第34話 宇宙とヒーローと暴力と③
思いがけない丸山先生の発言に、一瞬時が止まる。
不可思議というものは、この空間内にマサルがいる以上実際に起きうるものだということは証明されている。
だが、それでも"この子本当に超能力使えるんですよー"と保護者のような人が急に言い出したところで胡散臭さしか感じられない。
俺が困惑していると、しかめっ面をしていた結城さんがジトッとした目を向けながら先生に
ボソボソと話しかける。
「……何、先生。コスモテレパシーは置いといてってどういう意味。もしかして、先生も……私の言ってることデタラメだと思……うぐっ……ひっく……」
「いやいやいや! ち、違うぞ結城くん! 僕はもちろんコステレを信じてるし、もう疑うだとかそんなことしたことないし! いや、ほんともう最高! コスモテレパシー超最高っ! 万歳っ!」
フォローの仕方雑だな、先生。
最高だとか万歳とか、今必要なのはそういう語句じゃないだろ。
「……そう。わかってるならいいの。ふふっ、コスモテレパシーは最高で万歳。間違いない」
コイツもコイツで何言ってんだかわからないが、とりあえず満足されたようだ。
チョロいにも程がある。
結城さんが機嫌を直したのを確認した先生は、俺を手招きしつつ結城さんから少し離れる。二人で背を向けた状態になり、先生は小声で話し出した。
(金之助くん。正直僕もね、コスモがどうとか何言ってるのかわからないし、結城くんの発言の大半は思い込みだってこともわかってるんだ)
(でも、さっきは未来視ができるって……)
(それもまた事実でね。結城くんはね、僕の友人の娘さんで子供の頃から知ってるんだよ。そして、何度も彼女の力を見てきているんだ)
(……マジですか?)
まあ、丸山先生が彼女を庇う為に嘘をついているようには見えないし、言いぶりからして盲信的に全てを信じているようにも聞こえない。
なんか、信じざるを得ない空気になってきたな。
(とりあえず、さっき言ったように信じる、信じないは任せるけど……結城くんの目の前で力を否定するような発言はなるべく避けてほしいんだ)
(いや、まあ俺も意地悪で否定とかはしませんけど……彼女、あまりにも空気読めないというか……)
(それは僕もよくわかってる。でも、結城くん泣き喚くと色々と大変なんだよ……頼む、金之助くん)
先生は目を血走らせながら必死に訴えてくる。
なんか、ほっとくと土下座してまで頼みこんできそうな目をしているな。ちょっと、恐い。
なんにせよこの人も色々と苦労されている事はよくわかった。仕方ないが、ここはひとまず俺が大人になるとしよう。
それに、一つきちんと話を聞いておきたいことがある。
俺はため息を軽くつき、先生に「わかりました」と一言返事をする。
そして、気乗りはしないが結城さんに近寄り問いかけた。
「結城さん、ちょっと聞きたいんですけど。危ないから縄ほどくなって言ったのは、俺が殴られる未来が見えていたってことですか?」
「……見えていたというよりは、必然的にそうなりうる未来を知っていただけ。宇宙の理を知ることは、私にとって――」
「あ、そういうのいいんで。俺バカなんでわからないんですよ。すいませんが、わかりやすく教えてもらっていいですか?」
結城さんは、コステレ論を遮られたことに若干不貞腐れつつも、下手に出た俺に対して仕方なさそうに話を続ける。
「……彼女に自分で制御できない暴力性があるのは感じていた。縄をほどいた時点で、その黒い物が周りに危害を及ぼすような気がしたからそのまま拘束して様子を見ていた。なのに自由にしようとするから危ないと思った。それだけ」
さっきまでの意味不明な言葉とは違い、なんとなく本心で話していることを感じられた。
話を聞く限り、未来視とかいう超常的な能力ではなく、恐らくこの人は異常な程に勘が良いのかもしれない。第六感というものだろうか。
そして、そんな結城さんの力を丸山先生が何度も見てきているというのなら信憑性は更に増す。
むしろ、"豚がタバコ吸ったり、パチンコ打ったりしますよ"って言われるよりはよっぽど不可思議のハードルは低いのかもしれない。
……となると、とりあえず俺がしないといけない行動は一つか。
「……俺のこと心配して止めてくれてたのに、なんか色々とすいませんでした」
謝る俺に対し、結城さんは無表情で見つめてくる。
……いや、無表情ではない。よく見ると必死に口角があがりそうになるのをプルプルしながら堪えている。
勝利が嬉しいなら笑え。お前は笑ったら死ぬ呪いにでもかかってんのか。
「……まあ、どうやら自分の愚かさにやっと気づいたようね。猛省しなさいホモ」
ああ、ダメだ。やっぱり頭ひっぱたきてえ。
俺の方まで怒りと悔しさでプルプルし始めちゃうわ。
そんな俺たちのやり取りを大人しくずっと見ていた小柳さんが、不意に申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……なんにせよ、結局は私が悪いんですよね。本当になんか、私の存在自体迷惑というか……もう、外を出歩くこと自体やめたほうがいいんですかね。ごめんなさい……」
小柳さんの目にはまた涙が溜まっている。
トラブルメーカーであるといえば嘘ではないものの、小柳さんが悪意を持って起こした訳でもない。
そこまで落ち込まれると、心が痛むものがあるな。
「いや、小柳さん。そんな気にしないで下さいよ。ほらっ、今回はたまたま俺のこと殴っちゃっただけで……」
「だって、前回も殴ってるし。私また暴走したちゃったこと凄い反省したのに、結局今回も――」
「ブブギョッ!」
俺と小柳さんの間にいつの間にか入っていたマサルが、勢いよく声をあげた。
なんだ? 会話を止められたのはわかるが。
「ブギギ、フゴッ!」
……何言ってるかわからん。
同様に小柳さんも、マサルが何を言っているのかわからず困惑している。
とりあえず、"通訳お願いします"と言わんばかりに俺は丸山先生にアイコンタクトを送る。
その視線を受け取った先生は軽く首をかしげるが、すぐに俺の意図に気付いてくれた。
「あ、ああ。言葉通じないんだっけ? マサルさんね、"みんなで、海行こうぜ!"だって」
「……は?」
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