第6話 キノコ
居間の隣の部屋は、和室で畳敷きだが、介護用ベッドが置かれていた。病院で使用しているような白いシーツを使っていたが、所々シミがあり、薄汚れていた。しかも部屋は糞尿の匂いがした。枕もとを覗き込むと、そこには、ただ天井をぼんやりと見つめる妹の姿があった。昔はかわいかったのに、今は見る影もない。人の表情が印象を大きく変えてしまう。いわゆる、重度の知的障害のある人の顔をしていた。俺のせいでこの人たちの人生を大きく変えてしまったんだ。
「紗々。兄貴の聡史だよ。苦労かけてごめん」
俺は変わり果てた妹を見て泣いてしまった。
「何でこんなことに・・・」
「あんたが、山で毒キノコ食べて変なことしてたからだろうが」
「毒キノコ?」
「そうだ。毒キノコ食べて裸で山に転がってたって、消防の人が言ってたよ。やらしいことしてたんだろ?」
「そんなの知らないよ」
俺は慌てて首を振った。
俺はその時初めて、あの日のことを思い出した。ビニール袋にキノコをたくさん取って、最後にカエンタケも見つけたんだ。カエンタケは3個しかなかったから、僕の理想には程遠かった。
俺がキノコに夢中になっていると、ガラの悪い人たちがやって来た。恐々、その方向を見ると、髪を染めたヤンキーたちだった。男女3人づつの計6人がいた。年齢は高校生くらいで、女の子はスカートが異常に長くて、上の洋服が短くて、流行りの服装だった。一人だけすごい美人が混じっていた。僕はその人に見とれていた。男たちはだぼだぼのズボンを履いていて、髪はヤンキー風に剃り込みを入れていて、トレーナーを着て、傍らにクラッチバックを持っていた。
「お前、何やってんだよ」
男の一人が俺に声を掛けた。
「キノコ採ってます」
俺はビビりながら返事をした。
「はっ。なんだそれ!食ってみろ」
「無理です」
俺はギョッとした。カエンタケなんか食べたら死んでしまう。
「これは毒キノコです」
「いいから、食え。食わなかったら殺すぞ」
俺はカエンタケを食べて死ぬのと、ヤンキーに殺されるのと、どっちがましか考えた。結果として俺はカエンタケを選んだ。カエンタケを食べると30分後くらいから、発熱,悪寒,嘔吐,下痢,腹痛,手足のしびれなどの症状が起きる。2日後には,消化器不全,小脳萎縮による運動障害など脳神経障害により死ぬ場合もあるということだった。でも、亡くなった人はいない。そう。危険だと言われているものの、カエンタケでは死なないのだ。
(注)死亡例は2件あり。
俺はカエンタケを口に含んだ。土の味がした。
「もっと食え!」
一人の男が胸倉をつかんだ。
「このキノコ食べると、死ぬんですよ」
「嘘だろ」
「本当です」
「やば、逃げよう!」
ヤンキーたちはびびって逃げて行った。
俺はカエンタケをムシャムシャ食べた。
カエンタケで人類皆殺しが無理なら、自分が死んでしまえばいいんだ。
そして、30分経って、ありえないほど具合が悪くなってきたから、のどに指を入れて吐き出した。それでも、腹痛がひどく、木の下で下痢をした。具合が悪すぎて俺はその場に倒れてしまった。
俺は気が付いたら病院のベッドにいた。どうやら、あのヤンキーたちが通報してくれたらしい。体中が痛かった。体がしびれて動かない。
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