第11話 豚とお茶する5秒前②
メニュー表をみながら俺がくすぶっていると、マサルは当たり前のように勝手に呼び出しボタンを鳴らした。
普通は"決まった? もう呼んでもいい?"っていう暗黙のやり取りがある中、コイツはひと鳴きもしなかった。とんでもねえ自己中だ。
「……ひっ、ひっく。お、お待たせ……ひっく。しまし……ご注文……どう……ひっく」
お姉さん、何で君がきた。泣いちゃってるじゃんもう。
普通こういう時他の店員さんが来るだろ。こっちも気まずいから、変なガッツ見せなくていいって。
「フゴッ。ブブッフゴッ」
「えっと……じゃあサンドウィッチとアイスコーヒーで」
「ひっく……ご、ご注文繰り返させて頂きます。サンドウィッチとアイスコーヒー……イチゴ盛りクレープほろ苦ときめきソース、〜春のそよ風を添えて〜ですね……」
そんなメニューあった?
お前、散々イキり散らかした末に、そんな女子っぽいメニュー頼んでんじゃねえよ。
「それでは少々お待ち下さいませ……」
「フゴッ!」
「ひっ!?」
マサルが一声鳴くと、お姉さんは怯えた顔で声をあげた。なんだ? 呼び止めたのか?
さっきからなんなんだコイツ、いい加減にしろよ。客だからって、何してもいい訳じゃねえんだぞ。
流石に頭に血が登った俺は、マサルに一言物申そうと勢いよく立ち上がる。
だが、それと同時にマサルは急に椅子から降り、お姉さんの隣で立ち上がった。そして、励ますように前脚でポンポンと腰を叩きながら鳴き始める。
「フゴッ? フゴゴッ。ブブギョフゴゴッ」
「……!? あ、ありがとうございます。そ、そうなんです……私。その、気づかせて頂いて本当にありがとうございました……!」
……なんだ? 何を言った?
なぜ涙を流しながら、お礼を言い出してるんだ。これは、流石に気になる。
この状況本当に嫌だな。
英語と日本語で話されているようなもので、中途半端に片方の言っている事がわかってしまうと、会話全体の内容が気になって仕方がない。
「あの……何が起きたというか、何言われました? ちょっと聞いていなくて、状況がわからなくて……」
なんと問えばいいのか今いちわからず、アバウトな感じでお姉さんに聞く。
しかし、そんな質問にもお姉さんは笑顔を作り、涙を拭いながら答える。
「私……接客って笑顔振りまいて、元気よくやってればいいと思っていたんです。でも、本当の接客ってお客様が何を求めているかを感じとって、それに合わせて対応することなんですよね。こちらのお客様はあえて私を叱る事で、それに気づかせてくれたんです……。しかも、"まだ若いんだから頑張れ"って優しく励ましてくれて……」
なんでいい話みたいになってるの?
ファミレスの接客なんて、笑顔振りまいて元気よくやってればいいから。お姉さんのお出迎え100点満点だったよ?
あと、そこのスケベ豚。腰叩くフリして尻さわってんじゃねえよ。こっからゲス顔丸見えなんだよ。
「あ、あの……」
「あ! すいません、私なんか感動しちゃって……すぐにお料理お持ちしますね!」
お姉さんは焦るようにして、厨房に向かって行ってしまった。
軽く洗脳されている事を伝えたかったのだが、あの感じではもう何を言っても届きそうもないな。恐ろしいなこの豚。
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