第6話 夜逃げ計画

 用事をこなして帰宅したがまだ昼前。しかし、両親はまだ戻ってないらしい。道具屋に行くついでに旅に必要な物を買っているのだろう。きっと。多分。

 帰ってきたら昼食が用意されてたら嬉しいよね。今日は仕事してないからあまりお腹は空いてないかもしれない。簡単に食べられるサンドとスープでも作ろう。

 サンドってのは昔の勇者が伝えた異世界の簡単料理らしい。パンに具材を挟むだけ。言われてみれば簡単だけど最初に作るのって大変だよね。パンの種類や挟み方で呼び名が変わるらしい。バーガーとか。ロールとか。

面倒だから我が家では全てサンド。我が家ルールは絶対。

 とりあえずパンをスライスして皿に並べる。具材は適当に野菜を茹でたのとか肉を焼いたので。果物も少し切っておこう。

 野菜の芯とかはアカネにあげる。アカネは嫌いなものはほとんどない。流石に石とか土は食べさせないけど普通に食べる気もする。雑草とか毒草も食べるし。

 スープは適当に形の悪い野菜や解体の時に出た小さめの肉を使って作る。味付けは塩のみ。素材の味で勝負。しばらく放置で完成。



 昼食の準備を終えても二人は帰ってこなかった。様子を見に行くべきか。考えたくなかったけど暴れてるかもしれない。

 いざとなったら一戦もあり得るかもしれないと思って部屋に装備を取りに行こうとしたが…気配察知で家に向かってくる気配を感じた。


 「ただいま~」


 「ただいま」


 「お帰りなさい。昼ご飯できてるよ」


 少しスッキリした感じの二人が帰ってきた。なんでだ?鑑定しにいっただけだよね?


 「お昼~。お腹空いてたから嬉しいわ」


 「サンドか。たまには家でサンドもいいな」


 「森だと匂いが強いのは持ち歩けないからね」


 食卓にスープを運んで食前の祈り。肉と大地の恵みに感謝です。


 「果物のサンド?面白いわね」


 「果物のサンドはデザートになるかと思って」


 「肉も種類や味付けが違うんだな」


 「いろいろ挟んで試すのも家だからできる贅沢だよね」 

 

 アカネに肉を挟んだサンドをあげる。皿にのったサンドをチビチビと食べるアカネ。気に入ったのだろう。マズかったら速攻で丸呑みにするはずだ。


 「で、思ったより遅かったけど…暴れてないよね?」


 「ああ。道具屋ではずっと貼り付けたような笑顔で堪えてたぞ」


 「すっごく頑張ったわ。パパ~。褒めて~」


 「ちゃんと我慢できて偉かったな。鑑定してた時はヒヤヒヤしたが」


 「あの二人の子供に間違いなかったから…本当は暴れたかったわよ…」


 「でもちゃんとマークとの約束を守ったじゃないか」


 「お母さんだもん。マークが悲しむ事はしないの」


 「二人ともありがとう。やっぱり見間違えじゃなかったんだね…」

 

 なかなか危なかったらしい。父さんがいなかったら張り倒してただろうなぁ…


 「ええ。残念だけど私が見ても同じだったわ」


 「まあ、お前の事だから疑ってはいなかったが。一応な」


 「母さん。この村で鑑定持ちって誰かいる?」


 「私とマーク以外だと…村長だけのはずよ」


 「村長さんにはちゃんと説明しなきゃいけないか」


 「ああ。後から挨拶に行くついでに事情を話せばいいだろう」


 「息子の不貞でこんな事になったんだから文句言ってもいいわよね?」


 「ほどほどにね。村長さんもまだ知らないだろうからショック受けるだろうし」

 

  話してるうちに食事を終えたので食後のお茶を準備する。ハチミツ入りのお茶は母さんとアカネ用。俺と父さんは渋い味わいの普通のお茶だ。


 「午後から村長の家に行って、今日の夜に村を出るぞ」


 「村の人達が寝静まるくらい?仮眠が必要ね」


 「後の事は村長に丸投げして夜逃げか。自分で説明できないから仕方ないけど…」


 「気楽に家族旅行だと思えば良いのよ。この村も良い村だったけど…マークはまだ若いから。いろいろ見て回るのも貴方の為になるわよ」


 「俺達もここにくるまでは冒険者だったからな。王都に知り合いもいるぞ。20年前だから生きてるかは知らないが」


 「父さん達の昔の知り合いか。父さん達の昔の話とか聞いてみたいな」


 「……いや、それはやめとけ」


 「…そうね。やめておいたほうがいいわね」

 

 なんでだ。ウチの両親は過去になんかやらかしたのか?怖くて聞けないんだが…

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