第5話 旅支度…?
「ん~…」
いつもの朝。とはいかないか。昨日の家族会議で決まった事をやらねばならない。
父さんと母さんは道具屋に向かうだろう。表向きはポーションの卸売り。本当の目的はシャルテの鑑定。俺を疑っている訳ではないだろうけど俺の鑑定は昨日発現したばかり。俺自身も混乱してたから仕方ない。見間違いならそれで……見間違いであって欲しいな…
アカネをプニプニして着替える。俺は何すればいいんだろう。準備とか言ってたけど母さん曰く
「家ごと収納すればいいじゃない」
って事で荷造りはいらないらしい。母さんの収納さん凄い。
って事でフリータイム?旅立つ前に挨拶とかしたいけど言って良いのかわからない。とりあえず武器の手入れ…あ、新しい武器とかもいるのかな?後で鍛冶屋行こう。
懸念すべきは鑑定か。俺と母さん以外に持っている人…誰だろうか。俺は母さん以外知らない。誰かいるならその人がシャルテの子供に気付くかもしれない。説明する必要がある。母さんが鑑定持ちを把握してるかもしれない。
アカネを肩に乗せて部屋を出た。
「父さん。母さん。おはよう」
「ああ。おはよう」
「おはよ~」
父さんは朝食を作ってくれてるみたいだ。いつもなら狩りに出ている時間。道具屋に行かなきゃいけないから今日は狩りには行かないのだろう。
母さんはテーブルに突っ伏して半分寝てる。基本的に手のかかる人。父さん曰く
「そういうところも可愛い」
らしい。夫婦仲が良くて羨ましい。ああ、本当に羨ましい…
夫婦仲で思い出した。バツイチのランドさんに肉を持っていく約束してたなぁ。遅れたけど後で渡しておかなきゃ。
「ほら。できたぞ。起きなさい」
「ん~。食べさせて~」
「仕方ない。ほら。あ~ん」
「あ~ん。」
朝食を一緒に食べる機会はあんまりないからね。まあ、朝っぱらから胸焼けしそうなくらい甘々なのもたまにはいいと思う。
シャルテとこんな感じの甘々夫婦になれるって思ってたんだけどなぁ……未練しかないわ。まだ好きだし。
「父さん。肉ある?ランドさんが欲しいって言ってた」
「ん?解体場に血抜きだけしてある解体前の猪と兎があるぞ」
「俺がやっておくね」
「道具屋から帰ってきたら手伝おう」
「大丈夫。アカネとやるからすぐ終わるよ。」
「そうか。なら頼んだ」
「パパ~。あ~ん」
「わかった。わかった」
徹底的に甘やかすらしい。強面の父さんが家でこんな感じだなんて村の皆は知っているのだろうか。昔からこんなの見てるから怖いとか思った事ないんだよなぁ。
「じゃあ、バラしてくる。母さん。道具屋で暴れないでね?」
「ん~…。そうだったわね。鑑定してこなきゃいけないんだったわ」
「俺も行くから大丈夫だ。問題ない」
父さんの言葉が逆に不安になるのはなんでだろう。大丈夫…だよな?母さんは寝起きでポンコツだし…鑑定持ちの事は後で聞くとしよう。
解体場で絶句。見慣れた光景とはいえ真っ二つの猪が吊ってあるとかどうよ?父さんも狩人のはずだけど毛皮剥ぐとか考えてないよね?そもそも大剣ってどうなの?
兎は…破裂?殴ったのか踏みつけたのかわからないけど胴体が潰れてる。まあ、肉の部分はそこそこ原型留めてたから大丈夫ですけど。
父さん流の狩りに疑問を抱きながらも解体終了。父さんはこういう細々した作業は苦手らしい。料理は得意なのにね。不思議だね。
解体した肉を小分けにして水洗いした大きい葉で包む。この葉には防腐効果がある。
皮は使えそうなところ以外は内蔵と一緒に処分。アカネにお任せする。血で汚れたところはアカネが綺麗にしてくれた後に生活魔法の浄化をかける。
この浄化は神聖魔法の浄化とは異なる魔法。アンデッドに使っても綺麗になるだけらしいよ?ゾンビも綺麗になるのかと聞くと腐肉が削げ落ちて綺麗なスケルトンになるらしい。不思議ですね。汚いのは腐った肉だけって解釈なんだろうか?魔物名はゾンビじゃなくてスケルトン(肉付き)が正解なんだろうか…。屍肉喰らい…グールはかけても変わらない。喰らう訳なのでグール自体に肉や内臓が必要なんですかね?知らんけど。
リビングに戻ってみると父さん達はいなかった。道具屋に行っているのだろう。ランドさんに持っていく肉を見繕って袋に入れる。今日も番人として村の入口にいてくれればいいけど…あの人はたまに巡回(サボり)に行ったりするからなぁ。
肉の入った袋を持ってアカネと一緒に外へ出る。入口まで3分。狩人は村の外が仕事場だからね。村の入口近くの家がいいよね。それなら帰り際にウチに寄ればいいだけなんだけど…ランドさんと父さんは基本的に仲が良くない。たまに腕比べという名の喧嘩したりしてる。だから俺が持っていく羽目になってる。
遠目に椅子に座ってボケっとしてる番人が見える。あのやる気のなさはランドさんだろう。
「ランドさん。おはよう」
「マークか。おはようさん」
「昨日持ってくる約束だったけどごめんね。いろいろあって忘れてた」
「お前がこないってのも珍しいからな。なんかあったんだろうとは思ってた」
肉の袋を渡す。猪の肉の塊と兎の肉が少量だ。
「これは何の肉だ?」
「猪と兎。父さんが狩ってくれたんだ」
「流石だな。マイトは狩人ってか戦士だと思うが」
「父さんの狩りって肉しか見てないからね」
「真っ二つになった猪を引きずって持って帰ってきたってのは聞いた」
「猪が突っ込んできたのを真正面からぶった切ったんだろうねぇ」
「まあ、気配察知を使って獲物を追いかけてるんだろうから狩人って言えなくもない」
「察知範囲が異常だからね。ランドさんもだけど」
「範囲広けりゃ動かなくてもいいだろう?番人にゃちょうどいい」
「意欲があるのかないのかわからない」
「あるわきゃねぇだろ?俺だぞ?」
「あ~。そうだね。さて、俺はもう行くよ。鍛冶屋行かなきゃ」
「おう。わざわざありがとな。マイトにも礼を言っといてくれや」
ランドさんと別れて鍛冶屋へ。鍛冶屋は北側の入口の近くだ。南側の入口から北の入口まで約15分くらいで着く。小さな村だ。東の柵から西の柵まで25分かかるけど。長方形だからね。東と西は入口いらないらしい。使う人いないから。カイゼルの家は村長の家なので村の中央にある。肉の注文があれば届けたりするけど基本的に行く事はない。
とか考え事してたら鍛冶屋の近く。近くにある道具屋からよくわからない威圧感を感じるけど気のせいだろう。母さんは暴れないって約束してくれたし。
鍛冶屋の扉を開くとやるディラン(ランドさんの息子・14歳)が店番をしていた。ランドさんと違って人懐っこい少年だ。3歳差ある俺より身長が大きい。個人差だ。気にしない。
「ディラン。おはよう」
「マークさん。おはようございます」
「ちょっと新しいナイフが欲しくてね」
「投げ用ですか?それとも解体用?」
「両方かな。投げ用はいつもより小さいのが欲しい」
「奥からも持ってきますね。少々お待ち下さい」
展示されている以外にもナイフがあるらしく店の奥へと消えていった。
鑑定さんをオンにして店内を見渡す。
品質Bのロングソード品質Cのロングソード…
同じロングソードでも品質がBだったりCだったりする。見た目はほぼ同じ。何が違うのかと思ってジッと見てみる。
ロングソード品質B 耐久B 切れ味B
ロングソード品質C 耐久B 切れ味C
切れ味が違うらしい。使ってみないとわからないですね。仕上げの研ぎの差だろうか?
ロングソードを見比べていると奥からディランが戻ってきた。手に持った箱には鞘に入ったナイフが十数本入っている。
「奥にあったのはこれくらいですね」
「いろんな形があるね。皮剥ナイフもあるのか」
皮剥ナイフは鈎状のナイフだ。肉の間に刺し入れて引っ張って剥いだりする。使いこなすと便利そうだ。
「狩人さんがたまに買いにきますね。形状的に折れやすいですから」
「一つ買ってみよう」
「ありがとうございます。こちらの細い針状のナイフ。投げ用にいかがです?」
「こんなのもあるんだ…毒とか塗って投げるタイプ?」
「そうですね。携帯するならかさばらないと思うので使い道があると思います。威力は通常のナイフより低いですし、投げるのはコツがいると思いますが…」
一つ一つを丁寧に説明してくれる。この歳で商品の知識があり、接客も丁寧。とてもランドさんの子供とは思えない。
「うん。これも5本お願い。さっきの皮剥ナイフと合わせて幾らかな?」
「皮剥ナイフが銀貨2枚。こちらは5本で銀貨3枚。合わせて銀貨5枚で如何でしょう?」
「思ったより安いね。その値段でお願いするよ」
「お買い上げありがとうございます。またのご利用をお待ちしてますね」
ナイフを布で包んで渡してくれる。
また…か。また来る事は無いだろうなぁ…と思いつつディランに別れを告げて店を出た。
外に出て道具屋のほうを見てみる。まだ威圧感を感じたので母さん達がいるのだろう。かなり長時間いる気がするが怖いので先に帰る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます