第3話:躾(Side:バニット①)

「こらっ! 私の言う通りしろ!」

『『ギイイイイイ!』』


 私は屋敷の地下にいた。

 モンスターどもを押し込めている飼育スペースだ。

 手当たり次第に特殊な鞭で叩きまくる。

 これは決して暴力ではない、立派な躾なのだ。

 こいつらはこうしないと大人しくしないからな。

 モンスターどもは必死に暴れているが、特注の檻はビクともしない。


「フンッ、いくら暴れても無駄だ。この檻は特殊な結界で覆っているからな。貴様らモンスターには突破できるはずもない」


 ここにいるのは一級品のレア物ばかりだ。

 ホワイトウルフ、サーベルキャット、アイシクルバード……どいつもこいつもかなりの高値で売れる。

 一般的に、モンスターを捕まえるのは大変難しいと言われていた。

 だが、私は特殊なスキルのおかげで難なく捕らえることができている。


「旦那様、そんなに叩いてしまうと傷ができてしまうのでは……」

「なに、問題ない。この鞭は傷や痣の残らない鞭だからな。いくら叩いても問題ないわ」

「なるほど……それは安心でございますね」


 使用人たちには多額の給料を渡しているので、私に歯向かう者など一人もいなかった。

 それにしても、シェルタリアは本当に目障りだったな。

 あいつを追放して本当に良かった。


「バニット様、依頼人の方がお見えになりました」

「よし、すぐに行く」


 屋敷に戻ると、取引相手のマルキース侯爵がいた。

 もう何回かモンスターを売っている常連だった。

 

「これはこれはマルキース侯爵様、ようこそおいでくださいました」

「今回もよろしく頼むぞ、バニット伯爵。娘がアイシクルバードを欲しがりましてな。ここにならいると聞いたもので」


 モンスターを売るのは金持ち貴族に限る。

 金払いもいいし口も固い。

 庶民の貧乏人向けにしょぼいモンスターを捕まえても労力に見合わないからな。

 地下の飼育スペースに連れていくと、マルキース侯爵は感嘆の声をあげた。


「おおお! また品揃えが良くなっていますな! 右も左もレアモンスターばかりだ!」

「クククッ、恐れ入ります」

「それにしても、バニット伯爵はモンスターを捕まえるのが本当に上手い。王国騎士団にでも入ったらどうかね」

「ハハハ、ご冗談を」


 私のスキルは<服従>だ。

 攻撃した者を支配することができる。

 一度でも私の攻撃を喰らった者は、私に服従せざるを得ない。

 この力のおかげでモンスターどもを捕まえることができていた。


(それにしても、シェルタリアは本当にうるさい娘だったな)


 モンスターの代わりに、あいつを鞭で叩いてやったこともあるほどだ。

 <服従>スキルは人間に効かないのが残念だった。


「では、バニット伯爵。こちらのアイシクルバードは500万ゴールドではいかがでしょうか」

「ええ、よろしいでしょう」


 アニマビスト王国には大量のモンスターが住んでいる。

 レア物の補給に困ることはなかった。


「これで良い土産ができた。ありがとう、バニット伯爵」

「いえいえ、またどうぞごひいきに」


 マルキース侯爵は上機嫌で帰っていった。

 たった一匹のモンスターを売るだけで、500万ゴールドも手に入った。

 こんなに楽な商売は他にない。


「クククッ、愚か者め。アイシクルバードがなんたるかも知らずに買っていくとはな」


 モンスターは楽に高く売れる。

 特に、無知なくせに金はたくさん持っている貴族たちだ。

 アイシクルバードは寒冷地や、山の上の寒い場所に棲み処を置く。

 この辺りの気候では、そのうち具合が悪くなって死ぬことは目に見えている。

 だが、モンスターがどうなろうと私の知ったことではない。


「さて、モンスターどもの在庫を調べておくか」


 飼育スぺースはモンスターしかいないので、掃除など一度もしていない。

 こいつらには劣悪な環境の方がお似合いだ。

 私を見ると、モンスターがいっせいに騒ぎ出した。


『グルル! (みんなで反乱を起こそう! もう我慢できない!)』

『ギアアアア! (そうだそうだ! 全員で力を合わせればこんなヤツすぐに倒せるぞ!)』

『ヴヴ! (いつまでも俺たちを好きなようにできると思うな!)』


 モンスターどもは相変わらず鳴き声がうるさい。

 だから、言う事を聞かせるためさらに鞭で叩きまくる。


「静かにしてろ! このケダモノが!」


 まったく、こいつらときたら本当に手間のかかるヤツらだな。

 ひとしきり叩きまくると、ようやく静かになった。


『ギルルル(みんなで作戦会議をしよう。人間に俺たちの言葉はわからないから、自由に話せるぞ)』

『ゴアアアアア(あいつのスキルは時間が経つにつれて効果が弱っていく。でも、本人は気づいていない。そこが狙い目だ)』

『グア(俺たちモンスターの力を見せつけてやろうぜ)』


 私が飼育スペースから出て行っても、いつまでも煩わしい鳴き声は聞こえていた。

 まぁいい、騒いでいられるのも今のうちだ。

 さて、次のレア物でも探しに行くかな。

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