第20話 花飾りの豚

「マサル完璧見失ったけど……その……どーする?」


 タメ口全く慣れないな。っていうか、多分俺より歳上だよな? 

 女性ってだけじゃなく、歳上に敬語使わないって自分の中の違和感が凄いわ。


「あー、大丈夫。マー君の中にGPS仕込んであるから居場所は丸わかり! 便利っしょ!」


 いや、便利がどーとかじゃなく倫理的にどうなのよ。


 というか、中にって何。体内にってこと? 本当にこの人はさらっと爆弾発言するから、その内会話の中に"昨日一人殺ってきたから"とか挟んできそうで怖いわ。


「それで、マサルは今どこに?」

「ちょっち待ってねー……、あー、あれだ。多分この間のファミレスにいるっぽい。行くよ、金ちゃん」


 よりによってあのファミレスかよ。

 マサルもマサルで、あんな目にあった場所によく行けるな。あいつのメンタルどうなってんだ。


 颯爽と歩き出すルイに置いてかれぬように、運動不足な足に鞭を打ちつつ早足でファミレスへ向かうのであった。



◇◇◇



「いらっしゃいまー……あっ!?」


 ファミレスに着き、お出迎えしてくれたのは案の定あのお姉さんだ。


 しかし、様子がおかしい。笑顔で元気にお出迎えがモットーのお姉さんが、ルイの顔を見ると共に押し黙った。

 そして、コソコソと周りを見渡しながらルイに耳打ちをする。


「お客様……"いつもの"でよろしいですか?」

「ええ、お願い」

「今回の標的は……?」

「前回と同一」

「かしこまりました。丁度裏側のテーブル席が空いています。12卓になりますので、トイレ側から迂回しどうぞ息を潜めてお進み下さい」

「ふふっ、いつも悪いわね」


 ……なんだ今のやり取り。流れるように会話が行われたけど、ここ普通のファミレスだよね? あんたら、その筋のプロなの?


 俺が若干引いた目でルイを見ていると、何故か誇ったような顔をして俺に小声で説明し出した。


「ここ、私の行きつけなの。前回はマー君だったけど、それ以前から色々な人の尾行・監視に使わせてもらってるのよ」


 色々な人って……お亡くなりになられた先代のご友人達の事だな。いや、死んではないか。

 前回全くの違和感なく隣のテーブルから

出てきたのはそういう訳か。店側もグルなら、マサルも気づかんわな。


 俺達はお姉さんの指示通りマサルの目につかないように迂回をしつつ、ひっそりとテーブルについた。

  12卓って言われただけで全くの迷いなくこのテーブルに来たけど、ルイはどれだけ把握してんだよ。店内の配置図覚えちゃってるじゃん。


 マサルは裏のテーブルにいるようだが、一切話し声は聞こえてこない。まだ待ち合わせの段階なのか、一人のようだ。


「あの……」


 俺が小声で話しかけようとすると、ルイさんは人差し指を自分の口元につけて"シッ"と合図をする。

 そのまま携帯を取り出し、超高速で文字を打ち込んだ後、画面を俺に見せた。


『ここからは筆談。あと、気配を消して。出来るよね?』


 出来ねえよ……と言いたいところだが、不本意ながら得意分野だ。

 俺のステルス性能は人類を超越しているからな。


 高校の時、"ウチのクラスは学年一の仲良しクラス"と思い込んでいた勘違いも甚だしい絆大好き人間共によって、文化祭の打ち上げ強制参加というクソのような法律が出来上がっていた。

 致し方なく参加したのだが、俺は終始誰とも話さず一匹狼を貫いていた。


 あえて孤高を示していたつもりであったが、流石にちょっと寂しくなった俺は隣に座っていた人に勇気を振り絞り声をかけてみたところ"誰?"と言われた為、"間違えました"と一言残し帰宅した。


 存在感がないどころか、クラスの一員として認識されていなかった事実に、"俺実はこの世に未練を残した幽霊とかなんじゃね?"と不安に思ったものだ。

 懐かしい、あの頃の記憶がよぎると共に少し胸が苦しくなる。これが若気の至りってやつか、俺も大人になったものだ。


『何泣きそうな顔してんの? 金ちゃん大丈夫?』


 どうやら少しトリップしていたようだ。気がついたらルイが困った顔をして必死に携帯の画面を見せつけていた。

 俺も携帯を使い、筆談に応じる。

 

『ごめん、ただの若気の至り』

『何言ってんの? とりあえず、金ちゃんは録音担当ね。証人も欲しいからマー君と小春とかいう泥棒猫の会話よく聞いておいてね』


 まだ全然状況わからないのに、もう泥棒猫呼ばわりしてるよこの人。


 しかし、録音担当と言われてもな。まあ単純に携帯を使えばいいか……それよりも会話をしっかり聞いておけという方が俺には難しい要求だ。


『録音はまあ適当にやっとくけど、話し聞いてても会話の内容の理解は出来ないかも』

『どゆこと?』

『マサルの言ってることがわからないんだよ。言葉に変換されないというか……ブヒブヒ言ってるようにしか聞こえないっていうか』

『何その特殊体質ウケる。あー、でも前にも似たような事言ってる人がいたな』

「……っ!? どこの誰!?」

「ちょっ、バカッ!」


 思いがけない情報に思わず声が出てしまった。物事というのは、マズイと思った時には大抵取り返しはつかない。


「フゴゴッ」


 どこか憎たらしい中年のオッさんのような豚の鳴き声が聞こえ振り返ってみると、マサルは身体を乗り出し仕切り越しにこちらを眺めていた。

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