第12話 カイゼル~追放、決意~

 意識を取り戻した俺は回りを見る。俺の部屋だ。外が明るいという事は今は昼くらいか。起き上がろうと体に力を入れると右腕から激痛が走った。


 「……夢じゃ…なかったか…」


 肘の上から先が無くなっている。包帯からは血が滲んでいるという事は傷はまだ塞がっていないのだろう。

 どのくらい時間が経ったのか。シャルテ、メリル、コリンの3人はどうなったのか。俺はこの先どうなるのか。知りたい事がいくつかある。行動したいところだが腕を失った際に血を流しすぎたのか体がうまく動かせない。


 「…どう…するかな…」


 脈と同じ感覚で腕が痛む。片腕…利き腕を無くしたのはあまりにも大きい。日常生活も今まで通りには送れないだろう。


 「……起きたのね」


 「母さん」


 開けっ放しの入口から母さんが入ってきた。憔悴しているのは見間違いではないだろう。


 「父さんを呼んでくるわ。貴方にこれからの話をしなきゃいけないから…」


 「…わかった」


 母さんが部屋から出ていった。泣いていたのは…俺のせいだろうな。息子が性犯罪者とか母親からしたら汚点でしかない。俺は後先を考えてなかったなぁ…


 「…カイゼル。お前には選択肢をやる」


 「……」


 親父は入ってくるなりそんな事を言い出した。まあ、この家の汚点だからな。さっさと綺麗にしたいだろうよ。


 「…一つはこの村に留まり、狩人になる道」


 「…片腕じゃ無理でしょう」


 「もう一つはこの村から追放されて一人で生きていく道だ」


 「………追放されてどこに向かえと?」


 「知らん。お前が決めろ。どこへ向かおうとどこで力尽きようとお前の勝手だ」


 二つの選択肢…どちらを選んでも近いうちに命を落とす気がする。この腕では狩りなんてできないだろうし…他の町に行っても仕事があるか怪しい。まあ、顔だけはいいから男娼とかならできるかもしれないな…


 「他の町に…腕を治す方法とかありますかね?」


 「お前の体は魔法が効かないらしい…最高級ポーションなら治療も可能かもしれないが…作成できる薬師は少ないだろうからとても高価だろうな」 


 「魔法が効かないというのは?」


 「お前には回復魔法の効果が出なかった。鑑定も効かない。もしかするとそういうスキルなのかもしれん」


 回復魔法も鑑定魔法も効かない…つまり避妊で使用した生活魔法も効果がなかったって事かよ。最悪なスキルだな。男娼とか無理だわ。


 「お前の腕を切り落としてから4日経っている。メリルとコリンはお前の子供を孕んでいたから村から追放した。行商に頼んで隣町まで送ってもらったよ。シャルテは残ってこの村で子供を育てるそうだ」


 「……そう…ですか…」


 たかが火遊びだったのに…3人には悪い事したなぁ…何やってんだよ…前世で自分がされて最悪だって知ってたのに…3つ…いや、ウチとベイガンを合わせたら5つの家庭を壊しちまった……本当に嫌になる…


 「村に残っても村の中で命を狙われる可能性がある。もうお前を守ってやる事はできない…」


 親父が俺を守ってくれてたのは知ってる。勇者が他の町で生きていくのは難しい。今となってはこの村で生きていくのも難しくなってしまった。自業自得だが。


 「…村を…出るよ。…本来ならこの村で罪を償うべきなんだろうけど…」


 こんな事になっても俺はまだ生きたいらしい。腕が治る可能性があるのは最高級ポーション。行商がこんな田舎に持ってくるような品ではないだろう。ならある場所に行かないと手に入らない。


 「もし…腕を治せたら帰ってくる。恨まれて当然の事をしたんだ殺されるかもしれない…それでも何か償わなきゃいけないって…思うから」


 さっきから考えが上手くまとまらない。思った事を口に出している感じだ。


 「…そうか。ならば好きにしろ。これからは一人で生きていけ」


 「ああ…父さん。母さん。今までありがとう。馬鹿な息子でごめんなさい」


 母さんはさっきからずっと泣いている。俺が一人で生きていけないとわかっているのだろう。


 「少ないが餞別はやる。出るなら夜中にしろ。勇者への当たりは強いが負けるなよ」


 「ああ、今晩、出るよ」


 父さんが部屋から出ていった。母さんは泣きながら俺を抱きしめて「ごめんね」と何度も謝ってくる。悪いのは俺だ。母さんが謝る事なんか一つも無い。





 深夜になるまでに簡単な荷造りをした。親父は収納袋を俺にくれた。容量は小さいが荷物をあまり持てない俺にとっては非常にありがたい。簡素な野営の道具と数日分の食料。水袋などが入っている。玄関に行くと父さんと母さんがいた。


 「行くのね」


 「ああ。今から出るよ」


 「…皆の前では言えないが、元気でな。お前の無事を祈っている」


 「もし…落ち着いたら手紙をちょうだいね」


 こんな俺に対して優しすぎる両親。今なら親父が腕を切り落とした理由もなんとなくわかる。あの時、俺を庇ったりすればクレイドに殺されていたかもしれないからだ。

 目に見えて罰を与える事で俺を生かしてくれたのだろう。


 「父さん。母さん。行ってきます」


 「ああ」

 

 「行ってらっしゃい」


 家を出てまっすぐに北の入口に向かう。番兵がいるが引き留められる事はなかった。俺が出て行くと親父から聞いてたのかもしれない。


 村を出て数時間。街道を道なりに行けば3日ほどで隣町に着くらしい。

 カイゼルとして生まれて19年。俺は今までこの世界が現実じゃないと思っていたのだろう。3人と遊び感覚で関係を持ったのもそれが原因な気がする。親父に腕を落とされた事でここは現実なのだと認識できた。今から改めても遅すぎる。だが、何か償わなければいけない。マイナスからプラスにできなくてもマイナスを減らす事はできるはずだ。

 この世界でカイゼル・ヤマトとして俺は生きる。前世とか関係ない。愛してくれた両親の為に…俺が壊してしまった幸せの為に…泥を啜ろうが残飯を漁ろうが生き延びて罪を償ってやる。


 

 



 

 

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