第2話 大剣の価値(前)-5

 例の大剣は競りに出品される運びとなった。この競りの日は、酒場を手伝えそうになかったのでラナさんに相談してみる。



「しっかり稼いできてもらったらボクはなにもいいませんよ?」



 彼女からは優しいようでプレッシャーのかかる言葉をもらえた。とりあえず、競りには無事に参加できる運びとなった。


「お店はボクとブルードさんでなんとかしますよ? それより競り市ですと城下の中心街に出るんですよね?」


「ええ、その予定です」


 この酒場やハンスさんの武器屋がある場所は、住んでいる城下町でも中心から外れたところにある。一方、競りの会場は、城下町の中心で行われる予定だ。

 私が土地勘のない人間ゆえにラナさんは、子どもをはじめて遠足に送り出す母親ように心配してくれた。


「帰りが遅くなるようでしたら、近道せずに大通りから帰ってきてくださいね? 最近はいろいろと物騒な噂も耳にしますから」


 きっと切り裂き魔のことを言っているのだろう。


 酒場でも最近この話題が多かった。その時、ふいに先日のカレンさんとの会話を思い出した。切り裂き魔の話のとき、ラナさんは大丈夫みたいなことを言っていたような気がする。実はラナさんも剣術に長けていたりするのだろうか……。


 見た目からはまったく想像できないが、カレンさんも筋骨隆々ではない。この世界の人たちの能力は見た目では図れないのかもしれない。


「はい、帰りは気をつけます。ところで話は変わるのですが、ラナさんは剣とか扱えたりするんですか?」


 彼女はきょとんとした顔で私を見つめた。そして、ほんの少しだけ首を傾げる。小鳥のような仕草だ。この人は一挙手一投足に可愛さが詰め込んである。


「包丁とかナイフならちょっとは扱えますけど……。どうかされたんですか?」


 ラナさんは右手をグーにして上下に振って見せた。野菜を切る動作だろうか。やはりこの人に限ってはそういう世界に無縁そうだ。


「いいえ、カレンさんがラナさんなら夜道にひとりでも大丈夫みたいなことを言っていたもので、実は剣術の達人だったりするのかと思いまして……」



 私は冗談半分に先日の話をした。


「カレンとボクは付き合いが長いですからね、時々おかしなことを言うんですよ。あんまり真に受けないでください?」


「なるほど、そうなんですね」


 たしかにラナさんとカレンさんは、店員とお客というよりは女友達のような距離感で接している。お互いに冗談が通じる仲なのだろう。そう思うと微笑ましくなった。

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