第9話:グリフォンの群れの襲来

「リオン、ここがモンスター保護ギルド“擁護の館”よ」

『ここがシェルタリアたちのいるところ……』

『みんな良い人ばかりだから安心してね』


 その後、私たちはリオンを連れて“擁護の館”に戻ってきた。

 リオンを抱えながら入ると、ストロングさんが出迎えてくれた。


「お帰り、シェルタリア、ベティ。どうした? ずいぶんと泥だらけじゃないか。おっと、その子は……?」

「グリフォンの子どもです。“畏怖の沼”に一匹でいたのと、他に仲間が見当たらなかったので保護しました」

「シェルタリアちゃんったら、この子のために沼へ飛び込んでくれたんだよ」

「なに!? 沼に飛び込んだ!?」


 その後、リオンは人間に襲われて群れとはぐれてしまったということも説明した。


「……そうだったのか、二人ともよく見つけてくれたな」


 ストロングさんはリオンを優しく撫でている。


『シェルタリア、この人はだれ……?』

「ここのギルドマスターのストロングさんよ。良い人だから安心してね」

「よし、まずはこれで体を拭け。服も着替えてくるといい。リオンも温まった方がいいな、小さな風呂を用意しておこう」

 

 ストロングさんはすぐに暖かい濡れタオルを持ってきてくれた。

 手早く部屋で着替えをすましてロビーに戻る。

 リオンはお湯の入った桶に気持ちよさそうに入っていた。


『おい、シェルタリア。こいつは新入りか?』

「あっ、ヘブンさん」


 みんなでリオンの体を拭いていると、ヘブンさんがゆらりと歩いてきた。

 足のケガも完治して檻にいれておく必要もなくなったので、もう自由にギルドの中を歩いている。

 リオンを見ると、ゆっくり近づいてきた。

 クンクン匂いを嗅いでいる。


『“畏怖の沼”からやってきたようだな』

「この子はリオンといって、グリフォンの子どもなんです」

『見ればわかる。おい、俺はヘルハウンドのヘブンだ』

『リオン……です』


 ヘブンさんはリオンの顔をぺろりと舐めた。

 

『お前も人間が怖いのか』

『う、うん、それはまぁ……』

『俺も最初ここに来た時は人間に不信感を抱いていた。だが、シェルタリアのおかげで無事に怪我を治せたんだ。だから、お前も親が見つかるまでは安心してここにいればいい』

『……そうだね』


 リオンは他にもモンスターがいるとわかって安心したようだ。

 そのうち、すやすやと眠り始めてしまった。


「やっぱり、疲れていたんだろうね」

「このまましばらく寝かせてあげましょう」


 小さな籠にリオンを寝かして毛布をかけておいた。

 さっそく、ストロングさんと群れ探しの相談を始める。


「リオンの両親を見つけるにはどうすればいいでしょう」

「ふむ……元々、グリフォンの親子は絆が深い上に群れの結束力も強い。リオンが見捨てられた可能性は低いだろう」

「となると、“畏怖の沼”にグリフォンたちが戻ってくる可能性もありますね」

「やっぱり、沼地をよく調べた方がいいだろうな。シェルタリアたちはもう一度リオンを見つけたところを確認してきてくれないか? もしかしたら、リオンの両親やグリフォンの群れが戻ってきているかもしれん」


 その日から、私たちはリオンの親探しを進めることになった。

 でも、一向にリオンの両親は見つからない。

 “畏怖の沼”にもグリフォンたちが戻ってくる気配はなかった。


「俺はもう一度モンスターの売買ルートを探ってみる。グリフォンとなると高値で取引されているはずだ。もし売られていたら記録が残っているだろう」


 ストロングさんも独自ルートで探してくれている。

 だけど、なかなか手がかりは掴めなかった。


『お母さん、お父さんはどこに行っちゃったんだろう……?』


 リオンは日ごとに悲しい表情になっていく。

 一刻も早く見つけてあげたいのに、捜索が上手くいかず歯がゆかった。


「ごめんね、リオン。でも、必ずあなたの両親やグリフォンの群れを見つけてあげるから」

『うん……』


 ストロングさんもベティも険しい顔で、対策を考えている。


「さて、今後の方針を一度考えなおそう」

「もう少し捜索範囲を広げるのはどうでしょうか」


 みんなでう~ん、と悩んでいるときだった。

 突然、外が騒がしくなった。

 わあわあと叫んでいる人の声が聞こえてくる。


「なんだ? 外が騒がしいな」

「「ストロングさん、大変です!」」


 ギルドの扉を勢い良く開け、数人のメンバーが走りこんできた。

 息も絶え絶えで、見るからに緊迫した表情だ。


「どうしたんだ、お前ら。ずいぶんと慌てているな」

「「そ、外を見てください、ギルドマスター!」」


 明らかにおかしい様子を見て、ストロングさんも大慌てで窓の近くにいった。


「こ……こいつは大変なことになった……」


 ストロングさんも緊張した面持ちで外を見ている。

 私たちにまで緊迫感が伝わってくるようだった。


「「ど、どうしたんですか!?」」


 慌てて窓に駆け寄る。

 状況を確認したとたん、ひやりとした。

 通常であれば考えられない光景が広がっている。


「「こ、これは……」」

『私の子どもを返しなさい!』


 ギルドの周りはグリフォンの群れに囲まれていた。

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