第14話 この金髪ギャル、友達が欲しいってよ②
料理を置いて去っていくお姉さんの後ろ姿を見ながら、金髪女性は貼り付けたような笑顔を浮かべてマサルに呟く。
「へー、マーくん。美味しそうなの頼んだね。そういえば、さっきあの娘のお尻いやらしい顔して触ってたの、あーしちゃんと見てたよー? ほろ苦ときめきソースを、豚足血まみれソースに変えてみようかー?」
「ブギョッ!?」
マサル、逃げろ。震えている場合じゃない。
確かにとんでもないプレッシャーをかけてきているが、今動かなければ死ぬぞ。
生き死にっていうのは、一瞬の判断で左右されるんだ。早く動け。
「あれ、マーくん食べないのー? 美味しそうだから、あーし一口貰っちゃおうか……な!」
そう言いながら、女性はフォークを持ち勢いよく突き刺した。
いや、クレープにではない。テーブルにである。いやいや、標的はテーブルでもなかったのかもしれない。
その突き刺した1ミリ横にはテーブルに乗ったマサルの前脚があった。
ほんの少し手元が狂えば、確実に突き刺されていた現実に、マサルは完璧に思考がフリーズしピクリとも動かなくなった。
「あれー? クレープ刺すつもりが、間違っちゃったー。でも、あながち間違いじゃなかったかも。ね? マーくん?」
マサルは固まったまま、瞳から涙を流し始めた。気持ちはわかる。
元はといえばお前が全て悪いんだろうが、今は素直に同情してやろう。
マサルは言う事をきかなくなった身体を必死に動かし、どうにか自分の携帯をテーブルから手繰り寄せた。
そして、震える前脚で辿々しく何かを打っている。それと同時に俺の携帯にメッセージが届いた。
『おねがい、タスケテ』
おっさん構文どこいった。
というか、さっきまで怪しい水売りつけようとしていた相手によく助けを求められたな。
……しかし、まあ今はそんな事を言っている場合でもないか。
子供も多数いるこの店で殺人、もとい殺豚を起こす訳にもいかないしな。少しだけ助け船を出してやろう。
矛先がこっちに向いたら、速攻土下座して帰るけど。
「あ、あの。マサルの彼女さんですよね? 榊 金之助っていいます。マサルの友達……ではないけど、知り合いみたいな感じです」
「あー、ごめんね。あーしは、穂坂 ルイ。マサルの彼女……だったけど、もう少しで捕食者に変わるかも」
「ブギョッ!?」
さっきからマサル五回くらい心臓止まりそうになってるな。そろそろ、心臓発作で死ぬんじゃないか?
穂坂さんは、俯き顔をあげられないマサルを見て、仕方がなさそうにため息をついた。
「本当ごめんねー。コイツ、金ちゃんみたいな
人捕まえて、平気で騙そうとするんだよ。この水、ただの水道水だから信じちゃダメよ? 一回これで大ごとになっちゃってさー、マジ大変だったのね? その時、もうこんなことやめるって約束したんだけど……ね? マサル?」
「フ……フゴゴ……」
……いきなり金ちゃん呼びにしてくる距離感の近さはさすがギャルだな。
しかし、言っていることはまだマトモだ。
普通に会話ができる分、あの青髪コステレ野郎より幾分マシかもしれない。
そんな事を考えていると、いつの間にやら俺の携帯に新しいメッセージが入っていた。
『水のくだり、冗談だったことにならん?』
そりゃ無茶だ、豚よ。
本気で売りつけようとしてたじゃねえか。下手に誤魔化すと逆効果になるぞ。
『ほら、仲良い故のちょっとしたじゃれ合いだったみたいな方針でいきましょうか』
いかねえよ。連投してくんな。
しかし、マサルは涙を滲ませながらも、目の奥に微かな希望を灯らせ必死にこちらを見てくる。
……はぁ。そんな猿芝居を打ったところで突破口になるとは到底思えないが、それが絶望の中でやっと見つけた光だというのならばいいだろう。
生への希望を容赦なく踏みつぶすほど俺も鬼ではない。これが最後の助け舟だと思え。
まあ、矛先がこっち向いたら土下座しながら靴舐めて、犬のように服従のポーズをとりつつ謝罪を繰り返した後、帰るけど。
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