すぐさま悪寒に支配された。

 このままでは、ドラゴンの前に突き出され殺される。

 たとえ奇跡が起きて国が救われても、私は一生監獄の中で生きていく。

 どっちに転んでも最悪だった。

 

――シェルタリアの忠告をちゃんと聞いておけば良かった……。


 暗い牢獄の中で、私はいつまでもいつまでも後悔していた。

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