第2話 大剣の価値(後)-4
「あの武器屋の男、カレン様と親しくしていた者ですね……」
グロイツェルは、今日の競り市のために持ち出していたお金を取りにギルドの人間が集まる場所に戻っていた。そこには、競りの開始前にカレンと共にいた男たちも揃っていた。
「ほう、カレンの知り合いなのか……。なかなかおもしろい人だったな、彼は」
そう言ったところでグロイツェルは周囲を見まわした。
「そのカレンは、ここにはいないようだが?」
「グロイツェル様が競りの会場に入った辺りで出ていきましたよ。この場は任せると仰っておりました」
「ふむ……。相変わらず自由の度が過ぎているな……」
コインを数えながらグロイツェルはひとつ、大きなため息をついた。
◆◆◆
グロイツェル氏との取引は無事に終わった。いつの間にか黄昏時となっており、徐々に競りの会場からも人が退いていく。周囲にあったテントも片付けに入っており、先ほどまでの喧噪が一変して寂しさを感じさせるものに変わっていた。
大剣は50,000ゴールドで売れた。そこから15,000引いた35,000、さらに半分の17,500ゴールドが今回の私の取り分だ。さらにその内の半分はラナさんに支払う予定だ。それでも思っていたよりずっと大きい収入になった。
ハンスさんは32,500ゴールドの収入、元々30,000ゴールドで手に入れた大剣だったのを考えると2,500の利益、さらに競りへの手数料も考えると利益はほとんどなかった。しかし、15,000ゴールドでも売りたいと言っていたのを考慮するとずっと良い結果になったといえる。
帰りの電車内でハンスさんは延々と、さすがオレの見込んだスガさんだ! と繰り返していた。間接的に自分を褒めてもいるのだろうか、と皮肉めいた考えが頭に浮かんできたが言葉にせずしまっておいた。
最寄り駅で降りてからハンスさんとは別れた。また酒場に行くから、と言っていたが今日もこれから来るつもりなのだろうか。私は少し速足で酒場に戻った。
日は完全に沈みかかっていた。酒場はすでに開いていたが、忙しくなる時間にはまだ早いようだ。ラナさんはいつもの笑顔で私を迎えてくれた。胸を張って彼女に今日の報酬とその額を得るに至った経緯を話してみせた。彼女は口をUの字に曲げて笑い、ときおり驚いてみせたりもして話を聞いてくれた。
「今日はお疲れかと思いますが……、このままお休みになりますか?」
「いいえ、酒場の仕事はまた別です。ここに住まわせてもらっている以上はしっかり働きますよ!」
本音を言うと身体の疲れはあった。
ただ、成果が出たあとの心地よい疲れだ。疲労とは裏腹に心は満たされている。酒場の仕事はお客との会話も多いので、心が元気であるのが大事だ。
エプロンを身に付けると、料理をしているブルードさんに今日の出来事とお礼を言った。ブルードさんは、自分の話した内容が活路を開いたことに驚いたようだった。
「スガさんの本職もしっかり結果が出てなによりだ! こっちの仕事もよろしく頼むぜ!」
そういって大きめのグラスに並々お酒を注いだ後、いつものとこだ、というように指差して見せた。そこにはカレンさんがすでに座っていて、こちらを見ている。
いつもの来店よりはずっと早い時間だ。グラスを彼女のところへ持って行き、周りに他のお客が見当たらなかったので話しかけてみた。
「今日はいつもより早いんですね?」
カレンさんが実はとても偉い人だということを知ってしまったので、話し方がぎこちなくなってしまう。
「なんだ、スガ? 私が剣士ギルドのお偉いさんと知って遠慮してるのかい?」
いきなり見透かされて、慌てていると彼女は続けた。
「なにも気にしないでいい……、今まで通りでいいよ」
「はい。ですが、同じギルドの方は私の接し方を気にしていたようでしたが――」
「スガはなにも気にしなくていい。ギルドではお金もらってその分の仕事してんだからねぇ、多少は偉ぶったりすることもあるさ。けど、それ以外のとこでは関係ないよ。ここではただの常連さ」
「そう言ってもらえると助かります」
「当たり前のことだよ。私のいる『ブレイヴ・ピラー』は確かに規模も大きいし名の通ったギルドだ。けど……、別にそれが偉いわけじゃない。一部の連中はそこを勘違いしてるんだよ。組織を離れたら誰だって『ただの人』だよ」
そう言ってグラスを傾け、7~8割りほどを一気に飲んでしまった。
今日は仕事がうまくいった。得られた報酬も大きい額だ。それ以外にもカレンさんがどういう立場の人か知ることができた。そして、おそらく同等の立場にいる「賢狼」と呼ばれる人とも関わりをもった。
収穫と疲労、ともにとても多い1日だった。今日はきっとよく眠れるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます