第7話:モンスター保護活動

「シェルタリアちゃん、私たちのモンスター保護活動に一緒に来てみる?」

「勉強になると思うぞ」


 ヘヴンさんの怪我が治った翌日、ベティとストロングさんに誘われた。

  

「保護活動って、どんなことをするんですか?」

「人間に捨てられたモンスターがいないか探すの。あとは、群れからはぐれちゃったモンスターを保護したりもするけどね」

「俺たちの活動自体は地味なんだ」

「なるほど……」


 そういえば、彼女と初めて出会ったのも森の中だった。

 こういうことは、地道な活動が実を結ぶのだろう。


「そんなモンスターなんかいない方がいいんだけど、やっぱりチラホラいるんだよね」

「ひどい扱いをされると、モンスターは人を恨んで襲うこともある。まぁ、当たり前だよな。本来なら、モンスターたちは穏やかな性格なんだが」


 ストロングさんもベティも気落ちした表情でいる。

 みんな、本当にモンスターのことを考えているのだ。


「今日は“魔の森”と反対方向にある“畏怖の沼”に行こうと思うんだけど、どうかな?」

「俺はギルドで作業があるから行けないんだが、2人で行っても問題ないはずだ」


 言いながら、二人は地図を見せてくれた。

 ちょうど、ギルドを挟んで“魔の森”と真反対の場所だ。

 地図を見た感じだと、小一時間も歩けば着きそうな距離だった。


「ぜひ、私も行きたいです」

「ありがとう、シェルタリアちゃん。じゃあ、さっそく準備をしよう」


 ベティに手伝ってもらって、簡単な準備を進める。

 水や簡単な食糧、丈夫なロープなど、荷物は必要最小限なことが重要だと教えてもらった。


『シェルタリア、どこかに行くの?』


 一緒に道具を揃えていると、ライムが不安げな顔で見上げてきた。

 プルプル震えている。


「捨てられたモンスターや群れからはぐれた子がいないか、“畏怖の沼”へ確かめに行くの。危ないからライムは待ってる?」

『いや、僕もいくよ。シェルタリアを守らないといけないからね』


 ライムは強気な顔でピシッとしていた。

 頼もしいんだけど、どうしても可愛い。

 撫でてあげると、嬉しそうにぷよぷよしていた。

 やがて、準備も終わったのでギルドの出口へ向かう。


「じゃあ、よろしくな、二人とも」 

「「はい、いってきます」」


 私とベティ、ライムの三人で“畏怖の沼”へと歩き出す。


「ベティは“擁護の館”に来て長いの?」

「いや、まだ2、3年かな。最初は冒険者として働いていたんだけど、モンスターが殺されるのがかわいそうで“擁護の館”に来たんだよね」

「そうだったんだ……私もモンスターたちが辛い目に遭うのを見るのはイヤだな」


 実家にいたときは、モンスターをかばって父親から鞭で叩かれたこともあった。

 痛かったけど、後悔したことは一度もない。


「シェルタリアちゃんみたいな、同じ志を持った人が来てくれて私も嬉しいよ」


 昔のことを思い出していると、ベティがそっと手を握ってくれた。

 そうだ、ここには私の仲間がいる。

 彼女のにっこりとした笑顔が眩しかった。


 やがて、静かな湿地帯に出てきた。

 うっすらと霧がかかっていて、厳かな雰囲気がある。

 小さな沼が点々とあり、合間に草むらが茂っている。

 

「ここが“畏怖の沼”だよ。暗くてうっそうとしているから、モンスターを捨てる人たちはもってこいだと思っているんだ」

「確かに、人目につきにくそうな場所だね。隅々まで良く調べないと」


 “畏怖の沼”は霧のせいか、日中でも薄暗かった。

 草むらも背が高く、手でかきわけないと良く見えない。


「この辺りは底なし沼もあるから、念のため一緒に探していこう」

「え、底なし沼!? こわっ……私も気をつけるわ。ライムも私の肩から落っこちないようにね」

『う、うん、わかった!』


 なるべく沼に足を踏み込まないよう、慎重に歩いていく。

 ここの土地は全体的に湿っているのだろう。

 草むらの上もぬかるんでいて、歩くだけで結構な体力が削られた。

 一通り沼をぐるりと一周したけど、特にモンスターは見つからないようだった。


「どうやら、捨てられているモンスターはいないみたい。安心したわ」

「良かった~、この沼はモンスターにとっても危ないんだよね」

『じゃあ、そろそろギルドに帰ろうよ』

 

 “擁護の館”へ向けて、一歩踏み出したときだ。

 目の端っこに白っぽい影が映った。

 

「あっ! ベティ、ちょっと待って!」

「ん? どうしたの、シェルタリアちゃん?」


 霧で視界が悪いけど、懸命に目を凝らす。

 やがて、その正体がはっきりとわかってきた。


「あそこにモンスターが倒れているわ!」


 少し離れた草むらに、グリフォンの赤ちゃんが横たわっていた。

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