双子聖女は自由自在

@drtango

第1話 プロローグ

 ある栄華を極めた魔法大国の皇女がいた。


 珍しい聖属性の攻撃魔法を自在に操り、神々の侵略すら退ける程の活躍を見せるが、彼女はその際の深手によって命を落とした。


 彼女は最強の魔道士になる為に、遺伝子操作を行なって生まれてきた魔法強化人種である。神々と戦う為に天使の力も手に入れ、徹底して魔法強化を行われた女性であった。


 そんな彼女は死の間際、愛した2人の男性と周囲の人達の為に、自分の遺伝子を残す事を決心したのであった。


 彼女は死して後、自分の身体を生命維持装置に繋いで、自分の子孫をお腹に宿して培養器内に存在し続けていたのだった。宿した子供は、自分の部下であり恋人である2人の賢者の遺伝子と人工受精した自らの卵子だ。


 そして生まれてきた、双子の女の子は母親と同じ能力を持ち、天使との融合の影響で背中に翼を持って生まれた。二人は母親に似てとても美しく、銀白の髪と瞳は父方の遺伝子を反映して左右違った瞳の色をしていた。


 母親の育った国は、魔法大国アンブロシア。大陸をほぼ支配下に置く大勢力である。つまり、この2人はアンブロシアの皇女として生きて行く事が運命付けられていたのだった。


 名前は、ルーナ・メルル・カルバリオンとセイラ・メルラ・カルバリオン。二人は生まれてから毎日、母メルティアの意志を刻み込んだ伝承石から学び、多くの知識とそれぞれの運命と役目を幼い頃から刻み込まれていた。


 ルーナは、大賢者シェスターの遺伝子を継承し、幼くして既に大賢者シーベルの許嫁である。逆にセイラは、シーベルの遺伝子を受け継ぎ、シェスターの許嫁になる様に、遺言で決められていた。そして、彼女たちの運命は、予定通り、ゆっくりと回り始めた筈だった。


 彼女達が生まれてから半年、そんなある日事件が起こったのだ。強力な空間魔法を駆使する魔法師によって妹のセイラが連れ去られてしまったのである。双子の聖女の運命の歯車は、別々に回り始めて行くのだった。




 時は流れ、ルーナは5歳になっていた。彼女は母親のメルティアによく似た可愛くも美しい少女に成長していた。魔法能力は凄まじいものがあり、自らの能力の制御が難しく、賢者シェスターの作った魔封装具を複数使用して生活していた。精神的にも、母親メルティアの残した、伝承石が母親代わりとなり莫大な知識と母親自体の記憶を受け継いでおり、既に皇女としてかなりの成長を遂げていた。




 一方連れ去られたセイラは、隣の大陸の小規模な魔法国家フランジアに連れ去られてきた。


 そこには、一人だけ空間魔法・高速化魔法を極めた若き天才魔法師がおり、彼がアンブロシアから自国の発展のために聖女であるセイラを攫ったのだ。


 セイラは彼によって偽りの過去を刷り込まれ、現在その魔法師の妹として育てられていた。


 フランジアは、貧困・弱小国家であったが、セイラが連れてこられてからは、急激な発展を遂げていた。


 一方でセイラ自身は、自らの魔力を抑えられず、毎日苦しみの中で暮らしていた。フランジアには、セイラの魔力を制御するための魔封具を作るだけの技術力は無く、セイラ自身の魔力制御能力に頼るしか無かったのだ。




 セイラは、フランジアではリーシェ・フランセシアの名前を名乗っていた。ルーナの様に生後の英才教育は受けていないが、母親の胎内でもかなりの記憶と知識を既に受け継いでおり、現在の状況に違和感を抱きながらも大人しく生活していた。


 「ねぇお兄ちゃん?私だけなんで背中に羽根が生えてるの?」


 「それはね、リーシェが生まれつき天使様の加護を受けて生まれてきたからなんだよ。」


 「いつも夢を見るんだ。私とよく似た女の子が私に会いにくるの。お母さんも一緒で、とても綺麗なんだよ。」


 「きっと、リーシェに翼をくれた天使様なのかもしれないね。」


 「後ね、綺麗なブルーグレーの瞳の王子様が私を呼んでるの。」


 「うーん、悪い人かも知れないから、気をつけようね。」


 「王子様なのになぁ・・・」


 朧げながら、アンブロシアにいた頃の記憶が、セイラの頭をよぎるのであった。




 セイラを攫った、魔法師はラーズ・フランセシア。17歳の賢者にして、無属性魔法の天才で、魔剣士としての才能もかなりのものであった。


 彼は、侯爵家の跡継ぎで若くして両親を無くし、爵位を継いで現在に至っている。


 フランジア王国は、魔法国家とは言え魔法師の質も決して高くない。国王も凡庸な人物で、国力・生産力も低く、同じ大陸内でも亡国の危機に陥っている国であった。


 ラーズは、この国の宰相を任されていたのだった。




 セイラは、頭の整理はついていなかったが、小さい頃から一緒にいてくれたラーズに関しては、特別な感情は持っており、唯一心を開いていた。


 溢れ出してくる魔力を制御する苦痛もあって、決して明るい性格とは言えなかったが、それでもラーズと一緒のときはよく笑い甘えた。ラーズもセイラを単なる政治の道具とは考えていなかった。




 そして、フランジアが順調に国力を伸ばす中、周辺国のゴルドラ王国とシエラベール公国の2国は虎視眈々と、フランジア王国を狙っていたのだ。


 ゴルドラとシエラベールは、同盟を組み、最小限の被害でフランジアを手に入れようと考えていたのだった。


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