第2話 鑑定さんでいろいろ見てしまう
悪鬼の森から帰る途中に薬草や毒草を鑑定しながら集めてみた。パッと見は同じなのに品質にB~Eの差がある。鑑定さん凄い。
気のせいかと思ったが範囲が徐々に広がっているようだ。最初は1メートルくらいだった気がするが今は3メートル先の薬草まで鑑定してる。雑草いらないって思ったら雑草の文字見えなくなった。鑑定さん凄い。
目に付く薬草を全て集めてたら背中のリュックがパンパンになってた。薬草採取だけで暮らせるなぁ。売りに行こう。
ゴブリンと交戦した場所から1時間。村の南側の入り口に着いた。村の回りには堀と木の柵がある。魔物が人を、動物が農作物を狙ってくるからだ。中に入るには北か南の橋を渡るしかない。橋には常に1人は番人がいる。今日はやる気のないランドさん(35才バツイチ嫁募集中)が担当らしい。
「お。マークか。お帰り」
「ランドさん。ただいま」
「今日はアタリだったか?」
「ゴブリン5体。ハズレだね」
「ハズレかよ。肉が食いたい気分だったんだがなぁ…」
「父さん達がとってくるでしょ。今日は張り切ってたから」
「あ~。なら期待できそうかな」
「猪を狙うって言ってたから大丈夫だと思うよ」
「楽しみにしとくぜ。お前もお疲れさん」
「うん。ありがとう」
会話をしながらランドさんを鑑定していた。
ランド・ルーター ヒューマン 魔槍士
レベル276 槍術A 魔槍技A 生活魔法D
身体強化B 風魔法C 歴戦の猛者B
気配察知A 心眼B チャージA
やっぱり俺が普通くらいなんだろうなぁ。戦う事が仕事のランドさんはレベルが高かった。
「さっきから鑑定使ってるのか?」
「えっ!?わかるの?」
「あ~。なんか中を見られてる感じ?俺は気にしないがあまり人に使うんじゃねぇぞ」
「いや、さっき覚えたばかりでずっと発動してるんだよね…」
「ん~。帰ったらイリーナに制御を教えてもらいな。あいつも使えるだろ?」
「ああ、母さんに教えてもらえばいいのか。ランドさん。ありがとう」
「おう。鑑定取得おめでとさん」
「ありがとう。父さんが帰ったらランドさん用のお肉もらっておくね」
「おう。頼むぜ。夜は酒場にいるからな」
ランドさんに別れを告げて道具屋へ。村の施設は少ない。他の町に繋がっているのは北側の入口だ。道具屋。宿屋。鍛冶屋。酒場。これらの施設は北側の入口付近にある。
冒険者ギルドが無いから冒険者が長期滞在する事も少ない。200人いる住人はほぼ顔見知りだ。
道行く顔見知りに挨拶しながらしばらく歩くと道具屋に着いた。幼なじみにして婚約者のシャルテが住む家でもある。今の時間なら店番でもしてるかもしれない。
「こんにちは~」
挨拶しながら店内へ。村の外から買い付けた塩や農家の野菜。狩人の肉などはこの店で販売されるのでいつも他の客がいる。外貨は基本的に行商がくるこの店か旅人が利用する宿屋が収入源だろう。
「あ、マークいらっしゃい」
「やあ、シャルテ。今日は薬草がいっぱいあるんだ。買い取りをお願い」
シャルテが満面の笑みで迎えてくれる。可愛い。超可愛い。
「薬草?群生地でも見つけたの?」
「いや、鑑定スキルを手に入れてね。見分けやすくなったから集めてきたんだ」
「鑑定!?マーク、凄いね。私も欲しいなぁ」
「商人には欲しいスキルかもね。まあ、でも俺が見れれば良くない?」
「え?」
「いや、その、家族になるし。必要な時は俺が見れば良いかなって…」
「そ、そうだね。うん。その時はお願いしようかな…」
顔を赤くしながら下を向くシャルテ。可愛い。まだオートで頑張ってる鑑定さん。シャルテの事もいろいろ見せてくれる。
シャルテ・サフナ ヒューマン 商人
レベル19 交渉D 生活魔法F 料理C 棒術E 薬学E
レベル19か。レベルが低いからかスキルも少ないなぁ。ゴブリンが複数いたら負けるレベルな気がする。棒術はホウキとかハタキとかそんな感じの道具を使う時に補正が入るらしい。武器なのか?薬学は母さんから教わったのかな。
「シャルテ。護身程度できるようにトレーニングしない?」
「トレーニング?」
「いざという時に俺が側にいられればいいけど、いない時は自衛しなきゃいけないから」
「ん~…。運動は苦手なんだけどなぁ。」
「まあ、考えておいて」
「わかった……さて、薬草12束で銀貨4枚と銅貨8枚で買い取るけどいい?」
話しながらも査定してくれてたらしい。薬草は10本で1束。1束で銅貨4枚。12束で銅貨48枚になる。銀貨は銅貨10枚で1枚なので計算は合ってる。
「うん。それでお願い。今日は稼げたなぁ」
「毎度ありがとうございます。薬草ばかり持ってこられても困るから毎日とかやめてね?」
「わかったよ。たまににしとく」
「はい。こちらをお確かめください」
そう言って木製のトレイに載せた銀貨4枚と銅貨8枚を差し出してくる。
………確認完了。間違い無くある。
「買い取りありがとう。今日は帰るね」
「うん。マーク。アカネ。またね」
両手でアカネをプニプニして挨拶。
シャルテに見送られて帰路に着くが、頭の中はかなり混乱していた。
先程のやり取りの時に見たシャルテの鑑定は特に問題ない。だが、シャルテのお腹に???という文字があり、気になった俺はそれをじっくりと見てしまった。
カイゼル・ヤマトとシャルテ・サフナの子
店内でポーカーフェイスはちゃんとできていただろうか。
お腹に子供って事はそういう事をしたって事だよな。
シャルテは俺の婚約者なのになんでカイゼルと…?
浮気…だよな?婚約してるし。
シャルテ…いつも通りだった…
俺とはキスすらしてないのに…
カイゼルはカッコイイからなぁ…身長高い(182cm)し。
やっぱり俺みたいな目つき悪いチビ(151cm)なんかより…
止まらない負の思考。いつの間にか足は止まり棒立ちになっていた。
引き返してシャルテを問いただす?
無理だ。浮気を肯定されたら俺が何するかわからない。
カイゼルを探して確認してみる?
同じ理由で無理だ。俺は2人を傷つけたくない。
何も気付かなかった事にして過ごす?
確実に俺の精神が保たない。結婚する予定の半年後にはシャルテのお腹は大きくなって露呈するだろう。お腹が大きくなり始めたら鑑定でばれる。俺にはよくわからないが来月とかには大きくなり始めていてもおかしくないんじゃ?
既にお腹に子供がいる以上、俺と結婚はできないだろう。
俺がこのままこの村にいるとシャルテとカイゼルは妊娠がバレた時点で非難されるだろう。なら俺が今すぐ村を出たら…?
婚約者に捨てられたシャルテ。それを支えるカイゼル。結婚してもおかしくない。
「よし、村を出よう」
かなりショックではあったが我ながら冷静だと思う。いや、違うな。逃避…逃げたいのだ。
もはや俺が望んだ未来は手に入らない。ならばあの2人だけでも……
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