第6話:反乱(Side:バニット②)

「さあ、今日もモンスターどもを躾けるとするか」

「旦那様は大変仕事熱心でございますね」


 私はいつものように、使用人と飼育スぺースへ向かっていた。

 モンスターを躾るのは気分がスッキリする。

 ストレス解消にはもってこいだ。


「今日は国外の大物貴族が来るからな。モンスターどもが騒いだら台無しだ。先に痛めつけておこう」

「旦那様の鞭にかかれば、どんなモンスターも言いなりでございますね」

「私のスキルに抵抗できる者などおらんのだ。さて、売却対象はアクアリアフォックスだったな」

  

 アクアリアフォックスは大変珍しい水属性の狐型モンスターで、普段は川や湖の中に住んでいる。

 たまたま陸に上がったところを見つけて攫ってきた。

 体全体が水のように透き通っていて、なかなかに美しい。

 しかし、使用人は硬い表情をしていた。


「取引相手の公爵様は新鮮なアクアリアフォックスを……というご希望でしたが大丈夫でしょうか」

「なに、問題ない。捕まえたのは1か月ほど前だが、昨日捕まえたことにしてしまおう。どうせ、ヤツらにはわからん」


 多少体が濁ってはいるが、水の中に入れておけば治るとでも言っておこう。

 商売を上手くやっていくには、適度にごまかすことも大切だ。

 私たちを見ると、モンスターどもがまた喚きだした。


『ゴウウウ! (みんな、ヤツが来たぞ! スキルの効果が弱っている者たちから、いっせいに攻撃するんだ!)』

『ゲアアアア! (まだ<服従>スキルの効力が残っている者は、俺たちがカバーする!)』

『グルルル! (全員で力を合わせれば怖くなんかないぞ!)』


「こら! 騒がしいぞ! これから大事な客が来るってのに……! まぁいい、誰が主かその体に教えてやる!」


 さて、今日も楽しく躾を始めよう。

 思いっきり鞭を振り上げたときだった。


『『ゴアアアア! (今だ! 檻をこじ開けろ!)』』


 モンスターどもがいっせいに檻へ突進し始めた。

 こんなこと今までで初めてだ。

 私のすぐ横では、巨大なギガントグリズリーが檻を押し広げている。

 今にも壊されそうだ。


「だ、旦那様! 大変です! このままではモンスターが……!」

「ええい、わかっておる! おい、お前ら止めろ! いい加減にしろ! 地面に這いつくばれ!」


 いつもなら私が一言命令しただけで、モンスターどもは動けなくなるはずだ。

 しかし、いくら叫んでもヤツらの動きは止まらない。

 いや、何匹かは地面に這いつくばっていた。

 それでも、ほとんどが私の言う事に逆らい檻を破壊しようとしている。

 

「ど、どうして私の言いなりにならないんだ! こ、こんなのおかしいだろ! ……あっ!」


 手当たり次第に叩こうとしたら、もう半分ほど出てきているギガントグリズリーに鞭を取り上げられてしまった。


「旦那様! 武器を取られたらどうやって身を守るのですか!?」

「うるさい、黙れ! お前も戦え!」


 使用人と怒鳴り合っていると、とうとうモンスターどもが檻から出て来てしまった。

 檻を壊せなかったヤツらも、他のモンスターに助け出されている。


「ひいいいい! 旦那様、どうしましょう!」 

「ど、どういうことだ!? 私の<服従>スキルで支配しているはずなのに! ク、クソ、いったん逃げるぞ!」


 まずは屋敷に避難するのだ。

 駆けだそうと後ろを振り返ったとき、巨大な何かに当たった。

 そう、まるで大きなグリズリーのような……。


『ググルルル(逃げられると思うなよ)』


 空耳なのか、人間の言葉が聞こえた気がした。

 私の目の前には、ギガントグリズリーが立ちはだかっている。

 とんでもない鋭い目で私を睨んでいた。

 背後にはモンスターの群れ。

 もうどこにも逃げられない。


「「そ、そんな……」」


 あっという間に、ズラリと囲まれてしまった。


『ギャアア! (好き勝手やってくれたな! この借りは何十倍にして返してやる!)』

『クルアアア! (お前に苦しめられたモンスターはたくさんいるんだからな! 自分の行いを反省しろ!)』

『ゴヴヴ! (今さら謝っても許さないぞ! 僕たちは本当に怒っているんだ!)』


 右からも左からも、怒りの視線が突き刺さる。

 まるで生きた心地がしなかった。

 モ、モンスターはこんなに恐ろしいのか。

 あまりの威圧感に、私たちは震え上がることしかできなかった。


『ゲアア! (みんなでこいつを踏みつぶせ!)』

『ギイイイ! (モンスターの力を思い知るがいい!)』

『グヴヴ! (消えてなくなってしまえ!)』


 モンスターどもが思いっきりのしかかってくる。

 全身がものすごい力で圧迫され、呼吸もままならなくなってきた。


「うわあああ! た、頼む! や、やめ……!」


 そして、私は意識を失った。

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