第11話 幼なじみの転生は気付けない(11) SIDE ケイン
SIDE ケイン
公爵家って言うだけあって、金持ってるんだなあ。
召喚された時は周囲を見る余裕がそれほどなかったが、改めて見ると豪華な屋敷だ。
侍女に案内されて歩く廊下には、高そうな調度品と、見張りの兵士が贅沢に並んでいる。
街自体もそれなりに賑わっているが、それを差し引いても圧倒的な財をためこんでいるようだ。
屋敷というより、内装はほとんどお城である。
「失礼します」
無駄に華美な装飾を施されたデカい扉をくぐると、まるで玉座と言いたげな椅子に、巨乳の美少女が鎮座していた。
扉から玉座に続く赤い絨毯の左右には、武装した兵士が並んでいる。
応接室ではなく謁見室とはよく言ったものだ。
一応、礼はしておく。
無駄な争いをしてもしかたがない。
ここは無難に帰らせてもらおう。
それにしてもこのマリー様という美少女。
人格さえまともなら、ものっすごい好みである。
ごてごてと装飾品で着飾っているのは趣味じゃないが、その目つきや顔立ちがストライクすぎる。
顔の形は違うのに、なぜか幼なじみのマリを思い出す所作も魅力的だ。
もちろん、マリは噂のマリー様みたいに性悪女じゃないけどな。
そんなことを考えていたオレもオレだが、やたらこっちをジロジロ見てくる女だな。
召喚された日以来、関わりを持った記憶はないんだけども。
変な誤解をされてなきゃいいんだけど……。
マリーは椅子から立ち上がると、壇上から降り、オレの前に立った。
でっか!
近くでみるとすんごいお胸だ。
しかも、胸元ががっつり開いたドレスを着ているもんだから、谷間がこれでもかと強調されている。
目の前に至宝があるよ!
「こちらをどうぞ」
近くに控えていた兵士がマリーに剣を差し出した。
え? どういうこと?
もしかしてオレの首を撥ねるつもりか!?
噂通りトンデモなご令嬢だ。
だがこちらもタダでやられてやるつもりはない。
そっちがその気なら、レベルアップの成果を見せてやることになる。
「剣はいらないわ。彼も使い慣れたものがあるでしょうし」
「はっ! そうでありますね! どうせ血で汚すのであれば、自身の物でせよということですね!」
マリーと兵士が物騒な会話をしている。
自分の剣で死ねとか、どういう発想だよ!
青年と呼ぶには少し歳のいったその兵士が、「わかってますよ」という顔で剣を収めると、
「ほら、その剣を出せ」
と手の平をこちらに向けた。
いやいや、今の会話を聞いて渡すと思うか?
「待って待って。どういうこと?」
止めに入ってくれたのは、意外にもマリーだった。
「この男を処刑するのでは?」
「なんで私が近づいただけでそうなるかな!?」
想像よりフランクな口調だなあ。
笑顔で人を殺せるタイプかな?
「え!? マリー様が庶民を処罰するのに理由が必要なのですか!?」
めっちゃ驚いてるじゃん!
完全に普段からサイコパスなやつじゃん!
「最近活躍してる勇者さんにご褒美をあげるって話は通してあるでしょ?」
「いつものように気が変わったのかと……」
いつもかぁ……そうかぁ……。
マジでヤベぇなこの女。
「違うから。私が出してほしいのはそっち」
マリーが指さしたのは、侍女が銀のトレーに置いたペンダントだ。親指の爪ほどの小さな蒼い宝石があしらわれている。
「勇者さん、お名前は?」
なんで急に名前を聞いてくるんだ?
オレの名前に召喚状をよこしたのはあんただろ、と言いたい。
どうせ部下に書かせて、オレの名前なんて知らないんだろうけど。
「ケインです」
名乗ったら名乗ったで、なんか喜んだり戸惑ったり表情をころころ変えてるし!
こわい!
なんかわからんけどこわい!
「最近ご活躍のようですね。これはその褒美です」
マリーはオレにネックレスをつけてくれた。
「はぁ……」
いやいやいやいや、なんの贈り物なんだこれ?
盗聴器……はないにしても、そんな感じの魔法がかかってたりしないよな?
どこかのマフィアは殺す相手に贈り物をするっていうけど、もしかしてこれも……?
そこまで恨まれるようなことした覚えはないんだが!?
「街のために活躍した冒険者にはこれからも褒美を出して行きたいと思います。街を護ってくださいね」
「はい」
首を縦に振ってみたものの、こういう時、言葉通りに受け取ってはいけないことを、社会人経験の中で学んでいた。
つまり、頑張らないとヤっちまうからなってことっすね?
「今日はありがとうございました。下がってください」
彼女の「ありがとう」に周囲がざわついた。
礼を言っただけでこの反応である。
どんだけ普段、傍若無人なのかがわかる。
ただそうなると、なぜ急に態度を変えたのかが気にかかる。
よく見ると、マリーはどこか困った顔をしているようにも見える。
その顔はなぜか幼馴染のマリを連想させた。
違う顔なのに、なんというか……雰囲気としか言いようがないけど。
といってもさすがに気のせいだろう。
マリは向こうの世界で元気にやっているはずだしな。
オレの葬式でちょっと泣いたりしてくれてると嬉しいが。
いや、悲しませたいわけじゃないんだけどね。
「あの……」
それでもオレの口は、その意思に反して開いていた。
「何か?」
「いえ、なんでもありません……」
まてまて。
変なことを言って首を刎ねられたらかなわない。
オレは口をつぐみ、その場を後にした。
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