第12話 豚がシメられる5秒前
マサルは何もなかったかのように席に戻り、今度は隣の椅子に置いておいた自分のリュックサックの中をガサゴソと漁り出した。
何を取り出すのかと凝視していたが、マサルが手に取りテーブルに置いたのは何の変哲もないペットボトルの水であった。
いや、なんの変哲もないというと語弊がある。水であることには変わりないが、ラベルがおかしい。なんだ……? "幸せの命水"? ここまでに胡散臭い水見たことねえぞ。
「ブブギョ! フゴゴッフゴッ! ブブギョーフゴッフゴップギィ!」
「……何言ってるかわかんないんだって。悪いけど、携帯にメッセージ送ってもらってもいい?」
「フゴッ……」
あたかも、"面倒くせえな"というような顔をして、リュックサックから携帯を取り出しポチポチと文章を打ち始めた。
実は大方何を言っているかは予想できたのだが、まさか命を助けた恩人に対してそんなことはしないであろうという希望を持ちつつ、確認作業を行ったのだ。
自分の携帯が鳴り、メッセージが届く。
俺はなんとなくオチが見えながらも、そのメッセージを恐る恐る開いた。
『この水マジやべえんだって!(≧∇≦) これを毎日飲むだけで、なんと幸せ率が三倍に膨れあがるんだよヽ( ̄д ̄;)ノ←そりゃ、やばスギ笑 本当は絶対人には教えないんだけど、金之助は特別だから売ってやるよ(*⁰▿⁰*)』
だから、おっさん構文やめろ。
なんか内容が想像通りすぎて、逆にびっくりしたわ。なんだよ幸せ率って。
しかも、俺の場合幸せ0だから三倍になっても0だわ。完璧な無駄足だよ。
「……そんで、一本いくらよ?」
俺がジトッとした目を向けながらマサルに問いかけると、瞬時に携帯を打ち出す。この必死さも、胡散臭い。
『普通なら、一本一万円なんだけど……(._.) な、ななんと!? 金之助くんには、半額の五千円でお売りしちゃいますー(≧∇≦)←パンパカパーン♪』
こいつ完璧やりやがったわ。恩を仇で返すの例文となるレベルの行為を平気でやりやがった。
初めて会った時からクズだとは思っていたが、ここまでとは。
しかも気づいたら水10本くらい出し始めやがった。全部買わせるつもりか? 水で五万円儲けようとしてんじゃねえよ。
「お前、いい加減に……」
"バーン!"
俺が一言文句を言おうとした矢先、左の席から衝撃音が響いた。思いっきりテーブルでも叩いたかのような……。
何事かと振り向くと、テーブルの仕切りの上から、黒いグラサンをかけた金髪の女性が立ち上がり俺達を見ていた。
いや、見ているというか……睨みつけている。グラサン越しにでもわかるような殺気を灯らせたその女性を見て、マサルは顔を青ざめさせていた。
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