第27話 この黒髪大和撫子、一騎当千だってよ③
「マー君! 金ちゃん! 大丈夫!?」
「ルイ……?」
「……あんた誰ね? 玄関の鍵閉まっちょったはずよ?」
「ハッ、この程度の鍵なんか10秒ありゃあ開けられんのよ。あーしのピッキング術舐めんじゃないわよ」
なんとも嫌なヒーローだな。
この人、愛と友情の為なら平気で犯罪行為極めるからな。
「ルイはなんでここに……?」
「マー君のGPSで場所は丸わかりっしょ。あとは、ついでに仕込んでおいた盗聴器で会話聞いてて、ヤバいと思ってのりこんだってワケ!」
本当に嫌なヒーローだな。マサルには一切のプライベートはないことが判明したわ。
って、そういえばマサル……! 自分の事に必死で忘れてたが、大丈夫かよアイツ!
「ルイ! それよりマサルが!」
「そんな焦らなくても大丈夫よ、金ちゃん」
「いや……なんかヤバいの喰らってたけど……」
「首と胴体が繋がってればマー君は平気。普段の私からの攻撃を考えれば、かすり傷程度っしょ」
むしろ普段どんな攻撃してんだよ。
マサル泡吹きながら確実に気絶してるけど、これがかすり傷なら中々やべえぞ。
「まあ、それでも私の彼氏と親友に手出したのは許せないよね。あんた、覚悟しなよ?」
ルイは取り出していたメスを構えながら部屋の中に入り込んでくる。
しかし、ここだけ見ると金髪ギャルが刃物を持って強盗にでも入ってきたみたいだな。
助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、どっちが悪役だかわからなくなりそうだ。
「……物騒なもん持っとるね。でも、そんな刃物程度で私がビビるとでも思っちょる?」
どこぞの達人なのだろうか。普通の人であれば、他人が刃物を持ち出してきた時点で恐怖に怯え、パニックに陥る人もいるだろう。
しかし、小柳さんは顔色一つ変えずルイに交戦的な態度を示している。
「……金ちゃんは下がってて。この娘、なんかヤバいわ」
まあ、メス構えてるあなたも大概だが。
しかし、ルイとて女性だ。色々とぶっ飛んではいるが、生身の女の子であることには変わりはない。小柳さんの暴力性、破壊力を目の当たりにしている俺が指を加えて見ている訳にもいかないのだ。
圧倒的非力な俺が唯一出来そうなことは会話だ。とりあえず、話し合いで解決す……
「おんどりゃあああ!」
「死に晒せええええ!」
とかなんとか考えてる内に、おっぱじまっちゃったよ。どうしよう。
「タマとんぞ、こらぁ!」
「やってみーね! 三下がああ!」
何これ、ヤクザの抗争? そんな怒鳴り合う必要ある? 言葉のチョイスもだいぶおかしいだろ。
先に仕掛けたのは小柳さんであった。ゆらりと独特な動きを見せた後に、一瞬でルイとの間合いを詰める。
次の瞬間には、ひねりを加えた超速の拳がルイの顔面を捉えるが、ルイは瞬時に反応し紙一重で交わしつつカウンターに出る。
今度は無防備になった小柳さんにルイのメスが襲いかかるが、放った拳の反対の手がその凶器を軽やかに受け流す。
まさに一進一退。そして、間違いなく一撃でも喰らったら致命傷になりうる。
そんな、緊張感が二人を取り巻いていた。
とかなんとか実況している場合じゃないな。
何これ? 二人の動きが早すぎて目で追うのがやっとなんだが。とてもじゃないが、俺が入り込めそうな余地はない。
実力としては互角……いや、若干ではあるがルイが押されているのか。ルイの表情に余裕がなくなり、眉間にシワを寄せている。
「これで……終わりやけん!」
攻防の中で、ルイが明らかにバランスを崩す。その隙を突き、放たれた剛腕がルイの顔面に向かって一直線に伸びる。
「ルイっ!?」
「ブフゴッ!」
確実に被弾したと思われたその一瞬、ピンク色の物体がルイを庇うようにして間に割って入った。
「な……!?」
「ブフォ……」
マサル本日二発目の被弾である。目を覚ましたマサルは、ルイの窮地に即座に反応し飛び出したのだ。
なんとも勇敢なその豚は、ルイの代わりにその剛腕を身体に喰らい、またしても"ペチン"と情け無い音をたてて床に落下した。
思いがけない豚の行動に、小柳さんの動きが止まる。ルイはその一瞬を見逃さず、メスで小柳さんの首筋を捉えた。
「チェックメイト。これが、愛の力よ」
「くっ……」
その愛の源は二人の足元で、またしても泡を拭きながら転がっている。まあ、この程度ならかすり傷らしいし大丈夫だろう。
しかし、正当防衛だとしても血生臭いことはまずい。すでにルイのメス先からは軽く血が滲んでいる。
とりあえず、今この場をおさめられるのは俺しかいない。今度こそ俺の華麗な話術による和解を目指す時だ。
「ルイ! 気持ちはわかるがとりあえずメスを……」
「早く殺らんね! あとは敗者が死すだけ! 覚悟は出来とるよ!」
あー、もう。俺も頑張って口出してるんだから、ちょっとくらい話聞いてくれんかな。
何も出来ないままバトル始まって、決着ついて、処刑の時間が始まりそうだわ。
ルイはメスの手に力を込め、それを感じとった小柳さんは静かに目を閉じた。
「ちょっと待て、ルイ!」
みすみすと友人を殺人犯にさせられる訳もなく、俺は必死に呼びかける。
しかし、そんな俺の様子を感じとったのかルイは俺のことを一瞥し、"大丈夫だから"と目で伝えてきた。
ルイはメスを持っていた腕をおろし、そのままその凶器を袖に閉まった。
「……なんね!? 情けなんかいらんよ!」
「死ぬ時ってのはね、愛か友情に包まれてなきゃいけないのよ。少なくとも、そんな悲しい目をした娘の命なんて私は奪えないわ」
「な、何を言って……」
ルイはそのまま、小柳さんの頭を抱き寄せる。
豊満なバディに小柳さんの顔がうずくまり、その柔らかさに小柳さんの顔が一瞬にして赤く染まる。
「怖がらなくていいの。その瞳の奥にある悲しみごと、私が抱きしめてあげる。私達、お友達になりましょ?」
「と、ともだち……?」
「何にそんなに怯えているのか知らないけど、大丈夫。友達は絶対あなたの事を裏切らないから」
「……な、なんで。わ、私。またこんなこと……。ご、ごめんなさい。ご、ごめ……ぐすっ、うわあああん!」
小柳さんは、ルイの胸の中で恥ずかしげもなく声をあげて泣き出した。そんな小柳さんの頭を優しく撫でながら、ルイは何とも悪どい顔を浮かべていた。
この人、この状況利用して友達一人増やしやがったな。友達100人計画順調に進めちゃってるじゃねえか。
本当に何が起きてるのかわからないまま、よくわからない結末を迎えたが、とりあえずルイには感謝せざるをえない。危険をかえりみず助けに来てくれて、なんやかんや解決までしてくれた。
マサルもここまでついてきてくれて、身体をはってルイのピンチを救った。
反して、俺は結局何も出来なかったな。
相変わらずの自分の情けなさに、悔しさが募る。
俺は今だに言う事を上手く聞いてくれない足を必死に動かし、床元に転がっているマサルの元へ向かう。
「まったく……お前らカップルは最強だな」
本来は俺の役目ではないのであろうが、俺はマサルを抱き上げ膝上へと乗せた。
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