第8話 村長
「簡単に言おう。お前の息子がシャルテに手を出して孕ませた。もうマークと結婚させる気は無い。二人が暮らす村に住みたくないので俺達は村を出る。以上だ。質問はあるか?」
「………すまんがもう1度最初から頼む」
「お前の息子がウチの息子の婚約者を孕ませた。鑑定で確認済みだ。間違いない。嘘だと思うなら後で見ればいい」
「……わかった」
「不貞を働くようなバカがいる村になんか住めるか。シャルテも同罪だ。マークとは結婚させないし、俺達一家はこの村を出る」
「一家で出るって…お前達がしていた狩りや薬の調合はどうするんだ!?」
「俺達はできる事をしていただけだ。狩人が足りないなら増やせ。薬が作れないなら行商から買え」
「そんなに簡単に狩人が育つ訳が無いだろう!?薬にしても病にかかってから買いに行ったのでは間に合わん!!」
「狩人や薬師を育てなかった村長の責任だろう?」
「………できる者が育つまで村を出るのは待ってくれんか?」
「お前の息子とシャルテを村から追放するならいくらか猶予をやるが?」
父さんの提案を聞いて悩む村長。母さんとアカネからお茶のおかわりを頼まれたので淹れてくる。父さんも村長もお茶飲まないなぁ。お茶請けも持っていこう。
「それは…無理だ。この村だからカイゼルを守ってやれる…勇者であるアイツが他の街や村に行ったらどんな目に合うか…」
「だろうな。まあ、やってる事は過去の勇者達と大差無いが」
「……」
「権力や魅了の魔眼で好き放題しすぎて今では『勇者』である事が犯罪者みたいな扱いだからな。冒険者をしている時に何人か見たが…肉壁兼荷物持ちみたいな感じだった。犯罪奴隷より酷い扱いだったぞ」
「勇者とはいえ大切な一人息子なんだ…」
「俺達の大切な一人息子はお前の息子のせいで結婚潰されたんだが?」
「……すまない」
「本当なら八つ裂きにしてやりたいところだ。マークが穏便に済ませたいって言うから俺達が村を出る事にしたんだ。黙って行かせろ」
「…わかった。気遣い感謝する」
「今晩出る。明日には家ごと消えてるから説明は頼んだ。一応、マークが冒険者になりたかったからって理由はくれてやる。シャルテの腹はまだ目立たないが、後でマークの子とか言われても面倒だ。あの二人はさっさとくっつけるんだな」
「………」
普段はあまり喋らない父さんがこんなに話すとは…母さんは「パパカッコイイ」とか言ってニコニコしてるし。アカネはまたお茶のおかわりをせがんできた。動きが可愛いのですぐに淹れにいく。
「マークは…どう思ってるんだ?」
村長も考えがまとまっていないのだろう。あろう事か俺の気持ちを聞いてきた。父さんの気配りを台無しにするような行為だと思う。
「……俺はシャルテが好きでした。半年後の結婚も楽しみで…普段の何気ない会話でも愛しくて…。俺の知らない事を教えてくれるカイゼルの事も一番の友人だと…」
俺自身、考えたくなかった。だから他人事のように話を聞いて会話に入らないようにしていたのだ。
「この村の事も好きです。村の人達の事も…皆、優しくて…」
「…それなら出なくても…」
俺が残りたいと言えば両親も我慢して残ってくれるだろう。二人は俺を愛してくれている。
「昨日、鑑定が発現した時にシャルテのお腹の子供を見た時にどうしたらいいかわからなくなりました。幸せな未来が想像できなくなり、今までの日常を信じられなくなりました」
「………」
「俺は二人に会う事はできません。きっと傷つけてしまうから…」
「………」
気付けば母さんが横に立って何も言わずに手を握ってくれていた。
「でも、会わずに村を出ればいつか遠くから二人を祝福できる気がするんです。多分」
「……そうか。カイゼルが本当にすまない事をした。二人の未来を壊した罪は私が償わせる事を約束しよう」
「村長さん。今までありがとうございました。二人の事はお任せします」
村長さんに頭を下げる。あまり接点はなかったが、特に嫌う理由も無い。俺からしたらカイゼルの父親で村の偉い人くらいの認識だった。初めて個人として向き合った気がする。
「この村に来て二十年近くになるか…。長い間世話になった」
「お世話になりました」
父さんと母さんも頭を下げた。村を出る者としての筋を通しているのだろう。
「こちらこそ。ベイガン一家の多大な貢献に感謝する。我が愚息の行いによりこのような事態を招いた事、誠に申し訳ない。こちらは私に任せてくれ。お前達の旅路に幸あらん事を…」
目上には間違いないんだろうけど…貴族ってこんな感じなんだろうか。めっちゃ偉そうですね。
「って訳だ。夜逃げの為の家族会議するからさっさと帰れ」
「う、うむ。邪魔したな?」
拉致されて追い出される村長さんがちょっとかわいそうでした。
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