第12話 幼なじみの転生は気付けない(12) SIDE ケイン
◇ ◆ ◇
「よかった……無事に帰ってきてくれて……」
一応、屋敷での出来事をギルドに報告しにいくと、カウンターの向こうでそわそわしていた受付嬢さんがほっと大きな胸をなでおろしていた。
成長株だっていうのは照れ隠しで、実はオレのこと心配してくれたんじゃない?
ツンデレさんなんじゃない?
……そう思っておくことにしよう。
確認しなければ、事実にはならないからね!
「それで、いったい何の用だったんですか?」
身を乗り出してくる受付嬢さんに、屋敷であったことを簡単に話した。
「それは……釘を刺されたんでしょうね……」
オレの話を聞いた受付嬢さんは、神妙な面持ちでつぶやいた。
「やっぱりそう思いますか」
「間違いないでしょうね。あのマリー様がなんの見返りもなく贈り物をするはずがありません。奪うのに理由はなく、与える理由があっても与えないのがマリー様ですから」
えらい言われようである。
「ギルドの登録者にいっそうがんばるよう通達を――」
「待ってください」
棚から羊皮紙を取り出した受付嬢さんを止める。
「そんな通達をだせば、冒険者が他の街に逃げてしまうのでは?」
魔獣が襲ってくるならともかく、敵は同じ人間なのだ。
しかも、通達に従って励んだところで褒美が本当に貰える保証はなく、なんなら理不尽な目に合う可能性すらある。
「たしかに……今でこそ、この街は交易の要所として栄えている分、ギルドからの支払いにも色がついています。それで居着いている冒険者達も、これ以上マリー様リスクが上がるとなれば、街を出て行ってしまうかもしれません」
マリー様リスクて。
名前までついてるんか。
転生前も、某大国にはリスクがあると言いながらも貿易を続けてた企業はたくさんあったしな。
規模は全然違うけど。
「このことは、私と勇者さんの秘密にしておきましょう」
「それがいいと思います」
「ふふっ……ギルドの冒険者と秘密だなんて、ちょっと悪いことをしてる気分ですね」
はにかむ受付嬢さんかわいいなあ。
「それはそうと、勇者さんがマリー様に目をつけられたことに変わりはないんですよね」
「やばいかな……?」
「どうでしょうか……ここまで露骨に目をつけられて無事に帰ってきた人がいなかったのでなんとも……」
なにそれ怖い。
「気に入られた……なんてことは……」
「気休めにそう思っておくのは、精神衛生上良いとは思いますが……」
自分でも気休めだってわかってたけどね!
そこまではっきり言われると胃にくるよね。
「実害があるまで大人しくしておくしかないかなあ」
「そうですね。いつでも夜逃げできる準備だけはしておいた方がよろしいかと」
「うん、そうします。ありがとう」
「いいえ。あっ、そうだ」
「何か良いアイディアが!?」
「夜逃げする時は教えて下さいね。お別れくらいはしたいですから」
「あ……はい……」
オレのこと、気に入ってくれてるってことでいいんだよね……?
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