第21話 花飾りの豚②
ようマサル奇遇じゃないか! ……などという言葉は通用しない事は明らかである。マサルは全てを察した目をしていた。
「フゴッ、ブヒプギッ……」
「……そうですよ、尾けてましたよ? でも、尾けられるようなことしてる方が悪いんじゃん?」
ルイ本当に最強だな。瞬時に開き直りやがった。それどころか、逆ギレの雰囲気を醸し出しつつ威圧的に開き直ってやがる。
しかし、それに対しても今日のマサルは冷静だ。狼狽える様子もなく、ルイに対して首を横に振りつつため息をついている。
普段であれば瞬時に逃走を選択し、涙と鼻水を撒き散らしながら必死に逃げていくマサルにメス達が襲い掛かる展開なのだが。
この落ち着きようは要するに……
「マー君! 浮気しておいて何その態度! 今日こそは絶対に許さな……」
「いらっしゃませー!」
「フゴゴッ、プギョッ」
ルイがブチ切れかけると同時に、お姉さんの声が響いた。
そして、客として来店した人物の声……いや、馴染みのある動物の声は間違いなく豚の鳴き声だった。
「お連れ様のテーブルはこちらになります」
「フゴッ……?」
その小さな身体は案内をしてきたお姉さんの身体でスッポリと隠れており、お姉さんが立ち去ると同時に姿を現した。
開けた視界の先にマサルだけでなく俺達がいたことに、"誰?"と言わんばかりに首を傾げていたのはやはり豚だった。
マサルと同様にミニブタだ。見た目としてはマサルよりいくらか小さいかという程度で、ほぼ見分けがつかない。
只、一つ違う点がある。その豚は申し訳程度の個性として頭に花の髪飾りをつけていた。
「……な、なにさー。もう、マー君ったら! それならそうと言ってくれたらよかったのに! あーし早とちりしちゃったじゃんー!」
ルイは殺気を纏ったオーラを引っ込め、瞬時にてへぺろスタイルに切り替える。
この変わり身の早さはさておき、ルイは俺を置いてけぼりにしたままある程度状況を理解したようだ。
「えと……どういうこと? この豚知ってるの?」
「やだなー金ちゃん! どう見てもマー君の妹さんっしょ! ほら、目元なんかそっくり!」
そりゃ似てるよ、豚だもんよ。
目元どころか、全てがそっくりだわ。髪飾りなかったら見分けつかんもん。
「小春ちゃんよね? いきなりごめんねー。あーしマサルとお付き合いしてる穂坂ルイです。こっちは金ちゃん! 本名は……なんだっけ?」
親友なんだろ、名前くらい覚えとけ。
ついさっきまで泥棒猫呼ばわりしていた小春ちゃんに、ルイは媚びへつらうようにニコニコと笑顔を向けている。
「……どうも、榊 金之助です」
「まあ、とりあえず座って座って! 好きなもの頼んじゃっていいから! あと、あーしのことお義姉さんって呼んじゃっていいから!」
ルイ、それは悪手だ。初対面の人物にいきなり義理の姉と呼べなんて言われるのは、割とドン引き案件だぞ。
小春ちゃんは俺とルイに"いつも兄がお世話になっています"とばかりに深々と頭を下げた。
マサルはというと、ルイの一方的な場の進め方にため息をつきなからも、この流れを仕方なく受け入れているようだ。こんなことは日常茶飯事なのだろう。
俺達はマサルが座っていたテーブルに移り、人間二人、豚二匹で座席に座る。
なんだ、この構図。ミニブタ飼ってる人のオフ会みたいになってるじゃねえか。
このよくわからん状況に困惑している俺に構わず、三人……もとい、一人+二匹は雑談を始めた。
「フゴゴッ、ブヒブヒ」
「フゴッ? プギップギャ」
「え、まぢ? それは意外ー!」
「プギャプギョッブヒョー!」
「そんな焦んなくていいじゃん」
「フゴゴッ、ブヒッ!」
「フゴゴッフゴゴップギョッ」
「なにそれ、ウケるー! ね? 金ちゃん」
ウケようがねえんだよ。カオスすぎるだろこれ。
今まで人間の方が多数だったからまだ会話の大筋は理解できたが、豚が一匹増えるだけでここまでわからんとは。
小春ちゃんに、全く喋らない陰鬱コミュ症野郎だと思われる前にちゃんと説明しておくか。いや、まあ陰鬱コミュ症野郎なんだけど。
「あの、先に言っておくけど。俺ちょっと小春ちゃんの言ってることがわからないんだよね」
「フゴゴッ……?」
「いや、うまく説明できないんだけどさ。マサルも含めて、君達豚の言葉が他の人達みたいにわからないというか……。だからマサルとは携帯のメッセージ使ってやりとりしてるんだよ」
「あー、さっきも言ってたねその特殊体質。まあ、特殊能力みたいな感じでカッコいいじゃん」
"え!? 豚の言葉わからないんですか! カッコいい!" とは絶対ならんだろ。フォローの仕方が雑すぎるわ。
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