第2話 フランジア争奪戦

 そして、ついに隣国がフランジアに攻め込んで来た。北からゴルドラ王国が、西からシエラベール公国が同時に攻め込んで来たのである。流石のラーズもこの状況は、想定していなかったため、混乱していた。


 取り敢えず魔法戦を苦手とするゴルドラには、魔法師団を差し向け対応。魔法・直接戦闘バランスのとれたシエラベールに対しては、自ら単独でゲリラ戦で対応を開始したのだった。


 ゴルドラは、フランジアの魔法師団の遠隔攻撃と魔法障壁で侵攻は、食い止められていた。シエラベールのバランスの取れた軍に関しては、ラーズが敵の指揮官を狙って転移魔法で接近、一対一の戦闘に持ち込んでいた。


 敵指揮官のまわりには、優秀な魔剣士が二人付き添っており、ラーズの瞬間移動からの速攻を裁き、瞬間移動の出現場所を予測して反撃を加えてくる。ラーズは、攻めあぐねていたばかりか、深傷を負ってしまっていた。更に、ラーズは二人の魔剣士に攻められ、ついに袈裟斬りに切り捨てられた。「ぐあぁぁっ」ラーズは、膝をつき動けなくなった。


 シエラベールの魔剣士が止めを刺す為に剣を振り上げた瞬間二人の魔剣士の前に小さな子供の影か割って入った。


 「お兄ちゃん大丈夫?」


 「リーシェ!何故ここに?」


 「お兄ちゃん酷い傷だよ。大丈夫?・・・お兄ちゃんに酷い事したのはお前達か?」


 子供とは思えない迫力でリーシェは、魔剣士をにらみつける。次の瞬間二人の魔剣士の首と腕が飛んだ。


 「お前が、指揮官か?」と言うより早く、リーシェの腕から閃光が走り指揮官の首が落ちた。


 「うおおおぉぉぉ」


 「指揮官殿の首は私リーシェが頂きました。」まさか、5歳の少女にやられてしまうとは、思っていなかったのだ。


 続いては後方にいた対魔法特殊装甲重歩兵団がここぞとばかりにリーシェを囲み対魔道兵器で仕掛けてくる。


 リーシェは、光る翼を広げて攻撃を避けながら『ホーリー・セイバー』で重歩兵を斬り伏せて行く。


 流石に対魔道歩兵もある程度は、リーシェの光の刃を防ぎ、魔法防御が困難な衝撃波攻撃を仕掛けてくる。


 《ドドドドォォン、ゴオオオン》リーシェの傍で衝撃波が炸裂する。流石のリーシェも衝撃波に巻き込まれて弾け飛ぶ。


 身体中の組織が損傷して吐血してうずくまる。


 リーシェは、長期戦の不利を悟り、『ホーリー・フレア・バースト!』特殊装甲重歩兵団を光の渦が呑み込んでいく。特殊重歩兵は、光の粒子に飲み込まれ消えていった。


 「ほぉ、あれが噂の聖女様か・・・何としてもあの娘を捕獲しろ!」


 後方から指示を飛ばすのは、シエラベールの大貴族であるラウダ公爵の長男グレイである。かれは、若くして国を揺るがす程の権力を持ち、今回の侵攻でも指揮官以上の実権を握っていたのだった。この男を沈めない限り勝利はないのだ。


 シエラベールは強かった。徹底した、魔道士対策がされた部隊は、リーシェの攻撃魔法の威力すら抑え込んでいた。しかも、現状ではラーズは、負傷して動けず、リーシェも重症を負い意識が混濁している状況であった。


 「キャアアアア」シエラベールの特殊兵団がリーシェを囲み毒を塗った槍で一斉に突き刺したのだ。


 幸か不幸か痛みで、意識の戻ったリーシェは、もう加減をする余裕もない。一気に最上級魔法を解き放った。


 『クリムゾン・ボルテックス!』


 父方の遺伝子から発現した真紅の雷光がシエラベール軍の真っ只中に打ち込まれた。


 《ドドドドォォン》シエラベール軍は、その半分以上が赤い電撃に焼き払われた。


 「な、何という事か・・・たかが、年端も行かない白魔道士一人に、わが最強部隊が殲滅されるとは・・・撤退だ!」シエラベール軍は、引き上げていった。


 リーシェは、ボロボロな身体を引きずって、ラーズの元に行き、最上級回復魔法をかける。


 『クリティカル・ヒール!』ラーズの傷は完治した。リーシェは、もう身体の状態が限界に達しており、自らの治療をすることもなく意識を失った。


 北側から攻め入ったゴルドラ軍は、フランジアの魔法師団との戦闘で半数の兵を失ったが、数に物を言わせた戦闘でフランジアの魔法師団もその数を3分の1まで減らしてしまっていた。既に防衛を続けられる状態では無かったが、シエラベールの撤退によって手の空いたラーズが魔法師団の指揮を取ることによって、辛くもゴルドラの撃退に成功したのであった。


 フランジアは、2国からの侵攻を奇跡的に防いだが、これはわずか5歳でしかない聖女の活躍の影響が大きかった。


 シエラベールでは、この5歳の聖女の存在を重く見ていた。シエラベールはフランジアに対して、不戦協定を締結する代わりに、リーシェの身柄引き渡しを要求してきたのである。


 フランジアは、既に殆どの兵力を失っており、次に侵攻があれば降伏するしかない状況であった。もう、リーシェを交換条件に引き渡す以外に生き残る方法が無くなっていたのだ。


 「いいよ仕方ないよ・・・私がシエラベールに行けば収まる事なんだよね。」リーシェはラーズに聞き返す。


 「リーシェは、気にしなくていいよ。元々おまえを戦闘に巻き込むつもりは無かったんだから・・・いや、強がりは止めよう。リーシェ、ありがとう。今回2国の同時侵攻を撃退出来たのは、リーシェのお陰だ。」


 「うん。お兄ちゃん達が倒れていくのを黙って見てられなかったんだ。」


 「そうだな、シエラベールの要求は、反故にしてこちらから攻め込もうか・・・」今回シエラベールの要求通りにしても、結局はリーシェの居なくなったフランジアを、取りに来るのは時間の問題であった。


 では、リーシェの体調の良い時を狙って、大魔法を落としに行くことにしよう。




 シエラベールの指定した期限当日。ラーズとリーシェは、シエラベールに向かった。一応は、死者が最低限度にすむように、交渉をした上で良い返事が得られない場合に、その場で大魔法を落とす事を考えていた。


 シエラベール城の城門に着くとすぐに担当官が現れ、魔封装具がリーシェに取り付けられた。ただし、この程度の魔封装具は、リーシェには、全く意味をなさない物であったため、甘んじて装着を受け入れた。


 初めは、シエラベール軍が取り押さえにかかってきたが、揉み合ううちに拘束は困難と判断されたため周囲を魔道衛兵が取り囲む形で総司令官との謁見となった。


 「ここに来たという事は、シエラベールの要求を承諾する意思があると言う事だな?」


 「誰がその様な約束をしましたか?」ラーズは、涼しげな顔で言葉をかえす。


 「大変です。将軍!」


 司令室へ驚くべき報告を伝えに伝令の兵士が飛び込んで来た。


 「この城の周囲の、7つの砦に光の槍が降り注いで、常駐している戦力がすべて壊滅しました!」


 白銀の髪を燃え上がらせ、リーシェは呪文を呟くと・・・


 《ドドドドォォン!》


 地響きとともに謁見中の指揮官の前に、巨大な光の槍が天井を貫いて降ってきた。指揮官の前に光の槍が聳え立つ。


 「解りますか?この状況でどちらが優位な立場であるか?解りますよね。」


 流石のラウダ将軍も、引かざるえなかったのだ。交渉は、フランジアに有利な状況で進められ、当面の平和については確保されたのであった。

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