第15話 この金髪ギャル、友達が欲しいってよ③

「あ、あのー。穂坂さん……」

「あー、ルイでいいよ? あんまり名字呼び好きじゃないんだよねー」

「じゃ、じゃあルイさん。さっきの、水の件は勘違いっていうか、俺達のいつもの冗談みたいなもので……。俺達会った時、このくだりをやらないと落ち着かないんですよ。友人故のじゃれ合いっていうか……ね?」


 どんな関係性だよ。

 毎回会う度にその絡みやってるとか、とんだキチガイだわ。


 しかし、マサルは満足そうに頷いている。ナイス言い訳とでも思っているのだろうか。

 ルイさんの顔見てみろよ、物凄いキョトン顔してるぞ。そりゃ、自分がブチキレてる最中にこんな訳わからん事言われたらそうなるわ。


「ねー、金ちゃん」

「はい!? そ、そうですよね! すいませんでした! 今すぐ靴お舐めしますね!」

「いやいや、舐めなくていいから。そもそも、さっき自分で友達ではないって言ってたじゃん。ここでマー君庇うのは、流石に良い人すぎるっしょ」


 ほら、バレた。

 しかし、怒って……はいないか?

 変わらず独特なプレッシャーを放ってはいるが、不思議そうな顔でずっと見つめられている。


 中身はアレだとわかってはいても、美人に見つめられると変な汗が出てくるな。悲しい童貞の性だ、致し方ない。


「さっきから、マーくんがテーブル下で携帯いじってメッセージ送ってるの金ちゃんでしょ? そんな苦し紛れの言い訳にのってあげなくてもいいって」

「ブッ、フゴゴッ! プギィ!」


 マサルは違うと言わんばかりに、鳴きながら首を横にふっている。


 もう色々と諦めろよ。お前が選ぶ事ができる二択は、このまま嘘を突き通して丸焼きにされるか、素直に謝罪をし丸焼きにされるかだ。

 俺は無様に逝くよりも、後者をオススメするぞ。


「ねえ、うるさいよマーくん。マーくんは大人しく炭火で丸焼きにされるか、グリルで丸焼きにされるかを選んで待ってればいいから」

「ブギョッ!?」

 

 やっぱり丸焼きだった。

 ルイさん目がマジだ。人間って一線を超えると、こんな目が出来るようになるんだな。

 目力だけで、マサルもう気絶しそうになってるじゃん。


 ルイさんはマサルにひと睨みきかせた後、俺の方を向き直しニコニコと笑顔を浮かべた。


「金ちゃん、あーしと友達にならない?」

「と、ともだちですか……?」

「そうそう。あーしさ、友達100人計画実行中なのよ。友達100人もいたらマジ楽しそうじゃん? 金ちゃんすごい良い人っぽいしさ! あーしの友達第一号になってくれないかな?」


 友達……。友達になろうなんて人生で初めて言われたな。

 しかも、男友達もいないのに、それをすっ飛ばして女友達だなんて。そもそも、女友達なんて彼女と同レベルで都市伝説だと思ってたわ。


 ……待て? その前に、俺の聞き間違いでなければ、スルーしてはいけない情報をさらっと言ったな。


「あ、あの。友達第一号って……?」

「あー、笑っちゃうんだけどさ! あーし、こんな感じで色々と声かけて連絡先交換したりするんだけど、なんでだかみんな連絡とれなくなっちゃうんだよね。心配して、電話100回くらいかけたり、メール1000通くらい送ったりしても、挙句の果てには着拒やらブロックやら。マジイミフじゃね? 仕方ないからあーしもSNS監視しつつ行動把握して、住所とかも調べあげて安否確認しに行ったりするんだけど、私の顔見ると悲鳴あげて逃げ出すんだよね。失礼な話しすぎて、マジウケる」


 ウケねえよ。想像以上にやべえヤツじゃねえか。

 こういう根本的に自覚ない人は、自分が逆に正義だと思って行動してるから尚更タチが悪い。

 正論に対して、常人ではあり得ない価値観の正論で返してくるから、言葉でのやり取りでは全く出口が見えなくなる。


 その結果、皆音信不通状態になるのだろう。

 さて、このヤバイお誘いをどうお断りしたものか……。


「いや……俺なんか友達になっても良い事ないですよ。全然良い人なんかじゃないし、思考は腐ってるし、外見もパッとしないし」

「別にいいよ、友達なら」

「……ほら、俺変態なんですよ。今だってルイ

さんの靴舐めたくて仕方ないし」

「まあ、いいよ? 友達だもん」

「……ドMなだけじゃなく熟女好きで、ストライクゾーンは70〜85歳くらいなんです。入れ歯で股間を殴られると興奮するんですよ」

「そんくらい何さ、友達でしょ?」


 まだ友達じゃねえよ。

 ダメだ。嫌われたいがあまり適当ぶっこいてたら、どんどんヤバい人間になってる。

 "友達ならオールオッケーっしょ!"状態のこの人には、こんな遠回しなお断りは通用しない。もっと、きっぱり言うべきか……。

 

 少し考え込みながらふと視線を前にやると、俺は目を疑った。

 ついさっきまで涙目で俺に助けを求めていたはずの豚が、いつの間にかテーブルからいなくなっていたのだ。


 急いで辺りを見回すと、マサルは出口へ向かって全力ダッシュしている途中であった。

 あの豚、俺を囮にして自分だけ逃げ出しやがった。今のタイミングでの逃亡は最低だろ。

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