第3話 アンブロシアの女王とリーシェの婚約者

 この戦いの後、大陸で起こった巨大な魔力の放出は、別の大陸にある、魔法大国アンブロシアでも観測されていた。


 「どうやら、やっとセイラの居所が判った様だな・・・迎えに行くのは、僕の役目だな。」大賢者シェスターが呟く。一方、母であるメルティアは、生命維持装置によって生かされているが、娘達の教育・精神安定を図る為、人工知能回路と接合して会話や相談が出来るのだ。A Iは、メルティアの意思を反映でき、実際に長女ルーナには、未だ母親役を果たしているのだ。『ルーナ、貴方もフランジアに行って、セイラと会って来なさい。得るものがあると思うわ。連れ戻せれば一番だけど、5年も経ってしまってるから、突然家族と言われても納得出来ないでしょうね。』「分かりました母様、取り敢えず妹と会って来ますね。」セイラに会うために、シェスターとルーナがフランジアに向かうことになった。


 当のリーシェは、シエラベールとの交渉を終えてラーズと共にフランジアに戻っていた。「兄様、これで暫くは平和な日々が過ごせるんだよね。」「これで、そう簡単にはフランジアには攻めて来れないさ。」過酷な戦闘の後の余韻に浸る二人の前に、ブルーグレーの髪と瞳を持つ青年が現れた。「よくも、こんな惰弱な国が、我が国の皇女様を攫って逃げたものだ・・・返す返すも口惜しいかぎりだ。」「誰だ、結界を掻い潜って入り込むとは何者だ!」「私達は魔法大国アンブロシアの皇族の者よ。」瞬間移動で現れた少女は、リーシェと瓜二つの顔立ちに、深い青色とブルーグレーのオッドアイの年齢にそぐわない大人びた容姿をしている。「さぁ、セイラ・・・帰りましょう。母様が待ってるわ。」ルーナは、リーシェに向かって手を差し伸べる。リーシェは毎晩見る夢に出てくる少女と王子様を目の前にして驚いて声も出せない。「貴様!何者だ」ラーズは慌てて問いただす。「誘拐犯の貴方に名乗るのも腹立たしいけどいいわ・・・名乗ってあげる。私はルーナ。アンブロシアの第一皇女。セイラ・・・貴方の双子の姉よ。」「・・・私はアンブロシアの宰相にして、セイラの婚約者。シェスターだ!」ラーズは慌ててリーシェを抱き抱えて逃げようとするが、空間転移出来ない。「無駄よ。貴方が空間魔法が得意なのはわかってる。結界を張ったわ。」ルーナの魔法は洗練されており、全く隙が無いのだ。『フリーズ・インパクトキャノン』シェスターの全てを凍らせる氷の弾丸がラーズを貫く。リーシェは慌てて反撃に出る。『ホーリーアロー』数発の光の矢が、ルーナとシェスターに向けて放たれるが命中する前に四散して消えて行った。「流石セイラね。誰にも教わらずに、この結界のなかでこれだけの魔法攻撃ができるのね。」全く歯が立たないのである。生まれて5年間、母メルティアのA Iに指導を受けたルーナとの差は、歴然としていた。ルーナは、呆然とするリーシェの手を取るとアンブロシアに向けて空間転移して行った。シェスターは、苦々しい顔をして気を失ったラーズを抱えて帰還して行った。

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