第9話 この青髪少女、超能力使えるってよ⑤
「フゴゴッ!」
中々返事をしない俺に痺れをきたしたのか、マサルは先生に手渡した俺の連絡先を奪いとるように取りつつ、地面に着地した。
そのまま、小さなポーチから携帯を取り出し、俺の連絡先を勝手に自分の携帯に打ち込み出す。
もう豚が普通に携帯を持っていて、器用に使いこなしている事に対して今更驚きもない。
只、それ最近出たiPhoneの一番新しいやつじゃねえか。何で俺より数段良いもの使ってんだ。iPhoneも豚の顔面で顔認証するとは思ってなかっただろうよ。
「ブギギ! フゴッフゴゴ!」
「"細かい日時とかは夜にでも送るわ。俺も色々と予定があるもんでよ"だってさ」
先生が気を利かせ、何も言わずとも翻訳してくれる。
その心遣いは嬉しいのだが、俺の常識から見てしまうとやはり、"私、動物の言っていることわかるんで"と豪語するエセ獣医に見えてきてしまう。
別の常識に慣れるというのは大変なものだ。カルチャーショックとはこんな感じなのだろうか。
なんにせよ、今日はもう帰ろう。色々なことがありすぎて、本当に疲れ果ててしまった。細かい事はまた後で考えればいい。
「……じゃあマサル大丈夫そうなので、俺はそろそろ失礼しますね」
「あー、金之助くん。何か困った事があったらいつでもおいで。動物専門だが、人生相談くらいはのれるからね! なんせ年中暇だから! ハッハッハ!」
「あはは、ありがとうございます」
いい人だ。見た目はあれだが、こんなにいい先生なのに、この病院はなぜ過疎化しているのだろうか。
軽く会釈をしながら、出口に向かうために振り返ると青髪の少女が視界の片隅に入る。
結城さんは、目を閉じ、両手を空に掲げ、何かブツブツ言っている。嫌な予感がする。とても嫌な予感が。
関わらないように俺は歩みを早め、そそくさと外に出ようとするが、結城さんは「きたっ!」と叫ぶと同時に目を見開いた。
どうやら、きちゃったらしい。全オカルト民歓喜の瞬間である。
そのまま結城さんは切羽詰まった表情で近づいてきて、俺に耳打ちをした。
「……性病で苦しむビジョンが見えたわ。男色はいいけど、男性との性行為は気をつけなさい……」
ああ、本当に今日は疲れた。早く帰ってゆっくり休もう。
ここの利用者が少ないのは確実にコイツのせいだろうと察しつつ、俺は病院を後にするのであった。
家に着いた俺は、身体の欲望に従うようにそのまま布団に倒れ込んだ。
休日にパチンコに行っただけなのに、とんでもない一日になったものだ。
しかし、こんなにも人と会話をしたのはいつぶりだろう。疲れるが、あながち悪くもないな……
◇◇◇
"ティロン"
携帯が鳴り目が覚める。どうやら眠ってしまっていたようだ。
窓を見ると、外の景色は暗くなっていた。変な時間に昼寝をしてしまったものだ。
それにしても、俺の携帯が鳴るなんて珍しい。バイト先からのシフト変更の連絡だろうか。俺の連絡帳、店長と両親くらいだし。
携帯を開くとメッセージが届いていた。何の気兼ねもなく、俺はそれを開く。
『ヤッホー、マサルだよ(^^) 連絡遅くなってごめん遊ばせ!←お嬢様か笑 今日はまじサンキュー! 助かっちゃったの助だよん!←誰やねん(≧∇≦)爆笑 お礼も兼ねて、今度ご飯でもどうかにゃ? お返事待ってるよん♪』
……ああ、夢じゃなかったんだな。寝起きから中々かましてくれるじゃねえか豚よ。
とりあえずおっさん構文やめろ。あと、豚のクセに語尾に"にゃ"をつけるな。そこは素直に"ブー"つけとけ。
心の中でツッコみつつ、とりあえず文面では人語に変換されることを知り、少し安堵する。
まだまだ、俺の奇妙な日常は続きそうだ。
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