第2話:モンスター保護ギルド
「え?」
振り向くと、一人の女の子がいた。
茶色の眼に明るい茶色のショートカットをおさげにしていて活発な印象の娘だ。
私と同じ年頃に見える。
『ま、また新しい人間だ』
ライムは怯えたように、私の手の平で縮んでいた。
「大丈夫だよ。きっと、悪い人ではないわ。それに、何かあったら私がライムを守るわ」
女の子は冒険者や傭兵といった感じはしない。
もしかしたら、森に薬草や食べ物を採りにきた住民かもしれない。
大丈夫よ、とライムを撫でていると、女の子はゆっくり近づいてきた。
「ね、ねえ、あなたはモンスターの言葉が話せるの?」
恐る恐るといった態度で尋ねてくる。
「え、ええ、話せるというか、<魔物の語らい>っていうスキルがあるだけなんだけど……っ!」
『うわっ!』
話せ……の時点で、女の子がダダダ! とすごい勢いで近寄ってきた。
ライムは私の髪に隠れてしまった。
「本当に話せるんだね!」
女の子は目をキラキラさせながら、私の手を握りしめる。
「え、ええ、話せます」
「モモモモモ、モンスターの言葉が話せる人なんて初めて見たよ!」
「そ、そうですか」
「やったー! これ以上ない人材を見つけたぞー!」
すごいハイテンションで話しかけてくるので、思わず勢いに飲み込まれてしまいそうだった。
「えっと……あなたは何ていう名前なんですか?」
「ごめん! 名乗るのが遅くなっちゃった! 興奮しやすい性格なんだよね、たはは。あたしはベティっていうの!」
ベティと名乗った子は、たははと笑っている。
とても感情豊かな人らしい。
「私はシェルタリア・ガードナーって言います。どうぞよろしく」
「よろしくね」
改めて握手を交わす。
私たちの様子を見て、ライムは落ち着きを取り戻したようだ。
『シェルタリアの言う通り、僕を捕まえに来たつもりじゃないみたいだね。良かった~』
ライムはもう怯えていなかった。
ふぅ~と息を吐いている。
「あなたは近くに住んでいる人なの? もしそうなら、森の出口を教えてくれない?」
「まぁ、住民ではないんだけどね。あたしはモンスター保護ギルド“擁護の館”のメンバーだよ!」
住民ではなかったのか。
だとすると、どうして“魔の森”なんかにいるのだろう。
いや、それよりも……。
「モンスター保護ギルド……ってなに?」
「その名の通り、飼育放棄されたり人間にひどいことをされているモンスターを保護するギルドだよ。森を抜けた先にあるの」
「そんなギルドがあるなんて……」
ギルドと言えば、特殊なスキルを持った人たちの集まりだ。
だけど、まさかモンスターの保護が専門だとは。
『ふぅ~ん、そんなギルドがあるんだねぇ』
「えっ! ライムも言葉がわかるの」
いつの間にか、ライムも会話に加わっていたのでびっくりした。
『シェルタリアの近くにいると、僕たちも人間の言葉がわかるみたい』
「な、なるほど……」
どうやら、<魔物の語らい>は周囲のモンスターにも効果が及ぶらしかった。
「最近、アニマビスト王国から来たモンスターが人を襲うことが増えているからね。モンスターを討伐せずに、少しでも被害を減らそうということで設立されたギルドなんだ」
たぶん、こんなところまで実家の影響が出ているのだ。
彼らの横暴を止められなかった自分が悔しい。
「私……アニマビスト王国から来たの」
「え!?」
それから、私は自分の境遇を話した。
スキルが気色悪いと言われ追放されたことなど……思ったよりスラスラと話せた。
「そんな辛い目に遭っていたんだ……ごめん、知らなくて」
「いいえ、気にしないで」
「ねえ、行くところが無いんなら……私たちの所に来ない?」
ベティが静かに切り出した。
「行くって……モンスター保護ギルドへ……?」
彼女は黙ったままコクリと頷いた。
「私たちはモンスターのケガや病気は治せても彼らの言葉はわからないの。だから、モンスターたちが何を望んでいるかわからなかったり、心を通わすのが難しいんだよね。意思の疎通が上手くいかないことも多くて困っていたの」
その様子からは、さっきまでのハツラツとした感じは消えていた。
そのまま、とうとうと語る。
「中には辛い仕打ちをされた子たちもいるんだろうね……全然心を開いてくれないモンスターもいるわ」
人間は欲のためなら何でもする。
想像しなくても、痛いほどよくわかった。
「シェルタリアちゃんがいれば、百人力の向かうところ敵なしだよ! ……ダメかな?」
ベティは控えめに私を見ていた。
もちろん、答えは一つに決まっている。
「ぜひ……私を仲間に入れてください」
私の力が少しでもモンスターたちの役に立てれば、という思いだった。
「ありがとう、シェルタリアちゃん! みんな喜ぶだろうなぁ!」
ベティは私の手を握ってブンブンと振り回す。
彼女に連れられ森の中を進んでいくと、大きな建物が見えてきた。
「ここがモンスター保護ギルド“擁護の館”だよ!」
「ずいぶんと大きな建物だね」
『僕もこんな家見たことない』
“擁護の館”は全体が木造で、温かみのある雰囲気だ。
目の前にある建物の後ろには、平屋もいくつか建っていた。
ドアの上には色んなモンスターの絵が描いてある。
緊張してくるな。
「じゃあ、ギルドに案内するね」
「う、うん」
ベティが、ガチャリと扉を開けた。
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