第29話 この黒髪大和撫子、一騎当千だってよ⑤
本来であればあまり関わりたくないデンジャラスなお方だが、マサルの件がある。
自分だけがおかしいのではないかという思考はずっと自分の胸に引っかかっていた。
そんな中現れた同調者というのは、この先俺の支えになっていくのは間違いないだろう。
少なくとも最低限の関係性は築いていきたいものだ。
「じゃー、とりあえず今日は解散しよっか! あーし、早くマー君連れて帰ってやらなきゃいけないことあるし!」
毎度毎度、早く家に帰って何をするというのだろうか。
それが終わると、マサル聖人のように人が変わるからな。洗脳レベルで。
そんな疑問を目に宿しながらルイを見つめていると、言いたいことが伝わったのか、ルイは少しはにかみながら答えた。
「やだなー、金ちゃん。わかってるし! 今回は身体はってあーしのこと助けてくれたこともあるからね! ムチだけじゃなくてちゃんとアメも与えつつ……少しずつ少しずつ痛みの中に愛情を感じさせて……ふっ、ふふふふふ」
俺は一言もそんなこと言っていない。
俺の目線から何を感じとったというのか。
軽くトリップしているルイに戸惑いながらも、小柳さんは何か意を決するように必死に声をあげた。
「あ、あの! 解散する前に……その、連絡先を。私達、その……お友達ですから……!」
「あー、ごめんごめん! ちょっと拷問方法考えながら興奮しちゃってたわ!」
拷問って言っちゃったよ。
ルイは、ポケットから自分の携帯を取り出す。
小柳さんも携帯を取り出すが、あまり慣れていないのかルイから色々と連絡先の交換の仕方を教わりながら、辿々しく携帯を触っている。
「ほい、これで完了! いつでも連絡してね!」
「あ、ありがとうございます! 一生の宝物にしますね!」
連絡先が宝物って、これまた珍しいな。
小柳さんは子供のように目をキラキラ輝かせながら無垢な笑顔を浮かべている。
「……嬉しいです。私、その……友達と連絡先交換するなんて初めてで。この町に来てよかったです」
そう話しながら何度も携帯を愛おしそうに眺める姿を見て、どこか親近感を抱いた。
考えてみれば、背景は違えど俺もつい最近までは友達なんて一人もいなかったもんな。
その気持ちはよくわかる。
「あ、金之助さんも教えてもらっていいですか?」
「……え、俺も?」
「ダメですか?」
「いや、まあむしろ俺も教えてもらいたかったけど。なんか、意外で……」
「何より怪我させちゃってますから。良くならないようなら病院行ってください。治療費とかは全部お出しするんで、遠慮せず連絡して下さいね」
ああ、そういうことね。
感情のコントロールと人付き合いが下手なだけで、根本的には良い人なのかもしれない。色々と不思議な人だ。
その後小柳さんと連絡先を交換し、ひとまず俺達は解散した。
ルイは意気揚々と今だに気絶しているマサルを抱えながら、「またねー! あ……スタンガンでも買っていこーかな……ふふっ……」と呟きながらそそくさと去って行った。
きっとスタンガンは護身用の為だろう。
そう自分に言い聞かせるが、電撃を浴びせられているマサルが簡単に想像できてしまい、それ以上考えるのはやめにした。
さすがにこんな顔とメンタルで散歩の続きを行えるはずもなく、そのまま帰路を辿る。
家に着くと、毎度の如く疲れ果てた身体を布団にダイブさせると、スッと眠りについた。
"ティロン"
そして、これまた毎度の如く携帯が鳴り目が覚める。まだ中々開かない瞼をこすりながらも携帯を確認すると、マサルからメッセージが入っていた。
また、この流れだよ。とりあえず生きていたことに安心はするが、あまり内容は確認したくはないな。
まあ、そういう訳にもいかず気乗りしないままメッセージを開く。
『こんばんは。金之助様の不幸を利用し、女性と関係性を築こうとした卑しい豚でございます。今度お会いした際には、存分に蔑み、罵声を浴びせ、靴底で顔を踏みにじって下さいませ。それが唯一私のような豚にできる贖罪の……』
途中まで読んで携帯を閉じた。
なんだよこの文章。いつも絡みづらいけど、これはまた別の意味で反応に困る。
とりあえずいつもの如く既読スルーし、まだ痛みの残る患部を冷やそうかと立ち上がると同時に、再度携帯が鳴った。
確認すると、今度は小柳さんからメッセージが入っていた。
『こんばんわおけがだいじょうぶですか。あとたすけてくだちい、おねえさまからたくさんめっせーじきてかえせない』
この人本当に携帯の扱い慣れてないんだな。必死に打ちこんでるのが目に浮かぶわ。
そして、案の定ルイの投爆の被害にあったか。相変わらずのコミュニケーションの一方通行だ。
『こんばんは、金之助です。怪我は良くなってるので大丈夫そうです。ご心配ありがとうございます。ルイには、初心者なのであまりガンガン送らないよう伝えておきますね』
"ティロン"
『あ、ありがてえ』
カ○ジかよ。
なんかどうにも憎めないんだよな、この人。必死に吠えるポンコツな猛犬を見ているようだ。
なんにせよ、俺の携帯も随分と騒がしくなった。こんな小さな機械に、人との繋がりが詰まっているというのは不思議なものだ。
そして、きっと今の俺はあの時の小柳さんと同じような顔をして、携帯を眺めているのだろう。
上がった口角が頬の腫れの痛みを思い出す。
また浮かれすぎないようにしなければと心に刻みながら、冷却シートを求め立ち上がるのであった。
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