第2話 大剣の価値(後)-2

 競りは屋外のひと際大きなテントの下で行われた。出品される商品を囲むように人が集まっている。後ろ側にはまわれないようになっているので、大勢の人たちで巨大な半円を描くようになっていた。

 ハンスさんは武器屋としての商品の仕入れと大剣の売りを兼ねてきているので、次々に出てくる商品の説明と値段を聞いては、高いとかこれはいらないとか独り言をぶつぶつと言っていた。


 商品の価値、価格に関しては正直あまりわからなかったが、実演販売を見ているようでおもしろかった。周囲の人が、出てくる品や付けられる価格で沸き立つのもなにかスポーツ観戦をしているような興奮をもたらしてれる。


 そして、ついにハンスさん出品の例の大剣がお目見えしたのだ。司会者が紹介の文言を大きな声で読み上げる。



「続いての商品は、こちら……遺跡の深部で発見され一度は高値で買い取られた大剣ですが――」



 会場がざわめくのが感じられた。


「この度、新たな使用価値を見出されて再出品となりました! なんとこの大剣、実はそもそも武器ではないというのです!」


 さらにざわめきが広がっていく。


「その用途は剣士の基礎中の基礎、安定した構えを身体に叩きこむ修練の器具だったのです! 武器としてはあまりに不釣り合いなずっしりとした重量がそれを物語っております!」


 会場のあちこちで、本当なのかと疑問を投げかけるような声が聞こえてくる。司会はそれを抑えながら進行していく。


「さて、この意外な使い道を得た大剣の開始の価格ですが……、なんと! これは強気な設定額でございます!」



「本当に……、この額で買手がつくのか、スガさん?」



 ハンスさんが小声で問いかけてきた。価格設定は彼の了承を得て決めた額だ。それでもやはり本当に買手がつくのかと不安になっているようだ。それもそうだろう。



「まずは50,000ゴールドからです!! さぁ、いかがでしょうか!?」



 会場のざわめきがひと際大きくなった。ただそれは、そんな額面で買うやつがいるのか、といった反応がほとんどだ。中には笑い声や罵倒も混ざっている。



「さぁさぁ! この大剣……と呼んでよいのでしょうか、50,000ゴールドです! 皆様いかがでしょうか!?」



 誰も名乗りを上げる気配はなかった。一定の時間が立てば不成立でこの場は流れるルールになっている。



「50,000ゴールドです! おられませんか!?」



 時間がゆっくりと流れていく。ハンスさんは祈るような顔で周囲を見渡している。だが、挙手する者はどこにもいない。先ほどのざわめきから一変、会場は司会の声だけが響き渡り、静寂が支配するようになっていた。



 ――そして……。



「お時間です! 残念ながら不成立で、次の商品の紹介に移らせていただきます!」



 ハンスさんの大剣は、買い手がつかずに競りは終わってしまった。


「ああぁぁ、そりゃあそうだろう……。武器でもないものに50,000ゴールドなんて――」


 ガクッと肩を落としたハンスさんは、少ししてから私を睨みつけてきた。


「スガさん! あれだけ自信ありげだったから信用して言う通りにしたっていうのに……、これなら普通に武器として出品したほうがよかったよ!」


「あの重さ、切れ味から武器として使えないのは明白です。それを武器として出品するのは顧客を騙すようなものです」


「だからってバカ正直に、武器ではなく修練の器具と紹介して、その価格が50,000ゴールドって誰が買ってくれるっていうんだよ!」


 怒りをぶつけるハンスさんを涼しい顔で見ながら私はこう言った。


「大丈夫です、ここまでは想定しておりました。ここからが本番です」

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