第4話:“擁護の館”と初仕事

「さあ、ようこそ、シェルタリアちゃん! ここが“擁護の館”だよ!」

「し、失礼しまーす」

『こんにちは~』

 

 ギルドの中は大きいロビーのようだった。

 テーブルに座って何かを相談している人、壁に貼り紙を貼っている人、何かの道具を手入れしている人……。

 ギルド自体に入ったことがない私には新鮮な光景だ。

 勝手に物騒なイメージを抱いていたけど、そんなことはなかった。


「まずはギルドマスターを紹介するね……あっ、ストロングさん! ちょうどいいところに」


 と、そこで、カウンターの奥から大柄な男性が出てきた。

 オールバックにした焦げ茶色の短髪が爽やかだ。

 大きな鳶色の目が優しそうな印象だった。


「ベティ、今帰りか? おっと、見かけない顔だな」

「この人はシェルタリアちゃん。“魔の森”で会ったんだよ。なんと、モンスターと会話できるの!」

「モンスターと会話できるだって!? それは本当か、お嬢ちゃん!?」


 ストロングさんが驚きの声をあげた途端、ギルドの人たちがいっせいに私を見た。


「え! モンスターと話せるってマジかよ!」

「そんなヤツ初めて聞いたぞ!」

「っていうか、スライム連れてるじゃん! 本当なんだな!」


 わいわいがやがやと、あっという間に囲まれてしまった。


「こ、こんにちは、皆さん。私はシェルタリア・ガードナーと言います。“魔の森”でベティと出会って……」


 それから、私は自分の境遇を話した。


「……そうか、家から追放されるなんて……ずいぶんと辛い目に遭ったんだなぁ」


 ストロングさんは、うっうっ……と泣きながら目をゴシゴシ擦っている。

 意外と涙もろい性格のようだ。


「私にできることがありましたら、何でも仰ってください。少しでもモンスターたちの力になりたいんです」


 実家に捕まっていたモンスターたちは守れなかった。

 だから、少しでも罪滅ぼしをしたい気持ちだった。


「じゃあ、さっそくだが一つ頼めるか? 右足をケガしているヘルハウンドを保護したんだがな。警戒心が強くて治療させてくれんのだ。飯も全然食べようとしない」


 ストロングさんは静かに話し出した。

 モンスターの話をするときは、打って変わったように真面目な雰囲気になる。


「へ、ヘルハウンドですか。それはまた貴重なモンスターがいるんですね」


 ヘルハウンドは炎を操る犬型のモンスターだ。

 体の中で炎属性の魔力を錬成できる。

 火を吹いて攻撃したり暗い夜道を照らしたり、冒険のお供としても需要が高そうだ。

 だけど、定期的に炎を吐かせないと体調が悪くなってしまう。


「どうやら、元は人間に飼われていたらしいんだ。主人につけられたであろう刻印が刻まれているからな。だが……きっと、辛い仕打ちを受けたんだろう。俺たちが近寄るだけで威嚇してくるんだ」

「怪我自体は回復魔法で治せそうなんだけどね。このままだと右足が化膿してダメになっちゃうかもしれないの」

「そんな大変な状況なんですか……」

『ヘルハウンドかぁ。ちょっと怖いかも』


 ライムはプルプル震えていた。

 小声でそっと話しかける。

 

「怖かったらここで休ませてもらう?」

『いや、シェルタリアと一緒にいる。ヘルハウンドが襲ってきたら僕が守るから』


 ライムはグッと胸を張っている。

 身体をさすってあげると落ち着いたようだ。


「でしたら、誤解が解けるように私から話してみます」

「「ありがとう、助かるよ!」」


 私が言うと、二人とも笑顔になった。


「それで、ヘルハウンドはどこにいるんですか?」

「ギルドの近くに専用のモンスター舎があってな。ヘルハウンドもそこにいる」

「保護したモンスターは、みんなそこで傷や病気を癒しているの。私についてきて」


 ベティとストロングさんはギルドの裏手に歩いていく。

 少し進むと、ギルドの本部より大きな建物が出てきた。

 本部もしっかりした建物だったけど、こっちの方が頑丈に見える。


「ずいぶんと立派な建物なんだね。みんなが住んでいるところよりも大きい……」

「ギルドの方針でな。なるべくモンスターを優先している」

「あたしたちよりモンスターの待遇を良くしてあげたいんだ。じゃあ、中を案内するね」


 ベティたちに連れられて静かに歩いていく。

 大きな通路が真ん中にあって、その両側にモンスターを入れている檻があった。

 掃除が行き届いているようで清潔感にあふれている。

 みんな体のどこかをケガしていたり体調が悪そうだったりと、保護が必要そうなモンスターばかりだった。


『おい、新しい人間が来たぞ。女の人間だ』

『肩にスライムを乗っけているよ』

『あいつも回復魔法が使えるのかな』


 モンスターたちの話し声が聞こえる。

 スライムの話題が出る度、ライムもプルプルしていた。


「着いたよ、シェルタリアちゃん。ここがヘルハウンドの檻だよ」


 やがて、一つの檻の前に来た。

 そこには、傷ついたヘルハウンドが横たわっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る