こちら、モンスター保護ギルド!~モンスターの言葉がわかるなど気色悪いと追放された伯爵令嬢ですが、傷ついた子たちを保護したらモフモフしてきます。忠告を聞かなかった実家はモンスターに襲われ破滅しました~

青空あかな

第1話:気色悪いスキル

「シェルタリア・ガードナー! 貴様は今日で追放とする! <魔物の語らい>などという、気色悪いスキルを授かりおって!」

「っ……!」


 天からスキルを授与される15歳の誕生日、私は家の前で抑えつけられていた。

 そして、とうとう追放の令まで受けてしまった。

 名目上はモンスターと会話できるスキル、<魔物の語らい>が下劣だからだ。

 だが、本当の理由は他にある。


「以前から貴様は、私の商売に難癖をつけてきたな! 我が伯爵家の商売に口を出すでない!」

「ですから、何度も申し上げておりますが、モンスターの飼育には良い環境が必要なのです! それに、彼らは人間と暮らしたがっているわけではありません!」

「まだそんなことをのたまうのか! モンスターは人間に支配されるために生まれてきたのだ!」


 何度も何度も怒鳴りつけてくるのは、私の父親でガードナー家の当主、バニット伯爵。

 ここアニマビスト王国の周囲には、多種多様なモンスターがたくさん住んでいる。

 ある時、彼らをペットとして飼育、売買することに目を付けた人がいた。

 父上だ。

 国内の貴族だけでなく、他国にもモンスターをペットとして輸出し莫大な資産を得ている。

 しかし、その実態は……乱獲や違法な飼育など目も当てられなかった。


「さあ、これを見ろ!」


 包帯で大げさに巻かれた右腕を見せてくる。

 グイグイグイ! っと、私の目の前に突き出してきた。


「貴様がモンスターに命令して私を襲わせたのだろう!」

「違います! しておりません!」


 誰がそんなことをするものか。

 というより、そんなに勢い良く動かせるのなら怪我などしていないだろうに。


「黙れ! 言い逃れしようとするなんて見苦しいと思わないのか!?」


 父上だけじゃなく、使用人たちもみな私を睨んでいる。

 彼らは金の欲望に囚われているのだ。

 この家に良心のある者は一人もいなかった。


「私はどうなってもいいですが、モンスターにはひどいことをしないでください」


 私だけその非道性にずっと異議を唱えていた。

 だけど、父上たちは聞く耳を持たなかった。

 時には殴られたり、部屋に監禁されることもあった。

 いくら忠告しても、誰も聞いてくれなかった。


「モンスターなどという下等生物は、人間様がどんな扱いをしても構わないのだ! あいつらは商品だ! どんな扱いをしようが人間様の勝手だろうが!」


 父上たちはモンスターを物扱いしている。

 それもただ一つ、人語を話せないという理由だけで……。

 

「モンスターは物じゃありません! 彼らにも命があって、自分の意志だって持っています! ただ、私たちと違う言葉を話しているだけなのです!」

「ええい、黙らんか! 貴様は人間よりもモンスターの味方をするのか! そんなにモンスターが好きならば、いっそのことモンスターだらけの森で暮らしたらどうだ!? すぐに喰われるだろうがな!」


 父上の一言に、みんなが下品に笑い合っていた。

 モンスターよりも彼らの方がずっと下卑た存在に見える。


「さあ! この不届き者を辺境地帯の“魔の森”に置き去りにしてこい! モンスターどもと会話できるのだ! 命乞いくらいはできるだろう!」


 アハハハ! という笑い声に包まれる中、私は馬車に詰め込まれた。



□□□



「ぐっ……ここが、魔の森か」


 その後、魔の森に着くと乱暴に放り出された。

 見渡す限り、うっそうとした木々に囲まれている。

 まだ明るい時間帯なのに、やけに薄暗かった。


「これからどうしようか……」


 着の身着のままだし、お金も全く持っていない。

 まさしく絶望のどん底だった。

 それでも、実家の劣悪な環境に押し込まれているモンスターたちを思うと心が痛い。


――とりあえず、森の出口を探すか。


 失意の中、一歩を踏み出そうとしたときだった。


『ピギィ!』


 青くて丸い物体が飛び出してきた。

 スライムだ。

 両手で持てそうなくらいの大きさだから、まだ子どもかもしれない。

 体中傷だらけで見るからに痛々しかった。


「あなた、どうしたの? 怪我しているじゃない」

『え? ……モ、モンスターの言葉が話せるの?』


 スライムはぽかんと私を見上げている。


「私はシェルタリア・ガードナー。スキルでモンスターと会話できるのよ」

『ぼ、僕は、討伐されちゃう?』


 スライムは怖そうにプルプルと震えている。

 大した力を持たない彼らは、遊び半分に討伐されるか捕まるしかない。

 しかし、あまり抵抗しないのと愛らしい見た目も相まって、貴族令嬢の中で結構な人気があった。


「いいえ、討伐なんかしないわ。あなたは何も悪いことはしていないもの」

『そ、そう……不思議な人間だね』


 モンスターは基本的に人を襲ったりはしない。

 こちらが何もしなければ何もしてこない。

 彼らは静かに暮らしたいだけなのだ。


「もしかして、あなたは一人? 仲間とかはいないのかしら。スライムは群れで行動することが多いはずだけど」


 周りを見てもスライムはおろか鳥一匹すらいない。

 迷子のスライムかな。


『僕は一人だよ。弱くて仲間から追い出されちゃったんだ……』


 スライムはしょんぼりして下を向いている。

 

「だったら、私があなたの仲間になってあげるわ。もちろん、あなたが良かったらの話だけど」

『え! ほ、ほんと!?』

「本当よ。私もちょうど一人だったの」

『う、嬉しい!』


 撫でであげると、小さな体をプルプルして喜んでいた。


『ねえ、僕に名前をつけてよ』

「名前? ……そうねぇ、スライムだから……ライム。じゃ安直すぎるかな」

『いいねぇ、ライム!』


 ということで、この子の名前はライムに決まった。


「でも、困った……私にはあなたの怪我を治せないわ。私、魔法が全然使えないの」


 私は<魔物の語らい>しか使えない。

 簡単な回復魔法なども習得できなかったのだ。

 

『こんな怪我なんか休んでればそのうち治るよ。これでも、僕は立派なモンスターだからね』

「そうは言っても……そうだ、薬草を探しましょう。低ランクの物なら、この辺りにも生えているはずだわ」


 ライムを抱えながら、草むらの中をかき分ける。

 モンスターたちの傷を少しでも癒すため、薬草採りは何度もしたことがあった。


「あっ……あった」


 少し探すと低ランクの薬草が生えていた。


『でも、シェルタリアの体がボロボロになっているよ』

「え?」


 気がついたら、私の腕や足なんかは細かい傷がいっぱいついていた。

 おそらく、木の枝に引っ掻かれたんだろう。


『薬草はシェルタリアが飲みなよ』

「こんな傷なんともないわ。人間だって休んでれば怪我は治っていくからね。ライムの方が重傷だから先に食べて」

『うん、わかった……シェルタリアは優しいなぁ』


 ライムに薬草を食べさせる。

 もひもひ食べていると、傷が少しずつ消えていった。


「具合はどう? もうどこも痛くない?」

『もう完璧に治っちゃったよ。ありがとう、シェルタリア』


 二人でふふふ、と笑い合っていたときだった。


「あなた……モンスターの言葉が話せるの!?」


 私たちの後ろから、女の子の声が響いた。

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